第9回
前回のつづきのはずだったが、時期的に今しか書けないので、書く(前回の続きはまた次に)。
私の、否、ホークスの2005年が終わった。
昨年に続き、プレーオフでの敗退。信じられない思いである。制度については、もはや、何も言うまい。
最終戦まで、逆転に次ぐ逆転。第一戦を除き、すべて一点差(初戦もわずか二点差)。一瞬も気が抜けない対戦。唯一、もはやこれまでかと集中が切れそうになった第三戦9回裏、あきらめて球場を後にしたお客さんは、プレーオフ中最も劇的なターンアラウンドの瞬間を見逃してしまった。奇蹟はそこで始まったが、しかし完結はしなかった。プレーオフを通して、ロースコアの接戦であったことは、やはりマリーンズのペースだったということだろう。
とにかく、今年のプレーオフは、緊張感たっぷりの、もつれに縺れたゲームを見ることができました。すばらしい対戦だったと思います。
「見ることができた」と書いたが、実際は見ることができていない。というのも、地上波でのテレビ中継が第四、五戦の二試合しかなかったからである。全国中継されたのがテレビ東京系でのこの二戦のみ。つまり、第三戦の「奇蹟のはじまり」はスポーツニュースで編集された映像でしか見られなかったのだ。
これは昨年のプレーオフ中継の結果(すなわち、視聴率)が影響しているようで、第三、四戦を全国中継したテレビ朝日系の数字がひとケタ台と低迷したことが原因らしい。
しかし、結果的に今回は第四戦が13.8%、第五戦が17.0%(ともに関東地区)と、十分合格点といえる数字が出ている。関西地区でも第五戦15.2%と、(関西に本拠地のない)福岡vs.千葉の戦いであったのに高視聴率であった。根強い「ホークス」ファンが多数存在するのみならず、先に日本シリーズ進出を決めたタイガースのファンの「情報収集」「敵情視察」といったニーズが強く作用したからだと思われる。
「所詮、パ・リーグ」のプレーオフかもしれない。しかし、某ジャイアントな球団の視聴率神話がもろくも崩壊した今、数字だけでなく、「プロ野球全体を盛り上げるために」意義のあるゲームは敢然と放送してほしい。テレビ局自らが盛り上げればいいではないか。それに、今回のように見応えのある試合内容であれば視聴率もついてくる。マリーンズをはじめとするパ・リーグ各球団の営業努力を見習ってほしいものだ。
ところで、私の勤務するブックファースト梅田店は、阪神百貨店から日本一近い書店である(百貨店内の書店は「近い」という概念から外れるので除く)。道路一本はさんで隣にある。先日のリーグ優勝記念セールの記憶がまだ新しい。
リーグ優勝翌日の9月30日。ブックファースト梅田店は朝が早く、8時開店なのだが(日・祝は10時)、当日の雰囲気の異様さは一目瞭然であった。わが店の前まで、百貨店開店を待ちわびるお客さんの列が並び、百貨店の従業員や警備員が看板を持って誘導したりトランシーバで連絡を取り合ったり戒厳令下(?)の如く。8時になり、わが店が開店しても、入口自動ドアから数メートルのところに並んだ長蛇の列は微動だにせず。当たり前だが、ちとさびしい。
私は人込みが苦手で、優勝セールには行かなかったのだが、この場所で勤務していたおかげで、夜明けとともに下されるであろう突撃の号令を黙して待つ戦士の期待と緊張感と畏れの如きものを見ることができたように思う。
午後になってからは、わが店の中でも阪神百貨店の紙袋(あまりに目立つ)を持ったお客さんが多く見られた。やはり優勝セールの帰りに立ち寄られている方々が多いようだ。しかし、普段より少し来店客数は増えたものの、それほど大きな影響はなかったようだ。みなさん「優勝セール」で疲れ果て、本など見ている余裕がない様子。
今回は二年ぶりの優勝で、18年ぶりだった前回の優勝セールに比べて百貨店の売り上げは三割減だったという。前回のセールをよく知る事情通も「こんなもんやなかった」と証言している。初日以外は前回に及ばなかったようだ。
次は日本シリーズ。ホークスが敗れた以上、どちらの側に立とうか迷う。セ・リーグではタイガースを応援するが、マリーンズも好きで、全体としてパ・リーグの肩を持つ私としては苦境に立たされている。ともあれ、終了後にはまた店の前に列が並んでいるのか? 前回を上回る「日本一」ということになれば…と考えている。
ところで「○○セール」には基本的に縁のない書店という業態、便乗するといっても雑誌の優勝記念号・増刊号やタイガース関連本コーナーぐらいしか関係がない。書籍についても今回は二年前の星野監督の『夢』(角川書店)のようなヒット作がない。いま一番売れているのは『野村ノート』(小学館)。楽天イーグルス監督就任やスワローズ古田捕手のプレイングマネジャー就任決定などの要素が後押ししており、タイガース優勝とは無関係だ。いま思えば二年前の優勝後から、現在も続く「球界再編」がはじまったのだなあ。それを考えれば二年とはいえ、隔世の感がある。
基本的に書店では便乗セールができないわけだが、しかしやる気さえあればなんらかの「優勝おめでとうセール」的なことをやっていけないわけではないのだ。ということは、店長がどこのファンか次第か。