その1「「本屋チャンス」が楽しみだった」 (1/6)
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- 『め組の大吾(1) (少年サンデーコミックス)』
- 曽田正人
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。
武田:保育園の頃だと思いますが、自分で最初から最後まで全部読んだ本をすごく憶えています。絵本の『白鳥の湖』でした。内容というよりも、はじめて自分で全部読んだ、ということで印象に残っています。
――昔から本はよく読んでいましたか。
武田:家が結構本だらけでした。絵本は定期的に送られてきていたし、毎月5000円までは、小説でも漫画でも図鑑でもラノベでもなんでもいいから本を買ってもらえる、「本屋チャンス」というルールがあって(笑)。たぶん、それで小説をよく読むようになりました。
――ご兄弟はいらっしゃるのですか。兄弟にもそのチャンスがあったならかなりの本の数になるなと思って(笑)。
武田:6歳下の弟がいて、弟は私の選んだ漫画を読んでいました。趣味がまんま一緒なんです。「本屋チャンス」のほかに、小学校に入ると図書室にも行くようになりました。児童書が好きで、「こまったさん」シリーズとか、「ズッコケ三人組」シリーズとか読みました。青い鳥文庫もめちゃくちゃ読みましたね。だからあさのあつこさん、はやみねかおるさんからすごく影響を受けています。あさのさんの「テレパシー少女「蘭」事件ノート」シリーズとか、はやみねさんの「怪盗クイーン」シリーズや「名探偵夢水清志郎」のシリーズなどはすごく憶えています。松原秀行さんの「パスワード探偵団」シリーズもよく読んでいました。
一番読んでいたのは「ハリー・ポッター」で、圧倒的な影響を受けています。毎日読み返していたので、実家にある第一巻の『ハリー・ポッターと賢者の石』はもうボロボロになっています。それが小学校低学年の頃でした。その頃、二宮金次郎って呼ばれていたんです。本を読みながら帰って、電信柱で頭を打ったりしていたので。
――「ハリー・ポッター」のどういうところに惹かれたんでしょうね。やっぱり魔法学校のディテールとか...。
武田:「おジャ魔女どれみ」などの世代なので、そもそも小さい頃から魔法というものに対する下地があったのかもしれません。「ハリー・ポッター」のほかに「ダレン・シャン」や「バーティミアス」なども好きでした。「ハリー・ポッター」の資料集やファンタジー図鑑なんかも舐めるように読んでいました。
その頃、ファンタジーが流行っていたのと同時にライトノベルも全盛期で、電撃文庫がちょうど学級文庫に入ってきた時期でした。小学校高学年の時に、生徒が図書室と学級文庫に入る本を選べる機会があったんです。体育館にずらーっと本が並べてられていて、そこから選んでいく、みたいな。それでみんなラノベを選んでいたので、学級文庫に『キノの旅』とかがありました。ラノベも一般文芸も意識せずに読んでいた世代だということも大きかった気がします。
――漫画は読みましたか?
武田:好きでした。親が漫画好きで、うちはトイレの棚や廊下が全部本棚になっていて、そこに漫画の本がしっちゃかめっちゃかなくらい入っていました(笑)。曽田正人さんの『め組の大吾』とか『シャカリキ!』とかがとにかく好きでした。『ONE PIECE』も普通に読んでいましたし、あ、それと『ガラスの仮面』や『ポーの一族』も家にあったので読んでいました。『ドラえもん』もあったし、当時「週刊少年ジャンプ」に掲載されていた漫画はほぼあったと思います。
漫画だけでなく、宮沢賢治全集なんかもあって、それもいっぱい読んでいました。
――充実したおうちですね。
武田:親が忙しくて、いわゆる鍵っ子だったんです。家で過ごす時間が長かったので暇をつぶすことが一番重要な課題で、ゲームと小説、漫画にはまりました。特に本は1冊で2時間くらい楽しめるので、それが私としてはすごくいい要素だったんです。
――ゲームは何をやっている世代なんでしょうか。
武田:「ポケモン」と「どうぶつの森」と「マリオパーティ」とかの世代です。今思うとその頃はポケモン人気がすごかったです。私もポケモンパンを食べていたし、「ポリゴンショック」でポケモンの放送がなくなった時は、私、泣きながら「ピカチュウをテレビで見せてください」って葉書を書いていたらしくて。親が言っていました。
でもたぶん、割合的には小説6、漫画3、ゲーム1くらいで、圧倒的に小説で時間を潰していることが多かったです。アニメも好きだったんですけれど、昔はストリーミングじゃなかったから、1回30分しかないので全然時間が潰れない。本だと、シリーズものを一気に読めば、それだけで10時間くらいかかるから、そっちのほうがいいなと思っていました。
――自分で物語を考えたり文章を書いたりはしていましたか。
武田:小5の頃から小説を書いていました。でも毎回、完結しない。今読み返すと、自分でも「小5にしては文章上手いな」って思うんですけれど(笑)、でもだいたいノート1ページで終わっているんです。文章で背伸びしすぎて、続きが書けないんですよ。いっつもいいところで放置していて、「ああ、最後まで書けないなんて、文章って大変だな」って思いました。
――国語の授業は好きでしたか。
武田:小学生の頃は国語のテストが苦手だったんです。なぜかというと、たとえば「『風がぴゅーぴゅー歌っている』とはどういう意味ですか」という問題の意味が分からなくて。風はぴゅーぴゅー歌うもんだと思っているから、何を訊かれているのか理解できないんです。「いや、歌ってるじゃん。そう書いてあるのにそれ以上何を答えるんだ」って。中学生になって塾に入って、「『風がぴゅーぴゅー歌ってる』というのは、風が音を立てて吹いているという描写である」と答えるものだよ、と教えられた時に、「あ、国語のテストって文章の解像度を下げろってことなのか」と分かって、そこからもう、信じられないくらい成績が上がったので、塾に行ってよかったなと思いました。テストの質問の意味がようやく分かったんです。
入塾試験みたいな時は50人中、たぶん40位台でしたが、2か月後に1位になったんですよ。さすがの衝撃体験でした。それまでは、どう答えたらいいのか誰にも教わらないまま授業を受けていたんだなと思いました。だから私の中では、結局教わり方なんだな、という意識が強いです。自分の考え方にしても他人や環境に大きく作用されるものなんだな、ということを強く実感しています。
国語が苦手な子って、そういうパターンがすごく多いんじゃないかなって密かに思っています。