第15章
『それでも応援してくれる人たちに、感謝感激雨あられ』
- 『酔って候<新装版> (文春文庫)』
- 司馬 遼太郎
- 文藝春秋
- 570円(税込)
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- 『今夜、すベてのバ-で (講談社文庫)』
- 中島 らも
- 講談社
- 560円(税込)
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- 『地図のない街 (ハヤカワ文庫JA)』
- 風間 一輝
- 早川書房
- 571円(税込)
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- 『漂泊者(ながれもの) (角川文庫)』
- 風間 一輝
- 角川書店
- 680円(税込)
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- 『不器用な愛 (角川文庫)』
- 風間 一輝
- 角川書店
- 680円(税込)
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就職活動ねぇ......。しなきゃマズいのは勿論分かっているんだが、どーもイマイチ気が乗らない。気が乗る乗らないって問題じゃないのも無論理解している心算だが、積極的に動く気にはなかなかなれない。「散々苦労した挙句の果てが、結局退職→失業者かよ」っていう落胆もさることながら、例の割り増し退職金のお蔭で当面は食うに困らないから、「ナントカしないと早晩アゴが干上がるぞ」ってな実感がどうにも薄い。
では毎日何をしているかと言うと、やはりじっとしてる訳にもいかなくてついフラフラと散歩に出たりしたら、例えば最寄りの大手家電屋で、ゲームソフトの中古バーゲンを発見したりする。無造作にワゴンに積まれた処分品は、『グランツーリスモ2』=¥250とか『バイオハザード4』=¥500とか、殆ど「投げ売り?」ってな状況。大して欲しくもなかったが値段に釣られて思わず買って帰ったら、いやもうハマるハマる。『バイオハザード4』なんか、心臓麻痺で何度も死にそうになりながら、10時間後には疲労困憊で息も絶え絶え。それでもなんとかクリアしたどーっ! 激ヌルモードだけどサ......。
いや、兎に角ね、ヒマなんだよ破滅的に。せめて本でも読めりゃあ良さそうなもんだが、前回も書いた通り、将来が不安だとかつてのようにスッと物語に入り込めない。だったら就活しろよと自分でもツッ込みたくなるが、さっきも述べたように、なかなか気持ちが前を向かない。結果どうなるかと言うと、俺の場合、酒が増える。異常なくらい増える。
別にアルコールで不安を紛らわそうってんじゃないんだが、元々酒好きな上に何しろ天下無敵の失業者だから、くどいようだがやることがない。少々酔っ払ったからといって、どこかの大臣のようにオフィシャルな場で醜態さらす心配も無い。ってか今の俺の生活には、「オフィシャル」という概念自体が存在しない。するとどうなるかっつーと、困ったことに午前中からつい飲んじゃう。
生来朝型の体質な上に日がな一日ゴロゴロしてるもんだから、深夜2時3時まで夜更かししても翌朝7時には目が覚める。まぁ、体も頭も全く疲れてないんだから当たり前っちゃ当たり前なんだが、一般の勤め人並みに7時に起き出したところで、何度も言うように、することぁ全く無いんだわ。で、何と無くシャワー浴びてサッパリして、着替えて新聞など読んでるうちに、そこはかとなく口寂しくなってくるんだな。煙草吸ってる時期ならここで間違い無く一服つけるタイミングなんだけど、幸か不幸か今では吸いたいとさえ思わない。となると、だ。シャワーで多少体がほてっていることもあって、ついつい冷蔵庫のビールに手が伸びる。勿論この時点では、正体無くなるまで呑む心算は毛頭無い。そもそもビールなんて、本当に旨いのは最初の一杯だけだし、収入が途絶えて酒代が嵩むんでは、それこそアゴが干上がるぞ。
ところが、だ。一杯の心算で飲み始めても、アルコールが回ってホロ酔いになると、何だか色んなことがどうでも良くなるのは酒飲みの常。♪ちょいと一杯の心算で飲んで、いつの間にやらはしご酒〜 とは、全くよく言ったもんである。幕末の四賢侯の一人、鯨海酔候ことかの山内容堂も言っている。《昨は橋南に酔ひ 今日は橋北に酔ふ 酒在り飲む可し 吾酔ふ可し》、と。或いは《酒は固より欠くべからず。吾言わず、之を温む》なんて、いい言葉だとは思わんか? なんか久し振りに『酔って候』(司馬遼太郎、文春文庫)読み返したくなってきた。
っつーか、生活改善しろよ俺。午前10時から午後10時までダラダラと呑み続けて一升空けちゃったり、コレ日常にしちゃうとマズいだろ、絶対に。アル中まっしぐらだぞ、このままじゃ。
ここで中島らもさんの『今夜、すべてのバーで』(講談社文庫)を思い出す人は、結構多いんではなかろうか。俺が初めて読んだのは10年以上前のまだ20代の頃だったが、「将来、アル中にだけはなりたくない」と、心底思ったものだった。とは言えラストはこれ以上無いくらいに爽やかに〆てくれてる作品だから、未読の若者には胸を張ってオススメしたい。
で、アル中文学の東の横綱が『今夜〜』だとすると、西の横綱は、知る人ぞ知る『地図のない街』(風間一輝、ハヤカワ文庫)であると思うが如何か? 北岡吾郎なるサラリーマンが或る日、絡んできたきたチンピラを逆にのしてしまったことからドロップアウト、いつしか山谷に流れ着いた頃には立派なアル中。そこで出会ったアル中仲間と三人で、死に物狂いで断酒に挑む......。っつーと、一体どんな話かと思われるかも知れないが、ハードボイルドタッチで進む物語には友情在り推理在りアクション在りで、そうそうお目にかかれない傑作エンターテインメント!
ところがこの風間一輝さんの作品は、その殆どが現在入手困難な希少本。前科者の私立探偵とインテリヤクザがつるんで悪を討つ----『漂泊者』(角川文庫)だの、『暗殺の街』として仲村トオル主演で映画化された傑作「されど卑しき道を」を含む珠玉の短編集----『不器用な愛』だの、失くすには余りに惜しい作品が、軒並み絶版or品切れ重版未定で注文不可。
これらの作品を俺に教えてくれたA社のH氏や炎の営業・杉江氏と風間一輝応援団など結成してはみたものの、活動を開始した途端に俺はA店に島流し、H氏もめったやたらと忙しくなったりして、開店休業しっ放し。いつか実現するぞと意気込んではみても、業界から離れてしまった俺に出来ることなど何も無い......。
ってなことを考えてると、やっぱり立ちたくなってくるんだなぁ、本屋の店先に。
そして、そんな俺の内心を見透かしたかのように、いやまぁ色んな出版社の色んな人が、応援してくれたり心配してくれたり、未だに世話を焼いてくれるには驚いた。どこそこの書店で社員を募集してるらしいってな連絡をくれたり、「頑張れケン46会」みたいな場を設定して酒を振る舞ってくれたり、激励のメールもホントに沢山貰って、しかもその殆どが「まさか!? だけど半分やっぱり......」ってなニュアンスだったから、俺が皆にどんだけ理解されていたかの証拠のようで、読んでて涙が出てくることが再三再四。こういう人たちともう仕事が出来ないってな現実は、自分で選んだ道とは言え、若いころの失恋なんかより余っ程つらい。
そうやって何と無く悶々としていた或る日のことだよ。業界の大先輩、Kオジサマから電話があったのは。退職した時にも天文学的に熱いメールを貰っていたんだが、今度は開口一番「ケン46さんさぁ、某書店のおエライさんが会いたがってるんだけど、どう?」って、いやいやいやいや、どうもこうもへったくれも無いですからっ! 「すぐに採用に結びつくかどうか判らないけど、会うだけ会ってみる?」ハイハイハイハイ。会います、行きます、すぐにでもっ! 「じゃあ、先方とスケジュールすり合せて、また連絡します」。
なんか、陽が差してきたかも!? いやいや待て待て。下手に期待しすぎると、ポシャッた時のショックがでかいぞ。Kオジサマだって《すぐに採用に結びつくかどうか判らない》って言ってただろ。舞い上がるな、俺。
ってか、皆さんなんでそこまでしてくれるんですか? 在職中ならともかく今となっては、幾ら俺の面倒見たところで一銭の得にもならんのに......。ってな考え方は、実は無礼そのものなんだよな。「今までだって、得したいから付き合ってきた訳じゃねーぞ、コラッ!」って、怒られちゃうよね。ホント、この時期皆さんから頂いた数々のメールは、恐らく一生捨てられない。
逆に、皆の内の誰かが今の俺と同じ境遇に立った時、果たして俺にどれだけの事が出来るのだろう? 在っても無くても大差無い程度の役にしか、立たんだろうなぁきっと。そう考えると退職してからこっち借りばっかりが増えていってるようで、この分じゃ業界に復帰した後の返済が大変だ。
って、勝手に復帰出来る気になってんじゃねー、どあほうっ! そんな訳で、今回で終わらす心算だったのに終われませんでした。次回『県境の長いトンネルを抜けると、新天地だった』。しつこくてゴメン。
では毎日何をしているかと言うと、やはりじっとしてる訳にもいかなくてついフラフラと散歩に出たりしたら、例えば最寄りの大手家電屋で、ゲームソフトの中古バーゲンを発見したりする。無造作にワゴンに積まれた処分品は、『グランツーリスモ2』=¥250とか『バイオハザード4』=¥500とか、殆ど「投げ売り?」ってな状況。大して欲しくもなかったが値段に釣られて思わず買って帰ったら、いやもうハマるハマる。『バイオハザード4』なんか、心臓麻痺で何度も死にそうになりながら、10時間後には疲労困憊で息も絶え絶え。それでもなんとかクリアしたどーっ! 激ヌルモードだけどサ......。
いや、兎に角ね、ヒマなんだよ破滅的に。せめて本でも読めりゃあ良さそうなもんだが、前回も書いた通り、将来が不安だとかつてのようにスッと物語に入り込めない。だったら就活しろよと自分でもツッ込みたくなるが、さっきも述べたように、なかなか気持ちが前を向かない。結果どうなるかと言うと、俺の場合、酒が増える。異常なくらい増える。
別にアルコールで不安を紛らわそうってんじゃないんだが、元々酒好きな上に何しろ天下無敵の失業者だから、くどいようだがやることがない。少々酔っ払ったからといって、どこかの大臣のようにオフィシャルな場で醜態さらす心配も無い。ってか今の俺の生活には、「オフィシャル」という概念自体が存在しない。するとどうなるかっつーと、困ったことに午前中からつい飲んじゃう。
生来朝型の体質な上に日がな一日ゴロゴロしてるもんだから、深夜2時3時まで夜更かししても翌朝7時には目が覚める。まぁ、体も頭も全く疲れてないんだから当たり前っちゃ当たり前なんだが、一般の勤め人並みに7時に起き出したところで、何度も言うように、することぁ全く無いんだわ。で、何と無くシャワー浴びてサッパリして、着替えて新聞など読んでるうちに、そこはかとなく口寂しくなってくるんだな。煙草吸ってる時期ならここで間違い無く一服つけるタイミングなんだけど、幸か不幸か今では吸いたいとさえ思わない。となると、だ。シャワーで多少体がほてっていることもあって、ついつい冷蔵庫のビールに手が伸びる。勿論この時点では、正体無くなるまで呑む心算は毛頭無い。そもそもビールなんて、本当に旨いのは最初の一杯だけだし、収入が途絶えて酒代が嵩むんでは、それこそアゴが干上がるぞ。
ところが、だ。一杯の心算で飲み始めても、アルコールが回ってホロ酔いになると、何だか色んなことがどうでも良くなるのは酒飲みの常。♪ちょいと一杯の心算で飲んで、いつの間にやらはしご酒〜 とは、全くよく言ったもんである。幕末の四賢侯の一人、鯨海酔候ことかの山内容堂も言っている。《昨は橋南に酔ひ 今日は橋北に酔ふ 酒在り飲む可し 吾酔ふ可し》、と。或いは《酒は固より欠くべからず。吾言わず、之を温む》なんて、いい言葉だとは思わんか? なんか久し振りに『酔って候』(司馬遼太郎、文春文庫)読み返したくなってきた。
っつーか、生活改善しろよ俺。午前10時から午後10時までダラダラと呑み続けて一升空けちゃったり、コレ日常にしちゃうとマズいだろ、絶対に。アル中まっしぐらだぞ、このままじゃ。
ここで中島らもさんの『今夜、すべてのバーで』(講談社文庫)を思い出す人は、結構多いんではなかろうか。俺が初めて読んだのは10年以上前のまだ20代の頃だったが、「将来、アル中にだけはなりたくない」と、心底思ったものだった。とは言えラストはこれ以上無いくらいに爽やかに〆てくれてる作品だから、未読の若者には胸を張ってオススメしたい。
で、アル中文学の東の横綱が『今夜〜』だとすると、西の横綱は、知る人ぞ知る『地図のない街』(風間一輝、ハヤカワ文庫)であると思うが如何か? 北岡吾郎なるサラリーマンが或る日、絡んできたきたチンピラを逆にのしてしまったことからドロップアウト、いつしか山谷に流れ着いた頃には立派なアル中。そこで出会ったアル中仲間と三人で、死に物狂いで断酒に挑む......。っつーと、一体どんな話かと思われるかも知れないが、ハードボイルドタッチで進む物語には友情在り推理在りアクション在りで、そうそうお目にかかれない傑作エンターテインメント!
ところがこの風間一輝さんの作品は、その殆どが現在入手困難な希少本。前科者の私立探偵とインテリヤクザがつるんで悪を討つ----『漂泊者』(角川文庫)だの、『暗殺の街』として仲村トオル主演で映画化された傑作「されど卑しき道を」を含む珠玉の短編集----『不器用な愛』だの、失くすには余りに惜しい作品が、軒並み絶版or品切れ重版未定で注文不可。
これらの作品を俺に教えてくれたA社のH氏や炎の営業・杉江氏と風間一輝応援団など結成してはみたものの、活動を開始した途端に俺はA店に島流し、H氏もめったやたらと忙しくなったりして、開店休業しっ放し。いつか実現するぞと意気込んではみても、業界から離れてしまった俺に出来ることなど何も無い......。
ってなことを考えてると、やっぱり立ちたくなってくるんだなぁ、本屋の店先に。
そして、そんな俺の内心を見透かしたかのように、いやまぁ色んな出版社の色んな人が、応援してくれたり心配してくれたり、未だに世話を焼いてくれるには驚いた。どこそこの書店で社員を募集してるらしいってな連絡をくれたり、「頑張れケン46会」みたいな場を設定して酒を振る舞ってくれたり、激励のメールもホントに沢山貰って、しかもその殆どが「まさか!? だけど半分やっぱり......」ってなニュアンスだったから、俺が皆にどんだけ理解されていたかの証拠のようで、読んでて涙が出てくることが再三再四。こういう人たちともう仕事が出来ないってな現実は、自分で選んだ道とは言え、若いころの失恋なんかより余っ程つらい。
そうやって何と無く悶々としていた或る日のことだよ。業界の大先輩、Kオジサマから電話があったのは。退職した時にも天文学的に熱いメールを貰っていたんだが、今度は開口一番「ケン46さんさぁ、某書店のおエライさんが会いたがってるんだけど、どう?」って、いやいやいやいや、どうもこうもへったくれも無いですからっ! 「すぐに採用に結びつくかどうか判らないけど、会うだけ会ってみる?」ハイハイハイハイ。会います、行きます、すぐにでもっ! 「じゃあ、先方とスケジュールすり合せて、また連絡します」。
なんか、陽が差してきたかも!? いやいや待て待て。下手に期待しすぎると、ポシャッた時のショックがでかいぞ。Kオジサマだって《すぐに採用に結びつくかどうか判らない》って言ってただろ。舞い上がるな、俺。
ってか、皆さんなんでそこまでしてくれるんですか? 在職中ならともかく今となっては、幾ら俺の面倒見たところで一銭の得にもならんのに......。ってな考え方は、実は無礼そのものなんだよな。「今までだって、得したいから付き合ってきた訳じゃねーぞ、コラッ!」って、怒られちゃうよね。ホント、この時期皆さんから頂いた数々のメールは、恐らく一生捨てられない。
逆に、皆の内の誰かが今の俺と同じ境遇に立った時、果たして俺にどれだけの事が出来るのだろう? 在っても無くても大差無い程度の役にしか、立たんだろうなぁきっと。そう考えると退職してからこっち借りばっかりが増えていってるようで、この分じゃ業界に復帰した後の返済が大変だ。
って、勝手に復帰出来る気になってんじゃねー、どあほうっ! そんな訳で、今回で終わらす心算だったのに終われませんでした。次回『県境の長いトンネルを抜けると、新天地だった』。しつこくてゴメン。