« 前の記事 | 最新 | 次の記事 »

第15回   「ブックフェア」

 このコーナーの他の執筆者に比べてダントツで更新回数の少ない落ちこぼれの私は、そもそも自分には文章を書いたり本を作ったりする才能はないとの判断があり、その上で、しかし面白い文章や面白い本が世の中にはいろいろあって、それを自分だけで愉しむのではあまりにもったいなく、もしもこの面白さをまだ知らない人がいるならば、なんとかして興味を持ってもらえるようにできないだろうかという気持ちがあって、それが書店リブロへの就職を基礎付けていたことを、ここでまた思い出している。

 できれば出版社や取次会社に就職したかったが叶わなかったのでしかたなく「すべりどめ」の書店に就職したという例も少なくない中で、私は最初から書店だけを考えていた。紀伊国屋書店、八重洲ブックセンター、三省堂書店、芳林堂書店、書泉なども受験している。実はそんなに読書量が多いわけでもなく、本がいちばん好きかと問われれば、いやほんとは音楽のほうが好きかも(リバティーンズ最高!)、なんて答えかねない私が、いったいどうしてそんなに書店にこだわったのかといえば、「街の情報ステーション」として、書店はまだまだその器を生かしきれていないのではないか、もしかしたら、ほんの少しでも、自分にできる「仕事」がそこには残されているのではないか、……そんな思いがあったからだろう。

 果たして私がその「仕事」を順調に進められているか、については都合よく横に置いて逃避することにして、今回は、ブックフェアについて、少し考えてみたい。

 どこの書店でも、たいてい何らかのブックフェアをやっている。それは出版社による拡販企画であったり、書店チェーンの戦略企画であったり、また当然に、その店独自の増売企画であったりする(中には、トーハンや日販といった取次会社による企画もあるだろう)。

 いちばん多いのは季節もので、いまならきっとバレンタインフェアとかいって、チョコレートの作り方やラッピングの仕方に関する本、あるいは恋愛指南のエッセイのようなものが並んでいたりするだろう。それが終わると、春の学習参考書や辞典、GWに向けた行楽関連書、夏の読書感想文対策……と続く。

 それはそれで需要があり、確実に売上に繋がる企画なので必要なのだが、それだけで役割を果たしていると思ったら大間違いで、それでは読者=買い手を甘く見すぎていると言うほかない。書店を訪れる人の大半は、必要な本はあってあたりまえ、その上、なんかほかに面白いものはないかしら? という欲求を抱えている。その両方にきちんと対応できる書店だけが、支持を得られるのである。

 従って、ブックフェアを考えるにあたっても、「なんかほかに面白いもの」に手を伸ばしてもらう好機ととらえて、潜在的なニーズを掘り起こしていく積極的な姿勢が求められてくる。とはいえこれは言うは易し行うは難しで、本当に面白くてついつい手が伸びてしまう(さらに財布を開いてしまう)ブックフェアなどというものには、めったにお目にかかれないのが現状である。

 実際に各書店の人たちは、どうやってブックフェアを企画しているのだろうか。
 私の場合、普段の棚作りの中ではスペースの制約もあって残念ながら切り落としてしまっている部分や、十分な展開ができていないと思える部分を、ブックフェアで補填する「自己弁解型」。それから、大々的なベストセラーにはなっていないけれどなにやら棚からよく売れているというような商品をヒントにして類書を集積する「過剰反応型」。さらに、いくつかのベストセラーや話題の本などの共通項を探りながらひとつのテーマを無理矢理掲げる「潮流捏造型」などが、ある(というか、それくらいしかない、というか)。

 いま現在は、去年ムックで出版されたマガジンハウスの『コルビュジェ,ライト,ミース 20世紀の3大巨匠』がよく売れたので、それをヒントにして初心者向けの建築書フェアをやってみているが、これは一種の「過剰反応型」であると同時に、スペースがうまく作れなくて普段はほとんど置いていない建築書をこの機に、という「自己弁解型」でもある。「潮流捏造型」としては、web Libro上で展開中の「【 グローバリズムのリアリティ 】~「構造改革」の先に明るい光は見えているか ~」が典型例(さすがにもう古いので更新すべきだとは思うけど)。

 ところで、10月から1月にかけては、カレンダーや日記・手帳の類が書店の売場を占領するので、ブックフェアに割けるスペースは極度に少なくなる。逆に言うと、このカレンダー等の販売期間が終わる1月から2月にかけては、一気に書籍の販売スペースが復活増加するわけで、出版社の営業の人たちは、本来このチャンスを狙うべきなのだが、なぜかわからないけれども、この機を狙った営業攻勢は思いのほか少ない。もしかすると、年末年始のお休みを挟んでのことなので、企画を持ち出すべき11月頃にはまだ、年内出荷分の注文を取ることばかりに頭がいっていて、年明けてからのことまで考えていないということだろうか。

 私は、なんでもいいから注文を、というような、ただがむしゃらなだけの営業態度を取る人には、必要以上に冷たくするようにしているが、基本的には、出版社の人とのコミュニケーションの中で得られるヒントは貴重だし、読者に面白い本を届けたいという思いを共有するものとして信頼もしているので、企画はどんどん持ってきてほしいと思っている(ただし、展開開始の2ヶ月前くらいを目安に、お願いしたい)。

 各方面の協力を得ながら、なんか面白いこと、ない?という人に向けて、スっと本を差し出すような、気の利いたブックフェアを考えていきたい。

« 前の記事 | 最新 | 次の記事 »

記事一覧