第6回
書店のサービスに「カバーをお掛けしますか?」があります。
カバーを同送してくれるネット書店もあるかもしれませんが、「文庫全部ととこの新書1冊だけ掛けて」なんていう細かい要望に応えるのは、やはり実際に接客しているリアル書店ならではでしょう。
ということで今回は“カバー”。
ワタシが書店に入社したときには、お客さまに尋ねることはせず、なんでもかんでも必ず掛けるよう教育されました。どこで買っても同じなんだから、せめて丁寧にカバーを掛けて差し上げて、宣伝もしていただけるんだからって。要らないよと言われることもあまりなかった。言われるより前に、すばやく掛けちゃう。
そして、いましたね、カバー折りの名人が何人も。ものすごく早くて正確。特に文庫売場は大量に作製しなくちゃいけないので、カウンターが家内工場のよう。
「いらっしゃいませ」と言いながら、パサーッパサーッ(揃えて置いた数枚の紙の上側下側を、かまぼこ板を使って内側に折り返し)、パサーッパサーッ(次の束で同じことを繰り返し、片手でつかめる限度=10センチくらいの高さになるまでどんどん重ね)、パサパサパサパサ(重ねたその束の上側の折り返しを1枚ずつはがし)、ペソーッペソーッ(かまぼこ板で折り目をつけ)、ドサッ(束ごと裏返して)、ササササササ(今度はたわみを防ぐために、紙をちょっとずらし)、ペソーッペソーッ(かまぼこ板)、ドサッ(また裏返し)、パサパサパサパサ(下側の折り返しも1枚ずつはがし)、ペソーッペソーッ(かまぼこ板)、ドサッ(裏返し)、ササササササ(ずらし)、ペソーッペソーッ(かまぼこ板)、カッカッカッカッ(両手で揃えて乱れを整え)、ドサッ(一束できあがり)。
たぶん書店ごといろいろ長年のノウハウがあると思いますが、最初に勤めた書店のカバー用紙はとても硬かったので、きちんと折るには一度に3枚くらいが限度。ケバだちが自慢の紙だった(実際に入社したときの研修で、先輩社員が嬉しそうに話していて驚いた記憶があります。今なら納得)。道具は紀文か鈴廣のかばぼこ板でした。お正月が過ぎると各カウンターの道具が一斉に新しくなったりね。
かまぼこ板は段々角が摩滅してきて、ペソーッのときに折り目が決まらずゆるみが出たり、少々ささくれ立ってもきて、紙を破いたりしちゃう。なので、スタンプ台をセロテープでぐるぐる巻きにして使っていたこともありました。これは角の鋭角具合がなかなか良かったんだけど、あるときパカッと開いて、手からカウンターから紙から全て真っ赤になって、止めました。
カバーが本に合って折られているかどうか、すごーくすごーく気になります。文庫なら徳間文庫が新潮文庫あたりを見本に折り、B6並装は日本実業出版社、四六版上製は新潮社、A5判は並装上製とも版元にあまり差はないんだけど、四六並装、これが各社まちまちでなかなか難しく…。
ときどき、手順の最後、カッカッカッカッを思いついたようにやってみて、飛び出たり引っ込んだりしている規格外製品を抜き出し、折り直します。カバーの右端を左端を重ねて、斜めに折られていないかも点検します。折ったスタッフはたまりませんね。むふふ。
本は、読んでる間ももちろん楽しいのですが、読む前もまた楽しい。遠足の前の晩みたい。寝る前に枕元でリュックサックを開けたり閉めたりしたように、オビを取って表紙を眺めたり、あとがきや参考文献を読んだり、そして書店のカバーを外したり掛け直したり。
そうです、この作業がバカバカしくも愉楽のひととき。カバーを外して、あつらえたかのようにピッタリに折り直し、昔の本屋さんみたいに、本の背に当たる部分のカバーにハサミで切り込みを入れ、端を表紙に斜めに折り込んで惚れ惚れ。おお、こんなにきれいにカバーがかかったぞ! どこもかしこもピッタリだ!
今「カバーをお掛けしますか?」と伺うのは、要らないお客さまが増えたのも理由のひとつ。以前は掛けることがサービスだったのですが、地球にやさしくするための簡易包装云々もあり、掛けないことも◎になってきました。要望を伺うというのがサービスになってきたわけですね。
しかーし、ぜひワタシが折ったカバーをお客さまに掛けたい。カウンターにお持ちいただいた本に合ったカバーをスッと取り出し、ピッタリ着せてお見送り。どんなに▲◎?$>!%□な本でも見違えるようになる。はず。