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第50回

女性はなぜ買い物に時間がかかるのか?
『女性はなぜ買い物に時間がかかるのか?』
織田 隼人
PHP研究所
1,260円(税込)
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婦国論-消費の国の女たち-
『婦国論-消費の国の女たち-』
小原 直花
弘文堂
2,625円(税込)
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 メンバーズ・カードを全店に導入して二年が経とうとしている。このカードを持てば、本やCDなどを買うときポイントが付き、貯まるとクーポン券がもらえる。会員はもうすぐ30万人に届くはずだ。
 カードを発行する際、お名前、住所、生年月日などをお聞きする。この情報によって、わたしたちは、どこからどんな人が来て何を買っているのかを知ることができるのだ。メンバーズ・カードは、単なるポイントサービスが目的ではなく、顧客の購買情報を得ることで、品揃えや販売促進などに活かしたいのである。情報をくださるお客様にはその対価としてポイントを付けているというわけだ。わたしたちの店が「欲しい本がいつもある」「売場を見るだけで楽しい」書店になるために不可欠な情報だと考えている。
 しかしながら、購買データを活かして目に見える効果をあげることはなかなか難しい。まだまだ試行錯誤の連続である。
 
 そんなとき、購買履歴を分析していてある発見をした。
 直木賞受賞作であり、映画化された『容疑者Xの献身』をはじめ、『夢をかなえるゾウ』『ホームレス中学生』といった大ベストセラーをどんな人が買っているかを調べたところ、最も多いのは四十代女性だった。『ハリーポッター』も『オバマ大統領演説集』も同じ結果が出た。あらゆるベストセラー作品のトップシェアを占めるのは四十代女性。四十代女性は、世の中で最も流行に敏感で、好奇心が強く、行動力がある世代といえるかもしれない。
 さらに、購買層を調べてみる。
 通称「赤本」と呼ばれる教学社の大学入試シリーズのトップシェアは、十代男性(男子高校生)で、その次は、四十代女性。ケータイ小説のトップシェアは十代女性(女子中高生)、第二位は、四十代女性。
 はたと気づいた。購入者=読者とは限らないのである。
「学習塾の先生が推薦する参考書を買って来て」「このドラマの原作を買って来てくれないか」
 夫や子ども、親から頼まれ、買いに来ているのだ。四十代女性こそ、家族の中で最もフットワークが軽く、面倒見が良く、しかも財布の紐を握っているケースが多いわけだ。価格にも敏感なので、ポイントサービスが付いたメンバーズ・カードを利用し、上手に買い物をしている人が多いのかもしれない。
 家族に頼まれた本をどの書店で買うのかは四十代女性が決めるのだから、どうすれば四十代女性が来たいと思う書店をつくれるかを考えれば良い。それには品揃えに限らず、探しやすさ、店舗の雰囲気、駐車場などの使いやすさ、清潔なトイレなどにも目を向けなければならない。
 四十代女性を制する者は書店を制す。いやすべての小売業を制すに違いない。

さて、困った。何を隠そう「女心がわからない」
物心ついてから何度もこの言葉を浴びてきたわたしが、どうして四十代女性を理解できようか。いや、できるのである。すべての答えは本の中にある。幸いなことに「書店」には本が、腐るほど、もとい売るほどあるのだ。さあ、女心に挑戦だ。

『女性はなぜ買い物に時間がかかるのか?』(織田隼人・PHP研究所)。
 たとえば、パソコンを買うとき、女性は「イメージ」を重視するが、男性は「機能」を重視する。男のクチコミは「自慢」と「ウンチク」から始まる。だから能書きが大好き、理屈が多い。
 そういえば、女性の方がエコに熱心だ。地球にやさしい、環境にやさしいのであれば、どんなに小さなことでも実行していきたい。一方、男性は、数的根拠はあるのか、証拠はあるのか、その行為がどれほどの影響力を持っているのかにこだわる。だから、『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』(武田邦彦・洋泉社)、『偽善エコロジー』(武田邦彦・幻冬舎新書)、『ほんとうの環境問題』(池田清彦、養老孟司・新潮社)の購買客は圧倒的に男性が多い。

『婦国論~消費の国の女たち~』(小原直花・弘文堂)。
 生活者の価値観は大きく二分している。
 バブル景気崩壊前に就職した人たち(戦後生まれでかつ1991年に高校を卒業していた、1945年~1973年生まれの人たち。現在、35歳~63歳)=プレバブル世代と、それ以降に生まれたポストバブル世代だ。
 プレバブル世代は、頑張ったら頑張った分だけ報われる」という価値観を持ち、今日よりも明日、今年よりも来年、生活は良くなるはずと思っている。ぼーっとするのはもったいないと考えている。一方、ポストバブル世代は、「どんなに頑張っても報われない」→「先のことはわからない」だから、とにかく「今を楽しむ」生活をしたいと思っている。こちらは、ぼーっとすることこそ贅沢だという考え方である。
 情報のとらえかたも異なる。プレバブル世代の女性は、TV・新聞などのマスメディアの情報に影響され、ポストバブル世代は、自分のまわりにいる人の意見を尊重する。そして、いつの時代もクチコミが一番強い。

 ルールより感情を重視する女性だが、男性に比べ、モノをシビアにとらえる感覚を持っている。生活に根ざしてモノ・コトを選択する力は女性が上回っている分、消費決定の持ち札が多い。家計における財布の紐は相変わらず女性が握っている率が高い。なるほどなるほど。
 四十代女性は、「○○しながら□□する」のが当たり前。たとえば、洗濯物をたたみながらストレッチをし、料理を作る時はテレビが観られないのでラジオを聴く。
 今の時代からズレていないことこそ若さを保つ秘訣、情報をどんどん吸収することが若さの秘訣。だから、新情報、若者情報に敏感で、流行に遅れることなく、常に時代の中心にいたいという思いで消費している。...らしい。これらは全部、本の受売りである。
と、まあ、本を読んで納得した気分になっているが、これでわかれば、わたしは何十年も「女心がわからない」と言われてはいない。きっと、これを読んでいる女性に嘲笑されているはずである。笑われながら、少しずつ改善していこうと思う。

書店を、小売業を制する道のりは果てしなく遠い。

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