その1「冒頭から引きこまれるものが好き」 (1/7)
――いちばん古い読書の記憶について教えてください。
江國:「うさこちゃん」の絵本かな。最初の4冊の絵本の日本語版は、1964年が初版なので、私と同い年なんです(『ちいさなうさこちゃん』『うさこちゃんとうみ』『うさこちゃんとどうぶつえん』『ゆきのひのうさこちゃん』)。もうちょっと早かったら生まれてすぐに出合ってはいなかったので、ほんとうに良かったと思ってます。ラッキーでした、ふふ。
――「うさこちゃん」はミッフィーとしても有名ですが、石井桃子さんの訳の絵本も馴染みがありますよね。物心つく前からずっと絵本を眺めていたのですか。
江國:そうです。物体としての本を。本当に赤ん坊の時から読んでもらっていたらしいんですけれど、もちろんその記憶はなく。でも、文字を読み始める前から、あの四角の本を、表紙のうさぎを、ぬいぐるみと同じように好きなものにしていたというのが、たぶん最初の本の記憶だと思います。おもちゃの一種みたいに、身近にあったものでした。
あとは、マーガレット・ワイズ・ブラウンが文章を書いた『おやすみなさいのほん』とか、アンデルセンの『人魚姫』とか、センダックとか、ガース・ウィリアムズとか、日本の絵本では『花さき山』をよく憶えています。
――それらは読み聞かせてもらっていたのですか。
江國:そうですね。だから絵を眺めていたというよりは、読んでもらったお話を眺めていたんだと思うんですね。絵を絵として鑑賞していたわけではなくて、字が読めなくてもお話を眺めていた感じだったと思います。
――外で遊ぶアウトドアなタイプではなく、おうちで......。
江國:うん、まったくアウトドアとは違いましたね。母とデパートに行った時も階段で絵本を読んでいました。自分のものを買ってもらう時は嬉しいから売り場について行くんですけれど、家庭用品とか食品を買っている間は退屈しちゃうので、階段で本を読んで待っているという。
――小学校に上がって、だんだん文字が読めるようになると読むものも変わっていきましたか。
江國:私はたぶん、その移行がスムーズじゃなくて。字をおぼえるのは早かったらしいんですけれど、読み物の最初って、ちょっと我慢しないと物語の中に入り込むまで面白くないじゃないですか。最初の風景描写とかがあるところで飽きちゃっていました。そのくせ、自分の年齢よりもちょっと上のものを選びがちでした。タイトルに惹かれて図書館でいつも選んでしまう本が何冊かあって、でもいつも2~3ページで飽きちゃうんですよ。
最終的には、小学校1年生、2年生の頃、図書の時間という図書室で借りたい本を借りて読む時間には、いつも絵本の『わらしべ長者』を借りていました。それは何回読んでも面白かったから。でもそればかり借りていたら、先生に「もう少し難しい本も読みましょう」ってコメントを書かれちゃって(笑)。
――『わらしべ長者』は最初からすぐ物語世界に入れたんですね(笑)。
江國:そうですね。それに、それまでは買ってもらうのも読んでもらうのも『くまのプーさん』のような海外の本が多かったので、『わらしべ長者』をはじめて図書室で読んだ時の驚きというのがありましたね。「すごい!」って(笑)。