WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道>第67回:永井 するみさん
毎回、さまざまな舞台やモチーフを用意してくれている永井するみさん。その幅広さは、学生時代に音楽から農業まで、いろんなジャンルに触れてきたからかも…? お姉さんの読書傾向の影響をたっぷりとうけた少女時代から、作家に至るまでの経緯と読書生活、そして刊行ラッシュの現在について、たっぷり語っていただきました。
(プロフィール) 1961年東京生まれ。東京芸術大学中退、北海道大学卒。96年「マリーゴールド」で第3回九州さが大衆文学賞、「隣人」で第18回小説推理新人賞、『枯れ蔵』で第1回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞。著書に『ソナタの夜』『ビネツ』『ダブル』『欲しい』などがある。
――幼い頃、どんな本を読んでいましたか?
永井 : 年の離れた姉が二人いるものですから、姉たちが読んだものを譲り受けていました。『浜田広介童話集』…「りゅうの目のなみだ」や「むく鳥のゆめ」が収録された作品集や、絵本ではヴァージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』などがありましたね。姉からのおさがりではなく、私のために買ってもらった本として覚えているのは小学生1年性くらいの時に読んだ『テルのむすこ』。
――ウィリアム・テルの話ですか。
永井 : そうです。クリスマスか誕生日のプレゼントとして買ってもらったんです。でもその頃の私にとっては字がいっぱいで難しかったし、挿し絵もきれいだったんですが暗い色調だったので、愛読するほどにはなりませんでした。でも私に買ってくれた本、ということで大事に持っていました。あと買ってもらって嬉しかったのはウィルトルート・ローザーの『ファニおばさんと動物たち』という児童書。今も自分の子供に読ませたいと思って探しているんですけれど、絶版になってしまったのか、どこにもなくて。30代くらいの女性がいろんな動物と一緒に暮らしている、ほのぼのとした話です。
――とりわけ読書が好きな子供だったんですか。永井さんは音大に進学されていますが、小さい頃からピアノも習っていらしたんですか。
永井 : ごく普通の子供でした。本も好きだけれど、外で縄跳びをしたりドッチボールをしたり。ピアノも習っていましたが、嫌々というか。そんなに好きではなかったんです。
――そうだったんですか! その後、中高学年の頃の読書は…。
永井 : ホームズやルパンのシリーズを図書館で借りていました。あとは「ドリトル先生」シリーズといった動物ものや、『エルマーのぼうけん』のシリーズも好きでした。日本の名作でいうと、『坊っちゃん』や『次郎物語』、『真実一路』など、全集に収録されているものを読んだり。小学校6年生の時には、読書感想文の課題で、何を思ったかいまだによく分からないんですが(笑)、アンドレ・ジイドの『狭き門』について書いて…。
――小学生で、ですか? 難しくなかったですか?
永井 : キリスト教のこととか、現世の愛より神への愛を選ぶということも、よく分からずに解説をアレンジして書いたんだと思います。そういう題材を選べば採点が甘くなるだろう、と思っていた、嫌な小学6年生でした(笑)。
――こういうジャンルの本が好き、というのはなかったんですか?
永井 : そのころは姉たちからもらったものを読むのでジャンルや傾向はあまり意識せず、面白そうなものを読んでいました。…でも今でも、ずっとこのジャンルが好き、というのは特に偏っていないかも。
――その頃、将来読みたいものは何だったんですか。
永井 : ピアノの先生とか、獣医さんとか。動物が好きなんです。家でも秋田犬を飼っていましたし。
――中学生時代はいかがでしたか。
永井 : バスケをやっていたこともあって、スポーツ漫画が好きでした。『ドカベン』や『あぶさん』など。『エースをねらえ!』もその頃だったかな。小説では、『ジェーン・エア』、『嵐が丘』、『風と共に去りぬ』などを読みました。遠藤周作さんの『沈黙』や三島由紀夫の『金閣寺』なども印象に残っています。
――ご自身で文章を書こうと思ったことは?
永井 : 文章を書くのは嫌いではないけれど、それより読者として、読むことを楽しんでいました。ちゃんと文学を勉強したこともなくて。系統だてて読んでいないのがコンプレックスで、実はこういうインタビューも気後れしてしまいます(笑)。
――読書より、ピアノの練習で忙しかったのではないかと思うのですが。
永井 : ピアノは続けていましたね。でもそれは趣味として週一回通うだけで。たいした練習もしていなくて怒られるくらいでした。高校生になるまで音大に進学しようとも思っていなかったんです。高校に入った頃に、先生から音大に行きたいならそろそろ本格的な勉強をしないといけないけれどどうしますか? と聞かれてはじめて意識しました。
――バスケットは続けていたんですか? 怪我をしたら差し障りがありそうですが…。
永井 : そうなんです。突き指をしたりするといけないからやめてくれと言われ、バスケにするかピアノにするか悩んだ時期もありました。結局ピアノにしたんですが。
――さて、そんな高校時代に読んだ本は。
永井 : 大江健三郎や、坂口安吾の『桜の森の満開の下』とか。エラリイ・クイーンやアガサ・クリスティーを読んで、なんて読みやすいんだろうって思って(笑)。あ、あとドストエフスキーも読みました。『カラマーゾフの兄弟』や『罪と罰』とか。長いしボリュームがあるし、読むのに時間がかかりましたね。いまひとつ理解していないけれど面白いとは思っていたし、それで読むトレーニングをしていたんだと思います。
――ドストエフスキーの後にクリスティーを読んだら、確かに、読みやすい! と思うでしょうね(笑)。
永井 : 楽しい! と思いました(笑)。それらの本も、姉のおさがりだったんだと思うんですけれど。
――音大の受験勉強は大変だったんじゃないですか?
永井 : 音大に行こうと決めてからは大変でした。芸術系の学校に通っている人なら学校でも勉強できるだろうけれど、私は普通の高校だったので…。受験科目が違うんですよね。英語だって、芸大の試験では専門用語が出てくる論文が読めないといけないし、ピアノの実技や声楽、音楽理論やソルフェージュという聴音のテストもある。だから高校3年生の頃は、受験勉強のために、出席日数ギリギリしか学校に行きませんでした。友達もいたし学校は嫌いじゃなかったのに。
――大変そう…。
永井 : 論文の試験があるので、先生について勉強していました。「音楽と言葉について」とか「ベートーヴェンの『英雄』について書け」といったテーマで、論文を書く練習をした覚えがあります。それが私の唯一の、文章トレーニングでしたね。小説とは関係ありませんが、筋道立てて何かを書く、ということを練習したのはその時だけだったと思います。テーマを与えられて1〜2週間でいろいろ調べて論文にして、次のレッスンの時に、先生と生徒数人で読みあって、ここがどうだ、あそこがどうだと言い合う。
――かなり徹底的にやったんですね。
永井 : 高校生の書くものだから、たいしものではなかったんです。でも、人前で読んで批判されるのはドキドキでした。本当に嫌だったんです(笑)。でも今思うと、いい経験だったのかも。
――受験シーズンは、読書する時間もなかったのでは。
永井 : 気分転換に、クリスティーの短編集などを寝る前に読むくらいでしたね。長編を読むことはしなかったかも。
――そして芸大に進学されて。芸大の学生生活って想像できないんですが…。
永井 : 実技のレッスンや、和声法という作曲の基礎を学ぶ授業などがあって。楽器もピアノ以外に副科でサクスフォンを習っていて、その練習もありました。いっぱいいっぱいでした。学校で読みなさいと言われて、ホイジンガーの『中世の秋』を読んだり。
――中世を考察する歴史書ですよね。
永井 : あとはテネシー・ウィリアムズやカポーティを読みましたね。
――テネシー・ウィリアムズは戯曲ですよね。
永井 : 下の姉が演劇が好きだったので、姉の本棚にあったんだと思います。すごくタイトルがいいんですよね。『やけたトタン屋根の猫』とか『欲望という名の電車』とか…。今も自分の本にタイトルをつける時にとっても困るんですが、どうやったらこんなにいいタイトルが思いつくんだろうと思います。
――カポーティは。
永井 : 『冷血』を読んで、ああ、こういう小説があるんだと思いました。ノンフィクションのような作りになったものはあまり読んだことがなかったので、すごくびっくりした覚えがあります。
――それもお姉さんの本棚にあったのでしょうか。お姉さんがいることで、普段自分では選ばない本が読めることって、すごくいいなと思うのですが…。
永井 : いえ、自分で選ぶということをしていなかったために、自分では何を選んだらいいのか迷ってしまったりしました。
――さて、大学をお辞めになったのは…。
永井 : もう、音楽のほうではアップアップになってしまって、もうダメだと思ったんですよね。2年まで普通に通っていたんですが、3年目は実技のレッスンにちょこっといって、あとは休学して受験勉強をはじめて、また受験をして…。
――それで北海道大学の理系に進まれましたよね。芸大から勉強しなおして国立大学の理系に行くなんて、すごい!
永井 : 理系といっても生物系なので。数学や物理だと大変だったと思うんですけれど。ただ、普通は3年目に学士編入できると思うんですが、芸大のカリキュラムが北大とあまりに違うので、もう一回一年生からやり直さなくちゃいけなかったんです。それで大学を卒業するまでに時間がかかってしまって。
――なぜ北大の生物系を選んだのですか。
永井 : 音楽とはまったく違うことがやりたかったということと、実家を離れてみたかったことがあって。海外に行ってもよかったのですが親が許してくれなかったんです。北大を選んだのは、最初は獣医さんになりたいと思っていたから。でも教養過程にいてまだ専攻を決めていない時に、それは無理だと思い始めて。北大の獣医学部って、牛馬を相手にするので、女性は体力的にも大変そうだったんです。それで、農学部の農業生物という、作物の病気を研究する科に進みました。実験室で白衣を着ていろんな菌をシャーレで培養して…という。
――札幌暮らしはいかがでしたか。
永井 : 楽しかったですよ。はじめての一人暮らしでしたし、友達もたくさんできたし、札幌ってのびやかな雰囲気で。同じ大学でもこんなに雰囲気が違うのかとも思いましたし。
――サークルなどは?
永井 : ジャズ研究会に入ってピアノを弾いたりしました。まだそこは未練があったんですね(笑)。
――さて、お姉さんたちの本棚がなくなって、読書生活は…。
永井 : 北海道ということで、北海道ご出身の三浦綾子さんの『氷点』や『塩狩峠』を読んだり、あとは渡辺淳一さんも北大にゆかりがあって。『リラ冷えの街』は渡辺さんの初期の作品なんですが、北大の植物園の園長先生がモデルになっていると聞いて、それを読みました。三浦綾子さんを読んだことから、日本の女性作家を読むようになりましたね。高樹のぶ子さんとか、芝木好子さんとか。芝木さんは芸術家を志す女性の一生、みたいな話が多くて、すごく好きで。いまだに読み返すことがあります。
――芝木作品でお気に入りはどれですか。
永井 : 一番好きなのは『群青の湖(うみ)』です。木の実や葉、樹皮を採集してきて糸を染め、機を織る女の人の、一生の話。琵琶湖のそばの旧家にお嫁にいくけれどうまくいかず、離婚して子供を育てながら、染色と織物の道をきわめていく。奥琵琶湖で目にした、美しい群青色をずっと心の中で大事にしながら。そういう芸術の道をひた走る話が好きだったんです。あとは、『雪舞い』や芥川賞をお取りになった『青果の市』も好きでした。
――男性作家は…。
永井 : 村上春樹さんを読んだのもその頃です。それまで現代ものってあんまり読んでいなかったので、『羊をめぐる冒険』を読んで、なんて現代的なの! って思って(笑)。それで村上龍さんの本など、現代ものを少しずつ読むようになりました。
――大学卒業後は、就職して東京に戻られたんですよね。コンピュータ会社にお勤めになって。
永井 : 大学ではデータ分析などをしていたので、コンピュータ系に就職するのは珍しいルートではなかったんです。それに、研究生になるには大学に残らなければならなかったけれど、自分はその前も大学にいっているので、これ以上学生をやってはいられないなと思って就職しました。でも、数学や物理を勉強していない人間がSEをやるのは無理があったかも。
――でもずっとお勤めしてらした。
永井 : そうですね、IBMに5、6年、そのあとアップルコンピュータにいたので。でも、今はあの頃が信じられない。今は全然、コンピュータのことが分からない(笑)。
――音楽からコンピュータまで、本当に幅広いなあ、と思います。
永井 : どれも中途半端なんです。まわり道でしたね。
――お勤めの頃に読んでいたものは現代ものですか。
永井 : 高村薫さんの『マークスの山』や、逢坂剛さんの『カディスの赤い星』や百舌シリーズを読んでいました。サラ・パレツキーやスー・グラフトンの女探偵ものなども。通勤電車の中や、夜寝る前に読んでいました。
――『サマタイム・ブルース』のウォーショースキー・シリーズとか『アリバイのA』のキンジー・ミルホーンのシリーズ。
永井 : そうです。あと篠田節子さんの『神鳥(イビス)』、帚木蓬生さんの『白い夏の墓標』も大好きで す。松本清張さんの作品をまとめて読んだのもこの頃で、『天城越え』『顔』『父系の指』といった作品には唸りました。社会人になった頃に夢中になったのはパトリシア・ハイスミス。短編集が特に好きで、ハイスミスのデビュー作が収録された『11の物語』や『ゴルフコースの人魚たち』といった短編集は、一瞬の切り取り方がすごくうまいと思う。シニカルな、意地悪な視点があって、情けしらずの人間も出てくるけれど面白い。読書って主人公に感情移入して感動する、という読み方もあるけれど、ハイスミスの作品では知的な遊びが味わえると思うんです。そういう読み方もあるんだと気づいた短編集です。
――ご自身でも書こうと思ったのは。
永井 : それが、これというきっかけは思い出せないんです。ただ、振り返って考えると、音楽で自己表現をしたいと思って挫折して、でも心の中に表現したい気持ちはあったのかなと思うんです。それで文章を書いた時に面白いと思ったんですが、もちろん最初は作品にもならなかった。何回か書いて、一本短編が70枚くらいになった時に、せっかくだし誰かに見てほしいと思って『公募ガイド』を見たんです。東京創元社さんの応募要項に「広義のミステリー」とあったので、これも心理サスペンスみたいなものかも、と思って応募して。東京創元社さんが本格ものを出しているというのを知らなかったんですよね(笑)。それが最終選考に残り、当時の編集長の戸川安宣さんが読んでくださって、もうちょっと長いものを書いてみたら、と勧めてくださった。これを読むといい、と本も何冊か教えてくださったんですが、何を勧められたかも分からないくらい通なものでした(笑)。それで、長いものを書いてみて、できたのが『枯れ蔵』だったんです。
――第一回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞されたんですよね。米に異常発生した害虫の問題を扱う農業ミステリー。これはやはり大学での経験が…。
永井 : 北大の時にやっていたことを活かしました。
――永井さんは他にも、いろんな舞台やモチーフを扱っていますよね。取材をされたり、資料を読まれたりは?
永井 : 多少は専門書を読んだりネットで調べたりします。あとは、その職業についている方のエッセイやブログを見て、イメージを膨らませます。『樹縛』の時は、たまたま近所に材木屋があったのでお話をうかがったりしました。それ以外は、あまり取材はしませんね。イメージが固定してしまうのと、取材に応じてくれた方に気を使ってしまって、書きにくくなってしまうので。
――確かに、取材しておいて悪人にはしづらいかも…(笑)。
永井 : なので、舞台となる場所も行かずに書くことも多いんです。
――コンピュータ問題を扱かったり、エステを舞台にしたり…。毎回題材はどうやって見つけるのですか?
永井 : 見つけるのでなく、絞り出すんです(笑)。
――読書生活はいかがですか?
永井 : 話題になっている本、ベストセラーは一通り読むようにしています。でも昔ほどのエネルギーはなくて、ドストエフスキーみたいな本は、なかなか読めなくなりましたね。
――毎回新刊は必ずチェックするような、お気に入りの作家はいますか?
永井 : ジェフリー・ディヴァーですね。
――四肢が麻痺した科学捜査の専門家、リンカーン・ライムが登場するシリーズで人気ですよね。永井さんの新作『カカオ80%の夏』でも登場しますね!
永井 : そうなんです。やっぱりキャラクターが魅力的ですよね。子供が生まれた時、夜中に3時間おきに授乳しなくてはいけないのが辛くて。それで、何か楽しいことを作ればいいんだと思って。毎回20分くらいかかるんですが、その間だけ本を読み、終わったら閉じる、と決めたんです。その時に読んでいたのが『ボーン・コレクター』。授乳しながら読む本ではないですよね(笑)。いい影響を与えなさそう。でも、起きたらまた続きが読める、と思ったら、3時間おきに起きるのも苦ではなくなりました。母と子のふれあいタイムが、私にとっては読書タイムでもあったんです。ただ、子供にとっては大変で、気づいたらブクブク…となっていたりしました(笑)。他には、『女彫刻家』などを書いたミネット・ウォルターズが好きで。これも女性のキャラクターがいいし、面白くて読ませる。最近はだんだん作品が暗くなってきている気がしますが。
――日本人作家は。
永井 : 桐野夏生さんが好きです。『顔に降りかかる雨』と『天使に見捨てられた夜』の女探偵ミロが特に好きです。
――芝木さんとか、女性作家による女探偵ものとか…。ちゃんと女性が描けている作品がお好きなんでしょうか。
永井 : そうですね。でも白川道さんのハードボイルドに出てくるような、男性に尽くし、支えようとする女の人も好き(笑)。そういうのを読む時は男性の気持ちで読んでいるのかな。
――毎日の生活スタイルというのは…。
永井 : 朝はやく起き、子供が学校に行っている間に用事がなければ執筆をして、あとは子供が寝た後に2,3時間書いています。
――昨年から今年にかけて、刊行ラッシュですよね。
永井 : 書き溜めてきたものがちょうど本になったので…。
――『年に一度、の二人』は、日本と香港を舞台に、年に一度だけ会う約束をかわしたカップルが二組登場します。年に一度、というのがロマンチックですよね。
永井 : 短編ではない恋愛ものを書いたのは、はじめてなんです。これは、以前講談社から『ソナタの夜』という短編集を出して、その中の「秋雨」という短編が、年に一度だけ会う男女の話だったんです。その話をもうちょっと広げて書いてみようと思ったんです。年に一度、と決めることで、また違う緊張感が出てくるんですよね。
――二組のカップルは、まったくタイプが違いますよね。長年その関係を続けている大人なカップルと、偶然香港で知り合った若い男女と。それぞれちょっと意外な顛末で、それもツボでした。今回は、馬が絡んできますね。舞台となる香港の競馬場に行ってみたくなりました。
永井 : 香港には一度行きました。子連れで行ったら18歳未満は入れないと言われて、博物館になっているところを見たくらいでしたけれど。
――連作長編の恋愛小説ははじめてとのことですが、理論社の『カカオ80%の夏』はヤングアダルトのミステリー。こちらもはじめてなのでは。
永井 : 10代の読者を対象にするのははじめてで、最初はどうしようかと思って。でも自分のことを思いだしてみると、10代だからといって、子供扱いすることもないかなと思って。読みやすいこと、主人公に感情移入しやすいこと以外は普段の書き方にしました。
――高校生の凪ちゃんが、友達の失踪事件を探っていく。
永井 : 女探偵ものを一回書いてみたかったんです。探偵の卵のような高校生なら書けるかなと思ったんですよね。
――大人の自分が読んでも面白かったです。シリーズ化できそう。
永井 : 今回は「夏」だったので、春夏秋冬があってもいいかなとは思います。
――楽しみですね! ちなみに今年の他の刊行予定は…。
永井 : 7月に講談社から連作短編集『ドロップス』が出ます。これは愛に悩む30代後半の普通の女性たちの話。秋には光文社からも連作短編集が出ます。これも、ミステリーではなく、一人の女の子が大人になっていくお話になっています。
(2007年5月25日更新)
取材・文:瀧井朝世
WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道>第67回:永井 するみさん