その1「小学生の時に出合ったミステリー」 (1/8)
――一番古い読書の記憶を教えてください。
呉:おそらくですね、小学校の低学年くらいの頃、学校の図書室で『三銃士』とかを拾い読みしてたんですよ。通読はできていないはずです。
――ああ、『ダルタニャン物語』は大長編ですよね。そのなかの一部が『三銃士』。
呉:たぶん、当時、NHKか何かで『三銃士』のアニメが放送されていたんです。それで読みたいなと思って、図書室で見つけたんですよね。字がみっちりしていたので大人向けのものだったのかもしれませんが、子どもでは全然太刀打ちできない。外国の名前を覚えるのもきつかった。ダルタニャンが三銃士の中のひとりだと思っていたら別の名前の3人が出てきてって混乱したし。
――ダルタニャンが出会うのが三銃士なんですよね。
呉:でも「なんとなく面白かったな」というのはあるんですよね。馬がね、「ドロ、ドロ、バーン」みたいな。それぐらいしかもう、憶えてないけれど、
――ドロ、ドロ、バーン......?
呉:なんとなくそんなアクションを想像してもらえれば(笑)。その後は子ども向けのミステリーっぽいものを読んでいたと思うんですけれど、一番印象が強いのは小学校4年生の時、姉が持っていた有栖川有栖さんの『月光ゲーム』ですね。日本のいわゆる一般小説をはじめて通読したのがたぶんそれです。
――いきなり本格を。
呉:ド本格ですよ。ただ、やっぱり子どもなので、何がすごいのかとか、何が伏線で何が回収されたのかは分かっていなかったと思うんですよ。ただ「おお」「へえ」みたいな感じで。謎があってそれを解くだけじゃなくて、火山が噴火してサスペンスもあったりしたので、それで最後までつっかからずに読めたんでしょう。その後すぐ、有栖川さんの『孤島パズル』を読みました。あそこらへんは姉の影響がだいぶありましたね。
――お姉さんはいくつ上なんですか。
呉:ええと、2個か3個のはずです。で、『孤島パズル』の時もね、『月光ゲーム』と同じように分からない感じはあったんだけれども、「暗号が進化していく」という記憶が強くて。パズルが平面から立体になっていくのが「うわあ、格好いいな」と思って、ミステリーって面白いんだと自覚した気がします。で、その流れで読んだアガサ・クリスティの『アクロイド殺し』でとどめを刺された。やっぱりあの「犯人は、あなたです」で「わあ、すげえ」ってなりましたよね。当時、そういう小説は他にも世の中にいっぱいあったんでしょうけど、僕自身はさすがに読めていないので、はじめてだったんですよね。「ミステリーすげえなあ」と思って、でもそこからなぜか大沢在昌さんの『新宿鮫』に行くんです。
――小学生で、ですか。
呉:いや、それは中学生になってからだと思うんですけれどね。たぶんテレビのゴールデン劇場みたいなので滝田洋二郎監督の映画を観たんです。主演の真田広之がやくざの車のフロントガラスを警防でバチコーンって割るのを観て、今考えたらあれって確実に何かの処分を受けるだろうけれど、僕は「いやあ、すげえ格好いい」となってカッパ・ノベルスで『新宿鮫』を買って、そこから『氷舞』までお小遣いでシリーズを買い続けました。その頃に『テロリストのパラソル』が出たんですよね。それも「格好いいー!」となって。
――藤原伊織さんの。のちに呉さんが受賞することになる江戸川乱歩賞受賞作品ですね。
呉:そう、いまだにその時に買った本を持っているんですけれど、帯がまだ江戸川乱歩賞の帯なんですよね。その後、あるタイミングで本屋に行ったら「直木賞受賞」の帯に変わっていて、当時は何が何やら分からなくて。「俺が持っているのは乱歩賞やけど、直木賞となっているのと同じ作品なん?」って。