第5回 「青葉台書店戦争(2)」
3月1日にOPENしたブックファースト青葉台店を見てきた。駅前の東急スクエアに、2層・500坪での出店。文具の伊東屋や、東急ハンズの新業態「ハンズセレクト」なども同日OPENで、近隣の注目を集めている。
渋谷からの下り電車が停まるホームと、この東急スクエアは直結しているので、会社帰りのサラリーマンをキャッチするのには絶好の立地。夜は10時まで営業している(対する文教堂は11時まで!ごくろうさまです…)。3階が雑誌・文庫・文芸・生活実用などの一般書、4階がビジネス・人文・理工などの専門書。3階と4階では什器や床の色が違って、フロア別の雰囲気つくりをしている。4階にはカフェが併設されていて、5000円以上の買物をすると、ワンドリンクサービスになるらしい。ちなみにコーヒー1杯300円だった。
品揃えはどちらかというと専門書重視で、生活実用書などは少なく見えた。東急スクエアの昼間の客層は主に主婦だと思われるが、夜のサラリーマン需要の方を重視しているのだろうか。生活実用書だけで比べると、斜向かいの文教堂の方が充実しているように思える。
専門書群については、やはり量的に圧倒される。この付近では、港北東急のリブロや、たまプラーザの有隣堂、また玉川高島屋の紀伊國屋などが大型書店ということになるが、いずれも専門書群の売上の推移に注意した方がよさそうだ。都心まで出なくてもたいていの本は青葉台でみつかる、そんな認識が浸透していく可能性は十分にある。
しかし、大きな期待を持っていま出向くと、少々がっかりすることになるかもしれない。これは文教堂にも言えることだが、まだOPENしたばかりで、棚の中身、細かい分類・配列などは、決して手の行き届いた状態にはない。とりあえず棚に入れるだけ入れた、という印象を拭えない。開店直後の書店というのはどこもそんなもんで、これから各店各ジャンルの担当者がゆっくりと棚を整えていくことになるだろう。本当の勝負はそれからになる。
ただ、そのことを承知の上で敢えて言うと、3月7日現在、個人的には文教堂の方が、よくできた店に見えた。いや、立地・規模からみてブックファーストが優位なのは間違いない。什器や店全体の雰囲気も、高級感を備えているのはブックファーストで、ロゴデザインひとつとっても、ブックファーストの方がざっくり言ってかっこいいと思う。しかし、それは器の話だ。盛り付けについてみると、生活実用書の一角に生活雑学系の文庫コーナーがあったり、文芸書が男女混合(男性作家と女性作家を分けない)で並べられていたり、前回触れたスローライフのフェアや、ヤングアダルトの棚に通常は一般文芸書に並ぶようなものをも混ぜ込んで「10代にすすめたい本」とまとめてみたり、文教堂がなかなかいい。ブックファーストがただ新しくて大きな書店、という印象に留まっているのに比べて、文教堂の方には、なんというか、その店の味、のようなものが早くも生まれているように思った。
もちろんこのまま終わるわけではない。そもそも渋谷にブックファーストができたときも、最初は呆れるくらいつまらない、ただのデカイ店でしかなかった。それが、いまはどうだ。激戦区・渋谷の中でも、最も感度がよく手の行き届いた、立派な店になっている。特にビジネス書の売り方は非常に上手い。青葉台店も、これから徐々に面白くなっていくだろうと期待している。
非常に近い位置に、蔵書量で互角の競合店がある場合、立地や営業時間だけでない、棚の見やすさや分類のわかりやすさ、新刊コーナーの鮮度・感度(信頼感)などを含めた広い意味での「使いやすさ」が第一の選好基準であるとしても、それに加えて、雑誌でいうところの特集ページにあたる、フェアやイベントの企画力が重大な差別化要因になってくる。双方が練りに練った企画をぶつけあって火花を散らすのであれば、ユーザーにとってこんなに楽しい「戦争」はないだろう。そういう意味では、大いにやりあってほしいと思う。面白い書店が増えることは基本的にいいことだ。今後の展開を楽しみにしている。