第18回 「余計なお世話ですが……」
蒸暑くなってきた。早くも短パン・Tシャツで完全夏仕様の人を見る。あるいは早すぎるタンクトップ姿も目につくようになってきた(クーラーの効いた店の中や電車では、まだまだ寒そうなんだけど)。ビジネスマンも、スーツを夏用・薄手のものに替えている。スーツメーカーも夏の気温上昇に対抗して、どれだけスーツを薄くするか躍起になっているのだろう。人によっては、ほとんどシースルーのスーツを着ている。あれ、ジャケットはまだいいが、パンツの「極薄」は、ちょっと考えもの。中に入れたシャツの裾が透けて見えていたりして、あんまりカッコよくない。シャツならまだいいが……と考えてしまう。
しかし、もともと蒸暑い日本の夏、さらにここ数年は、毎年のように「異常気象」の高温だ。スーツじゃ暑いに決まっている。それこそタンクトップだって「あちぃ~」のだから。夏のビジネスウェアは、生地を薄手にするだけでない、根本的な発想の転換が必要なのではないかと、毎年この季節になると思い出す。
加えて今年は、電力不足とのこと。これ自体は東京電力自身の不祥事が原因なのだから、いくらでも経費をかけて(損害を被って)なんとかしろよな、と思ってしまうところなのだが、ムダな電力は節約したほうがいいに決まっている。夏至の夜に電飾を消したり、都議会が1日だけ照明を落としたり、そういうパフォーマンスはいくつかあるが、恒常的な節電への取り組みが本格化している状況ではない。かねてよりオフィスの空調設定が、スーツを着ている社員の体感温度を基準にして設定されているため、制服その他で薄着になっている女性社員などには寒すぎる、という話がよくある。寒いから夏でもカーディガンが手放せないとか。ちょっと贅沢すぎるのではないかと、環境問題にあまり熱心とはいえない私でも、そう思わざるを得ない。気候に逆らわず薄着になっているほうが正しいのではないか。夏でもスーツを着ているほうが、異常なのではないか。スーツ着用のビジネス慣行を改め、夏はみんなで薄着になって、空調の設定温度を少し上げれば、大規模な節電が実現するだろう。
身近なところで言えば、書店には、出版社の営業担当者が新刊案内やおすすめ商品の紹介に来るのだが、これまたみなさん、夏でもしっかりスーツを着てくる人が多くて、いつもほんとにご苦労なこったと思う。私の感覚でいうと、スーツを着ているかどうかで、その人の信用度が変わるということもないし、ましてや発注判断を変えるつもりもない。スーツを着ていても、商品知識がいいかげんな営業さんもいるし、スーツを着ていなくても、その商品に対する熱い思いが伝わってくる例はいくらでもあるだろう。要は、話の内容だ。そう、よっぽど自分の話に自信が持てず、スーツでも着ていないとごまかしようがないという人だけが、スーツを着ていればいい(ん? そうするとスーツを着ていることがすぐさまマイナス・アピールになってしまうか。ん~、好きでスーツを着ている人にどうこういうつもりはないのだけれど)。
どうだろう、せめて書店-出版業界だけでも、暑い中わざわざスーツを着てくる必要はないよ、という新しいビジネス慣行を先取してみては。