第6回 2002年3月○日
2月27(水)。僕は毎週水曜日に休みをとっている。今日は前から心待ちにしていたイベントがあるのだ。サッカー日本代表候補による公開の紅白戦がエスパルスの本拠地、清水の日本平で行われるのだ。昨年12月の東京ランダムウォークオープン以来、プライベートで遠出する機会がなかなかなく、そろそろ気分転換に、どこかへ行きたいなあと、思っていた矢先、新聞の片隅に日本代表紅白戦の情報を見つけ早速応募、見事大当たり、先日チケット引換証が送られてきた。清水は僕が住んでいる浦和からはかなりの距離だ。スタジアムの開場時刻が14:30だから、朝何時に家を出たらいいのか、前日から新幹線の時刻表を立ち読みしながらウキウキしていた。結局12時頃の東京発こだまに乗り込み一路静岡へ。ウィークデイの真昼頃、スポーツ新聞と缶ビールを手に、ガラガラの新幹線に揺られるのは何ともいえない快感だ。まして、僕の胸ポケットには日本代表の紅白戦のチケット引換券があるのだ。妙な優越感に浸りながら思わずにんまりする自分がちょっと恐い。
14:30の会場に余裕で日本平スタジアム到着。以外と早く来れるもんだなと思いつつ、早速チケット引換の手続きを済ませスタンドへ。日本平は初めてなので勝手がよくわからなかったが、ゴール裏1F最前列の席へ運良くすべり込めた。プレス関係のカメラが少し邪魔だったけど、ピッチまでの距離がいくらもないので上々のロケーションだ。日本代表の試合はいろいろと観戦したが、今日のような代表生き残りをかけた紅白戦を生で、しかもこれ程の至近距離で見られる機会はそうめったにあるもんじゃない。いやがおうにも期待で胸が膨らむ。思わず、ぐっと気合いが入ってきた。キックオフが待ち遠しい。
選手入場。おやっと思った。そうか、今日が2002年W杯ヴァージョンの新しいユニフォーム初お披露目の日だったのだ。どことなく今までの代表と違った感じがしたのはこのためだ。キックオフのホイッスルが鳴る。食い入るように選手のプレーに集中した。代表生き残りをかけた気迫溢れるゲームになるのは必至だ。
前半終了。うーん。こんなもんかよ。何か物足りない。代表だからそれなりに皆うまいけど・・・。もっと激しいゲームを期待していたのに。チームの決め事ばかりに気がいって大胆なプレーがほとんどない。新しいユニフォームのせいもあるかもしれないけど、誰が誰だか見分けがつかない。プレーぶりが皆とても似ている。面白みがない。後半は三都主が左サイドで僕のいるゴール側へ攻め上がってくるので注目しよう。後半開始のホイッスル。一進一退、前半と何ら変わりばえもせず。唯一中村俊輔が左サイドの三都主へ通した絶妙のスルーパスの時だけ席を立ち上った。時間経過とともに、疲れがどっと出てきた。帰りのバス混むだろうな、かったるいな・・・。観戦中このような考えが去来したらもうおしまいである。後半30分過ぎ、早々にスタジアムを後にした。行きの元気は何処へやら。帰路はとても長く感じられた。やっぱり清水から浦和は遠い。
Jリーグ1stステージを間近に控え、選手にとっては難しい時期かもしれないけど、もうちょっとアグレッシブなチャレンジが欲しかった。実際水曜日のこの時間帯ここにやって来る人達は相当コアなファンだ。僕同様遠路はるばる駆けつけた人も結構いるはずだ。仕事を休んだ人もいると思う。練習の一環だったとはいえ、スタンドを埋めたファンのためにも、もっとガツガツやってほしかったなあ、プロなんだから。先日、川淵Jリーグチェアマンがニュース23で、日本代表に一言という質問に「代表の選手達はトルシエにアピールするのではなく、もっとファンにアピールしてほしい。」というようなことを言っていたが、その通りだ。ファンあってのJリーグ、そして日本代表なのだから。
数日後、いつものようにレジカウンターに入っていると、外人のお客さまが数冊本を抱えてこちらに向かってくる。ムムッ、このほっそりとした顔つきには覚えがある。何と、いつもトルシエの傍らにいる通訳のダバディさんではないか。先日の代表候補の紅白戦、あなたにはどう映りましたか?と聞いてみたくもなったが、別人だったら失礼なので(僕は外人さんの顔がいまひとつ判別できない。)遠慮してしまった。シドニーオリンピックのアメリカ戦に敗れた時、トルシエのインタビューで涙を必死にこらえながら通訳の仕事をこなしている彼の姿がとても印象的だった。画面からハートが伝わってきた。彼もまぎれもなく代表と共に戦っていたのだ。3册洋書お買い上げ。ありがとうございました。穏やかな笑顔が気持良かった。W杯まであと3ヶ月、頑張って下さい。心の中でエールを送った。