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第24回 2003年1月○日

 正月、かみさんの実家でごちそうになった沖縄そばの味が忘れられず、あれからまだ1ヶ月も経っていないのに、なにやら猛烈に沖縄そば大好き男の胃袋がうずきだした。この沖縄そば、インスタントや乾麺は結構市場に出回っているけど、生麺を売っているお店がなかなかない。銀座のわしたショップ(沖縄の物産品が豊富に揃っている。いつも活気があって、たまに訪れると僕はついついたくさんいろんなものを買いこんでしまう。)に出かけるのも億劫だし、近場で売っているところがないかとネットで探していると、ありました、川越に1軒。川越なら僕の住む浦和からは車で1時間位だ。休日、ドライブがてらに川越に沖縄そばの買い出しに行くのも悪くない。沖縄そば中毒の禁断症状がでてきたら、これからはたぶん川越へ、足繁く通うことになりそうだ。

 知ってのとおり、川越は江戸時代城下町として栄えた。独特な蔵造りの美しい建物が立ち並ぶ一画は、とても魅力的だ。観光客でにぎわう菓子屋横町で、せんべいを買って食べ歩く。昔ながらの蔵造りの町並みのたたずまいは、どこか懐かしく、心を和ませ、ゆったりとした気分になってくる。のんびりと散策していると、江戸時代にタイムスリップして、その昔たくさんの商人や町人が往きかっていたであろう町の風景が、現在のそれと重なる。そして、それがあたたかな風景に感じられて、なぜだかぽーっと幸せな気分になってくる。こんなあたたかくて、やわらかな感覚が、自然とからだに沁み入ってくるのも、僕がやはり日本人だからなんだと思う。日本っていいなあ、と思う。古くさい言葉だが、“ディスカバー・ジャパン”なのだ。

 そんな“ディスカバー・ジャパン”的な感覚が、最近世間で勢いを盛り返している。数十年前の“ディスカバー・ジャパン”のノリと意味合いとはだいぶ違ったものであると思うけど、確かに、着実に現在の日本を覆い始めているように感じる。

 僕の勤める書店でも、そのことは一目瞭然だ。お気付きの方も多いと思うが、ここ数年、「和」をテーマに扱った、雑誌、出版物が実に多い。衣、食、住に結びつく特集にはこの「和」の言葉が頻繁に使われている。和のインテリア、和の住宅、和の小物、和の装い、和食のすすめ、和風フレンチ、和を発見する旅、等々、あげればきりがない。試しに、書店の雑誌コーナーに行ってみて下さい。この「和」という文字に必ず遭遇します。小学館が読者へ直販する「和樂」なる雑誌を創刊したのも、こんなトレンドを掴んでのことなのだろう。「和樂」タイトルのごとく、「和」は楽しい、と思える人達が、じわーっと増えているのは間違いないと思う。そして、その「和」に感応している層が、僕の実感ではとても広い層にわたっているように思うのだ。老いも若きもなのである。

 昭和30年代の町を再現したテーマパークが大人気らしい。若い人達は生まれる以前の風景になぜか懐かしさを感じ、おじさん、おばさん達は純粋に昔を懐かしむ。貧しく、ものはなかったけど、なぜだか幸せだった日々にたいする郷愁は、日本人ならば同じDNAを受け継ぐものとして、老いも若きも共有できるのかもしれない。江戸時代の人々の暮らしぶりなんか実際にはわかりようもないけど、僕は川越の町並みの内に確かにその当時の人々の姿を想像することができたし、それを感じることでとてもあたたかな気持になった。テーマパークで昭和30年代の日本人の生活ぶりを想像する若い人達も、僕と同じような感慨を抱いたのではないかと思う。

 話は戻るけど、「和」を扱った出版物で最近僕が興奮した本はというと、「しばわんこの和のこころ」(絵と文 川浦良枝 白泉社)がある。昨年末、第2弾「しばわんこの和のこころ2-四季の喜びー」も発売された。(版も重ねていてかなりのヒット商品です。)かわいいイラストで綴られたしばわんこの「和」の世界に、年甲斐もなく僕はぐっと引きづりこまれた。内容もさることながら、僕を驚かせたのは、書店員として気づいたことでありますが、買っていかれる方々が、正に老いも若きもなのである。買う動機はそれぞれの世代で色々と意味合いは違っているとは思うけど、これだけ幅広い層に支持されるというのは、各世代とも、それぞれに楽しめる、ということに尽きるのではないだろうか。皆、日本人として、なぜだかぽーっとあたたかで幸せな気分にさせられるのだ。そして日本人を幸せにする「和」のこころを表現するメタファーにしばわんこを使っているところが、なんともニクイ、ウマイ!

 帯に書かれた作家の田辺聖子さんの文章がこれまたスゴイ。「私、しばわんこちゃんに夢中です!」「今日も私、わくわくです。しばわんこちゃん抱きしめて」おっ、おっ、おーい。スゴイ表現だ。しばわんこに対する熱くて深いおもいが強烈に伝わってくる。彼女もしばわんこにさぞかし、ぽーっとあたたかい幸せをいっぱい貰ったのだろう。彼女をこれ程までに虜にするしばわんこ、やはりただものではない。

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