第42回
地方・小出版流通センターは、その名のとおり、地方の出版社や小さな出版社の書籍・雑誌を円滑に流通させるために設立された会社である。地方にある出版社の刊行物はその多くが地元の書店で販売されるだけだが、このセンターのおかげで、地方の出版社や、取次会社と口座を開設できない小さな出版社の書籍や雑誌が、全国の書店で手に入れることができる。
地方・小出版流通センターが取り扱っている雑誌のリストを眺めていて、見たことも聞いたこともない雑誌があまりにも多く、驚いた。長い年月、書店員をしていながら、知らない雑誌のいかに多いことか。キャリアと知識は別物なのだと打ちひしがれる。
それにしても、世のなかには奇妙な専門誌があるものだ。打ちひしがれつつも、その幅広さ、奥深さに感動した。爬虫類・両生類の専門誌、おりがみの専門誌、昆虫の専門誌、お酒の専門誌・・・。
「最近、知ったのだけど、めだかの専門雑誌があるんだよ」
感動をおすそ分けするつもりで、同僚や仲間たちに教えてあげた。しかし、彼らは異口同音に「へえ。でも売れないだろうね」と答えるのだった。
手塚会長にも、雑談の最中に話してみたところ、こう返ってきた。
「うちにその雑誌を置いたら、好きな人がそれを見つけて、きっとすごく喜んでくれるだろうな」
そうなのだ。この言葉こそ、わたしが待っていた“答え”だった。
商売をしているのだから、売れるとか儲けるというのはとても大事な前提だが、それよりも、わたしたちがまず想像し、期待しなければならないのは、その雑誌とお客さんとの運命の出合いではないだろうか。
広島県福山市で生まれ育った戸田拓夫さんは、現在、日本折り紙ヒコーキ協会の会長である。会社を経営しつつ、福山市にある紙ヒコーキ博物館館長を務めている。福山市の北にある神石高原町に「紙ヒコーキ・タワー」をつくり、全日本折り紙ヒコーキ大会を開催し、事あるごとに子どもたちを集めて折り紙ヒコーキの作り方と素晴らしさを教えている。『飛べとべ、紙ヒコーキ』(二見書房)、『スーパーおり紙ヒコーキ』(いかだ社)をはじめ数多くの折り紙ヒコーキの本も出している。
戸田さんが今、入れ込んでいるのは、紙ヒコーキを宇宙から飛ばして地球に帰還させること。そんな夢みたいなことを、東京大学大学院の航空宇宙工学を研究するメンバーたちと大真面目に実験を重ねながら実現させようとしているのだから驚きだ。
戸田さんをすっかり病み付きにさせた折り紙ヒコーキ。出合いは一冊の本だったという。書店でたまたま見つけた折り紙ヒコーキの本を手に取って、あっという間に紙ヒコーキのとりこになったそうだ。それが今では、ハサミやのりなど一切使わない純然たる折り紙ヒコーキ部門での手投げ室内滞空時間の世界記録保持者である。
8つの会社を経営していて多忙な身であるにもかかわらず、子どもたちに折り紙ヒコーキの楽しさを教えるための時間と、自分の夢を叶えるための労力は惜しまない。
戸田さんが書いた折り紙ヒコーキの本を読んで、のめり込んだ子どもによって、戸田さんの世界記録が破られる日が来るかもしれない。
本とはそんな夢みたいなことを現実に変える力を持っている。
本は、作る人の元を旅立ち、流通させる人の手を通り、書店を経由して、読む人の手に渡る。出合いの場である書店の売場にどの本を置き、どの本を置かないかの決定権を書店員は持っている。心してかからなければならない。