第8回 2002年4月△日
先日、地元の浦和をドライブしていると、道路の街灯に色とりどりの国旗がはためいているのが目に飛び込んできた。等間隔に日の丸をはじめ数種類の国旗が、次から次へと僕の横を通り過ぎてゆく。すき透るような春の陽射しの中、心地よいそよ風になびく旗の行列。窓を開けて外の空気をいっぱいにとりこみ、国旗はためく道を走るのは、陽気が良いせいもあるが、身も心も春らしくなっていく感じがして爽快だった。
走り慣れた街の風景も以前より輝きを増しているかのように感じられた。数種類の国旗とは、日本、ベルギー、イングランド、スウェーデン、カメルーン、サウジアラビア。言うまでもなくワールドカップ、グループリーグ、埼玉スタジアムで対戦することになる国々のものだ。開幕まで２ヶ月足らずと迫ってきた世界最大のイベント、ようやく街もワールドカップモードへ突入！といったところか。
書店も然り。ワールドカップやサッカー本の新刊が次々と出版され、雑誌やスポーツのコーナーではいよいよ勢力を拡大しつつある。そんな中、先日集英社からSportivaという雑誌が創刊された。スポーツ観戦力強化マガジンと銘打ったこの雑誌も、まずはサッカーがメインに特集が組まれていた。表紙は中田。興味深々。そして何より、その表紙の最上部に控えめに書かれた、”創刊特別綴じ込み付録FIFAワールドカップBESTゴール56DVD”の文字は僕の購買意欲をそそるに充分だったことは言うまでもない。即、購入。
帰宅後、早速DVD観賞。付録のDVDは、ワールドカップの年代、プレーヤー、ゴールスタイル別にまとめられている。それぞれの年代別をクリックすると、その大会の名ゴールシーンが映し出される。´74西ドイツ大会、空飛ぶオランダ人クライフの豪快なジャンピングボレー、完全にブラジルの息の根を止めた一撃。´78アルゼンチン大会、異様なまでに応援の紙吹雪が鮮烈だった。ドリブルでディフェンスを切り裂くケンペスの雄姿。´82スペイン大会、夢の中盤ブラジル黄金カルテット、ジーコが決めたニュージーランド戦のオーバーヘッドぎみのボレーは圧巻。´86メキシコ大会、マラドーナ伝説の５人抜き、我を忘れて僕はＴＶの前で絶叫していた。´90イタリア大会、マラドーナ、ぎりぎりまでディフェンスを引きつけ、股間を抜いたカニーヒアへの絶妙のスルーパス、終始劣勢も、たったこの一発でブラジルを沈めた。´94アメリカ大会、マラドーナの伝説の５人抜きも凄かったけど、オワイランのベルギー戦60ｍ怒濤の独走もとっても凄かった。´98フランス大会、表情にまだ幼さの残るオーウェンが驚異的なスピードでディフェンダーを抜き去り決めたアルゼンチン戦のゴールは美しかった。どのゴールも鮮烈に僕の記憶の中に刻み込まれている。観ていて、とても懐かしかった。
40歳を越えて、最近ますます物忘れが激しくなり過去の出来事もぼやけてくること甚だしいが、不思議なことにワールドカップの開催年度を基準に過去を振り返ると、何故かが然記憶がはっきりしてくる。アルゼンチン大会の時は大学受験に失敗、宅浪中でモヤモヤしていたとか、メキシコ大会の時は転職を決意したとか、フランス大会後、浦和に引っ越してきたとか等々。（何かとても地味で陰気な出来事ばかりですが）勿論、各大会の１年前、１年後、どんな出来事があったということも自然に思い出すことができる。４年毎の開催年を中心に、今までの自分史をすらすら西暦順にまとめることができるぐらいだ。４年毎、決まって僕を襲う熱病。熱のエネルギーが大きい程、当時の出来事もリアルなまま記憶の中に保存されるということか。
2002年地元開催、喜ばしいことなのかもしれないが、実は今回僕はとても複雑な気分で大会を迎える。仕事をしている限り、ほとんどのゲームを生で観戦できないのだ。夜のゲームでさえ、僕の帰宅時刻は23：00ぐらいになるから、既に終了している時間だ。ヨーロッパや南米開催ならば、深夜や早朝に睡眠を我慢すれば生で観戦できた。が、今回は自分の休日のみのＴＶ観戦ということになりそうだ。それでは消化不良この上ない。チケットも現在のところ入手出来ていない。どうしたらいいんだ。リアルタイムに味あう興奮こそワールドカップの醍醐味なのに。今さらこの歳で仕事を辞める訳にもいかないし……。というわけで、地元開催のワールドカップは、僕にとってはある意味で初めて体験するほろ苦い大会になってしまう可能性大である。将来、僕はこの２００２年という年をどんな出来事とともに回想するんだろう……。
いや、あきらめるにはまだ早い。今週のTOTOは驚くなかれ、一等賞金が７億円程キャリーオーバーされているではないか。久々に大勝負してみよう。当ったら予選のグループリーグは韓国へGOだ！