作家の読書道 第225回:町田そのこさん

2020年に刊行した『52ヘルツのクジラたち』が未来屋小説大賞、ブランチBOOK大賞を受賞するなど話題を集めている町田そのこさん。少女時代から小説家に憧れ、大人になってから新人賞の投稿をはじめた背景には、一人の作家への熱い思いが。その作家、氷室冴子さんや、読書遍歴についてお話をうかがっています。

その1「母が薦めてくれた氷室冴子さん」 (1/7)

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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

町田:自分で意識して読んだいちばん古い記憶というと、漫画雑誌の「りぼん」ですね。『ちびまる子ちゃん』とか『ときめきトゥナイト』が連載されていた頃です。それと、母が一条ゆかりさんの『有閑倶楽部』が好きでして、私はあれを大人の漫画として、少し背伸びをした感覚で読んでいました。あとは『ドラえもん』ですね。小学校3年生くらいまでは、漫画ばかり読んでいました。

――お母さんも漫画が好きだったんですね。

町田:母は読書好きで、いつも本ばかり読んでいました。『王家の紋章』や『ガラスの仮面』は母の本棚から読みました。私が中学生になってからは『海の闇、月の影』や、川口まどかさんの『やさしい悪魔』シリーズなど、親子で新刊を取り合って読みました。
 母は小説も好きで、宮尾登美子さんなどを読んでいたんです。小学3年生の時に「小説というのは面白いの」と訊いたら、「これはあなたにも読めると思うから」と渡されたのが、氷室冴子さんの『クララ白書』でした。読んだらもうすごい衝撃で、はまってしまって。母親の本棚にあった『クララ白書』、『アグネス白書』、『ざ・ちぇんじ!』は瞬く間に読んでしまいました。氷室冴子さんの本を読みだして、小説への世界が開けたという感じです。母は当時いっぱい本を持っていて、そのなかから小学生の私が読める本として氷室さんをセレクトしてくれたのは、ありがたいなと思います。

――『クララ白書』は、北海道の寄宿舎が舞台で、夜中にドーナツを揚げるんですよね。

町田:そうなんですよ、レオタードを着て(笑)。私は小学校の頃、友達に恵まれなくて、いじめを受けていた時期もあったので、氷室さんの小説の中の、いじめはあってもみんなで助けたり、支え合うというところと、主人公の女の子が男の子に頼らない芯のある子ばかりというところがすごく好きでした。男の子に恋はするけれど、頼って守られるというのは求めない。自分で自分の人生を切り拓いていく強さにすごく憧れました。私も自分の足で歩いていける女の子にならなきゃ、みたいな。
 なので、どんなに学校が辛くても氷室さんの本を読んだら、「泣いてちゃ駄目だ」という気持ちになれたんです。本当に氷室さんの本が好きで、支えにしていました。小中学生の頃は、『なんて素敵にジャパネスク』や『ざ・ちぇんじ!』の好きなシーンを暗唱できたんですよ。

――すごい。そこから少女向けの小説をいろいろ読んだりしましたか。

町田:講談社X文庫から秋野ひとみさんが出されていた『つかまえて』シリーズを追いかけていましたね。今回のインタビューをきっかけに調べてみたら、このシリーズって100冊以上出ているんですね。私が読んだのは前半の20作くらいだったと思うんですけれど。そうしたティーンズノベルはよく読みました。いまでも読み返したいなと思うのは井上ほのかさんの『少年探偵セディ・エロル』シリーズ。ミステリ仕立てで面白かったです。
 それと、読んで衝撃を受けたのは酒見賢一さんの『後宮小説』です。「雲のように風のように」というタイトルでアニメ化されていて、私はそちらから入ったんです。「このアニメって素敵だなあ」と、録画したものをビデオテープが擦り切れるまで見るほど、はまりました。小学5年生くらいの時に原作の単行本を発見して、「これは買わねば」と思って。お小遣いを貯めて買ったはいいものの、原作は「後宮」というだけあって下ネタ満載なんです。セックスについてあけすけに描かれた部分があまりにも多かった。それまでは「初めてのキスはドキドキ」だとか、攻めたものでも「朝チュン」の物語ばかりを読んでいたので、頭を殴られたようなショックを受けましたね。

――『後宮小説』は日本ファンタジーノベル大賞第一回受賞作ですよね。架空の国で、後宮に入る少女が主人公で。アニメは子ども向けにアレンジされていたんですか。

町田:アニメは子ども向けで、主人公が学ぶ後宮大学もエッチなシーンはなく、みんな健康に青空の下でえっほえっほと体操などをしてるんです。だから原作を読んで「こんなに生々しかったなんて」と震えました。アニメは結局DVDも買って、いまだに時々見ます。原作とアニメ、どちらも名作です。

――ところで、ご兄弟はいらっしゃるのですか。

町田:弟が2人いますが、下の弟は10歳ほど離れていてあまり兄弟という感じがしないですね。上の弟はふたつ違いですが少年漫画雑誌の「ボンボン」を読んでいました。あまり私と好みが合わなくて。本をシェアすることはなかったです。

――学校がつらかったようですが、通われていたのですか。

町田:通ってました。親が「学校はきちんと通わなきゃ駄目だ」という考えだったので。なので、本当に辛いことがあっても絶対に学校は行っていて、休み時間はずっと氷室さんの本を読んでいました。氷室さんの本があったから次の日も学校に行けたし、氷室さんの本が2か月後に発売されると知ったら、それだけを楽しみにしました。発売が延期になったらめちゃくちゃ泣きました。氷室さんの『なんて素敵にジャパネスク』は、発売が遅れたことがあったんです。あとがきに「ごめんなさーい」って書いてあったのを覚えています。新作を堪能した私は泣いたことなんてすっかり忘れてましたけれど。

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