第7回
いつごろ気が付いたんだったかしらん。左右の手の甲に1センチ四方に拡がる、シワのないつるつる地帯。平らでちょっと硬い。震源地は、拳骨を握ると最も高く飛び出す関節、中指の下のところ、そこよそこ。
更に症状が進むと、無シワ地帯は領土を上下に拡大していきます。そのうち中指の第2関節にも出現。こちらは直径7ミリくらい。右手より左手の方が重症。
要するに"タコ"ができたのですね。なぜこんなところにタコができたか?
それは、棚を叩いているからです。正確には、棚に入っている本の背を、手の甲で叩いている。
ということで、今回はペンダコならぬ"本叩きタコ"(こんな名詞はないな)。
整理整頓された美しい棚とは、(1)棚に本が指1本分の余裕を残してピッチリ入っており、(2)左右の端に大きめの本が入り、棚中央にいくに連れて小さめの本が並び、(3)並んでいる本のスリップは、真ん中に1枚だけ飛び出さずにきちんと挟んであり、(4)帯はずり上がってもずり下がってもいなくてピッタリ巻かれており、もちろん破けたり色が焼けたりしているオビは無く、(5)本の背がみなこちらにまっすぐ向いている状態です。
で、この(5)を実現させるために、ワタシは左手の甲で棚を優しく叩いて整えます。右手で棚に本を入れては、左手を裏返して叩く。右手でスパッ、左手でトントン。スパッ、トントン。
判型が小さくて奥へ引っ込んじゃった本も、引っ張り出して両隣の本と背を合わせて叩くと、とりあえずは日の当たる場所に背表紙が出てくるでしょ。
タコに気が付いた頃、先輩の手をひっそり確認したら、無い...。ワタシより何年も多く叩いていて、さぞや巨大なタコが出来ているに違いないと思ったのに。おお、何故ワタシだけがこんなタコ持ちに?
先輩の棚入れの様子を盗み見ていると、叩いてないよ。その代わりに、大きな手のひらをめいっぱい拡げて、本の背にグガガガガガって押し付けてる。右手で本を入れては、左手でグガガガガガ。確かにそれでも効果は同じ。そしてタコはできない。
棚の背をきれいに整えるのに、手ではなく商品を使ってしまうこともありました。まず右手にハードカバーの本を1冊持ち、左手で棚の本を5、6冊、天を引っ掛けて前に出し、右手に持った本を横にして背部分で叩き入れる...。これまた本の背がピタッと揃って整列、キモチのいいこと。
新店をオープンさせる最後の仕事は、いつもこれ。おしろいを一刷毛、という具合ですね。
渋谷のお店にいた頃、その日も熱心に叩いていました。はかどるはかどる。スパッ、トントン。
すると棚の裏側でなにやら話し声。「お母さん、ぼく言ってくる」。なんだろ?手を止めると、小学生が棚を回って登場、「お母さんが本を見てるので、トントンしないで」。ややや!「申し訳ありません!」。
もしかしたら、こちら側を叩くと、反対側の棚から本が飛び出していたのか?そうだとすると、今まで叩いていたことはいったい...?ワタシのタコは立つ瀬が...?