作家の読書道 第200回:白岩玄さん

『野ブタ。をプロデュース』で鮮烈なデビューを飾り、その後着実に歩みを続け、最近では男性側の生きづらさとその本音を書いた『たてがみを捨てたライオンたち』が話題に。そんな白岩さん、実は少年時代はほとんど小説を読まず、作家になることは考えていなかったとか。そんな彼の心を動かした小説、そして作家になったきっかけとは?

その1「読むことより書くことに興味」 (1/6)

――今回は「作家の読書道」、記念すべき第200回目です。

白岩:記念すべき200回目に申し訳ないのですが、実は、僕はそんなに本を読んでこなかったんです。隠さずに言うと、作家になるまでほぼ小説を読んでこなかったんですよね。小さい頃も、母親が図書館とかで紙芝居を借りてきて読むというのを延々やっていたらしいんですけれど、僕はまったく憶えていないんですよ。かなりの数を繰り返し読んだ、と言われているんですけれど。

――ふふ。そういう方がどうして小説家になったのか興味が湧きます。では小学校に入ってからも、本を読んだ記憶はあまりないのですか?

白岩:特に本に触れたという記憶はなくて。でも一時期、アガサ・クリスティーの小説にちょっとハマって、夏休みの間に読んだ記憶があります。でもまわりに「本を読め」という大人もいなかったし、家の中に本がポンと置いてある状況もなかったし、本好きの友達もいなかったんですよね。だから別に避けていたという訳ではなくて、ごく自然に生きていく中で本当に、触れる機会がなかったんです。

――どういう子ども時代でした? 何をして遊んだのか、とか。

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白岩:普通に外で遊んだりとか、家で友達同士でゲームをしたり。ゲーム世代なんです。それこそ小学校1年生の時にスーパーファミコンが出たので。まわりはゲームをしているか、スポーツをしているかという感じでした。
そういう子ども時代を過ごして、小説に触れないまま、書くことに興味を持ったんですよ。それが中学2年生の時だったと思うんですけれど、ギャグ漫画の『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!! マサルさん』というのがあって。「ジャンプ」に載っていてすごく人気で、その影響でちょっと面白い文章を書いて笑わせるというのが友達の間で流行って。それをやり始めて、周りから面白いと言われる回数が多かったので、どうやらみんなの中で自分が一番それが得意なんだという、ちょっと調子に乗ったところがありました。

――面白い文章というのは。

白岩:漫画のネタを別の形に作り替えるというか。文章といってもそんなに長いものではなくて、ちょろっとしたものを書いて、イラストもつけて、友人に回して笑わせるというものです。その延長線上で、たとえば学級日誌だったり、文集とかを書く時にウケを狙いに行くようになったので、中学2年で文体がガラッと変わりました。
中学3年生の時に親友だなと思う奴ができて、そいつがたまたまピアノやギターをやっていて、「詩を書かないか」と言われたんです。「書くの好きだしやるやる」と言って、そこでまた書いたりして。その時に友達が「お前、才能があるな」と言ってくれて、ますます調子に乗って(笑)。書くことにどんどんのめり込んでいって、たぶん高校2年生の時には、地元の京都で面白い文章を書かせたら3位に入るなと自分で思っていました(笑)。

――でも1位でなくて3位というのが、謙虚ともいえる。

白岩:まあ、3本の指には入るだろうという、根拠のない自信を持っていたんです。でもちょうどその時に、僕と同学年の綿矢りささんが、17歳で文藝賞を獲ってデビューするんですよ。『インストール』で。綿矢さんも京都出身なので周囲でも話題になって、それで僕も読んだんです。 僕は自分のことを面白い文章を書く人だと思っていたので、彼女の作品も小説というよりは文章として読んで「ああ、同世代にもうまい文章を書く人がいるんだ」という理解を得ました。ただ、「俺とはジャンルが違うから」と思うことでそこまで嫉妬することもなく(笑)、そこでも小説と正面からは出会わなかったんですよね。

――高校時代、何か文化的な趣味とか活動は?

白岩:映画かな。高校の時、本を読まない分、映画は結構観ていたんですよ。1週間に4本くらい。特に何かが自分の中に残っているということはなくて、「俺、映画いっぱい観てるぜ」って、かぶれていたんだと思います(笑)。

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