第5回
本を棚に並べるということは書店のキホンです。平台に積むということもありますが、何はともあれ棚がキホン。これができないと始まらない。
棚の空いてるところにぶち込んじまうこともできるわけだから、作業として“できない”なんてことはないんだけど、つまりはいつも“より売れるように”考え続けて並べます。これがなかなかね。というわけで、今回のお題は『棚』。ま、棚への並べかた。
最近は、棚から売れることが厳しくなってきていて、なるべく表紙を見せて目立たせたい。なので、平台だけでなく、棚のなかにも表紙を見せて陳列し(面陳して)アピールすることも多くなりました。
でもね、これはちょっと無理。棚はやはり面陳用に作られた什器ではないので、なにかうまく工夫しないとね。とっても硬い函入りの本なら立てかけてもいいけれど。
面陳専用の什器がなく、止むなくいつもの棚を面陳で使いたい場合は、棚板を傾かせます。奥側を下げ手前側を上げて、面出しした本がずり落ちないようにする。このとき、棚板の傾きは奥側が70度くらいになってしまっています。つまり、70度の枠に90度の本の角を押し込めることになって、これはいけません。もう、ほんとにいけません。
これを解決するには、角材(これ、今一般的な単語ですか?70年代の響きがあるような気がしますが)を後ろ側に入れて、90度を確保します。けっこう厚みがある大きめのものでないと、入れた効果はないよ。
要するに、本のどこも歪ませずに、きちんと陳列できるということが必須条件です。
面陳する際に、同じ本を下敷きにして陳列するのも避けたい。お客さまに買っていただこうとしている本を、座布団代わりにしては申し開きができません。
そして、並べる順番。文芸書を棚に並べるとき、おおよそは出版された順に並べます。つまり、古いものから新しいものへ、左側から右側へ。一番右側に最新刊が並ぶというわけですね。
そうは言っても、シリーズものと不揃いな版型の扱いに少しだけ悩みます。
新刊の合間に思い出したように出版されるシリーズものもあり、刊行順という原則とどちらを優先したらいいのかしらん。それに判型も、文芸書定番サイズの四六判ばかりではないし、見た目を考えると凸凹は避けたいし。それに、四六判用にしつらえた棚に、1冊あるA5判の本を入れる高さを確保するために、棚一段=40冊分を減らすのも、うむむむ。オマエさえ入ってこなければ…と、理不尽な怒り。置きづらい商品=返品したい、という誘惑とも戦わなければ…。
渋谷のお店にいた頃、20代カップルが文芸書の小説の棚で楽しそうに語らっていました。肉体労働中のワタシではありましたが、本屋さんでデートという古典的な二人を応援すべく、棚の陰から温かく見守っていました。
楽しそうな二人は、おもむろに棚の本の入替えを始めました。あれれ?ボランティア?10冊ほどまとめてあったある女流作家の著作が関心の的。ややあって厳密な刊行順に並び替えて作業完了。
そして二人は、微笑を湛えたまま去って行きました。義賊のようなカップルの背中を見送ったワタシは、なにごとも中途半端はいかんなと思ったのでした。