第1回 「今年読みたい本」(1)
初回の今日は、去年読んだ本のいくつかを挙げながら、これから読みたい本について考えることにする。出版社の方は要チェック(?)。
各社から大量に発行されたテロ・戦争関連の本。いちばん売れたのは集英社新書の『現代イスラムの潮流』だろうか。講談社の『タリバン』だろうか。チョムスキーの『9・11』(文藝春秋)や坂本龍一監修の『非戦』(幻冬舎)も重要だが、私がいちばん興味深く読んだのは、中山元『新しい戦争? 9・11テロ事件と思想』(冬弓舎)だ。
この本は、世界の知識人たちが今回の事件に際してどのように語ったかを1冊にまとめたもので、チョムスキー、サイード、ソンタグ、イーグルトン、ウォーラスティン、ジジェク、デリダ、ナンシー、ブルデュー、ボードリヤール、ハーバーマス、ヴィリリオ、ローティ、ハンチントン等々、超豪華キャストが揃って、なんとたったの1000円というお買い得商品だ。グローバリズムやポストコロニアリズムという現代思想の大きなテーマに直接絡む事件だけに、ちょっとした教科書のようにも読める。興味のある方はぜひ探してみてほしいが、京都の小さな出版社が「地方小出版流通センター」経由で販売しているものなので、どこの書店にもあるとは言い難い。都市部の大型店を狙ってもらいたい(リブログループ各店の人文書担当者さん、大丈夫ですよね?)。
で、この本は主に海外の知識人たちの発言を追ったものだが、これを読んで、日本の知識人たちがどのように語ったかについても手軽にまとめて読めるものがあるといいと思った。昔なら別冊宝島(宝島社)の得意技、今なら別冊文藝(河出書房新社)か。日本の論壇・思想界を一望してしまうような思いきった1冊をぜひとも企画してほしい。宮崎哲弥監修でVOICE増刊(PHP)なんて手もある。もちろんしっかりと単行本で出すのもいいが、値段はあまり上がらないようにお願いしたい。
さて、日本の論壇と言えば、団塊の世代が55歳を超えて「高齢化」している今、「昭和30年代生まれ」がいよいよ中心的な役割を担うようになってきている。
「昭和30年代生まれ」というと、高橋哲哉や浅田彰が年長組で、大塚英志、岡田斗司夫、宮台真司がそれに続き、真ん中の昭和35年生まれに港千尋、澤野雅樹、福田和也、中森明夫、香山リカがいて、上野俊哉、宮崎哲哉、山形浩生あたりが若い方になる。俗に新人類とかオタク世代なんて言われる人たちだ。
去年の本でいうと、宮台真司と香山リカの『少年たちはなぜ人を殺すのか』(創出版)、大塚英志『戦後民主主義のリハビリテーション』(角川書店)、『江藤淳と少女フェミニズム的戦後』(筑摩書房)、宮崎哲弥『憂国の方程式』(PHP)などが読みやすくて面白かった。作品社の思想読本シリーズ第4弾『ポストコロニアリズム』は、丸川哲史、松葉洋一、本橋哲也、毛利嘉孝といった「昭和30年代生まれ」が多く執筆している。さらに少し若い世代になるが、酒井隆史『自由論 現在性の系譜学』(青土社)もきわめて重要な1冊だろう。
で、今年宮台真司と宮崎哲弥の対談が本になるのは既に決まっているようだし、引き続きこの世代の活躍が楽しめるのは確実なのだが、実はこの世代、音楽評論家に大変優れた才能が多い。ザッと挙げると、小野島大、田中宗一郎、伊藤英嗣、佐々木敦、北沢夏音がいる。もう少し若い世代まで含めると、宮子和眞、岡村詩野、小暮秀夫もいる。既に著書のある人も少なくないが、音楽誌やCD解説の場に閉じ込めておくだけでは非常にもったいない書き手がワンサカいるので、各出版社はこのあたりにもっと手を伸ばしてほしいと思う。特に、増井修が気になる。ロッキング・オンの元編集長だが、不自然なかたちで会社を辞めてから大きな仕事をしていない。マンガとロックを核とした総合カルチャー誌のようなものを作ろうとしているらしいが、なかなか実現できずにいる。当時のロッキング・オンを読んでいた人ならわかるだろうが、増井修の文章には、その辺の詩人や作家や学者なんかに全く劣らぬパワーがある。この才能を眠らせてはいけない。
おっと、このあと文学の方へ話を振る予定だったのだが、紙幅が足りない。こういう計算のうまくないところが、いかにも素人の文章だ(笑)。続きは次回。また。