「坂の上のパルコ」 第1回第1話
第1回:「渋谷の栄光は『バカドリル』とともに」
藤本真佐夫(PARCO出版) VS 矢部潤子(リブロ池袋本店)
今回から数回に渡り「めくるめくめくーるな日々」特別編とし、90年代を駆け抜けた書店のひとつ、パルコブックセンター渋谷店について、そのお店の中心メンバーであった矢部潤子さんと当時を知るスタッフ、出版社、取次店の方々と振り返っていきます。
第1回目は、矢部さんと吉祥寺店時代にはスタッフとして一緒に仕事をし、渋谷店時代は、PARCO出版に勤務され、一番近いところからパルコブックセンター渋谷店を見つめてきた藤本真佐夫さんをお招きしました。当時の文芸書の報告書を見ながら、オープン前、オープン時、そして時代とともに歩いたパルコブックセンター渋谷店について語っていただきました。
(第1話)夜明け前
- 藤本
- 僕が勤めているPARCO出版は、当時パルコブックセンター(後はすべてP-BCと略)渋谷店のすぐ近くにありました。渋谷店の開店日は、身内では伝説化されていますよ。「お客より、矢部さんに挨拶に来た出版社の営業の方が多かった」って(笑)。「営業マン何十人かが列を作って矢部さん待ちをしていた」という、驚くべき現象。
- 矢部
- オープン時だからね。そんなにお客さんは来てくれないんだよ(笑)。当時、私は人文書と理工書の担当だったんだよね。渋谷店に異動になる前の吉祥寺店でも同じ担当だったから、そっちでお世話になっていた営業マンが、オープンで顔を出してくれた、っていう記憶がある。
- 藤本
- 僕はその、変態の森みたいな、吉祥寺店のアルバイトだったんです。
- 矢部
- なーに言ってるの(笑)。真面目にやっていたよ、みんな。
- 藤本
- いや、いちアルバイトの目から見ると、変な人ばっかりですよ。一癖、二癖あって当たり前。版元さんを怒鳴りつけて帰しちゃったり。びっくりすることがいっぱいありました。
- 矢部
- あの頃、本屋はみんなそうだったんだよ(笑)。
- 藤本
- 仕事も特別何も教えてくれないし、ただもう「常備替えておけ」ばっかり(笑)。
- 矢部
- ハハハ。
- 藤本
- 「ここに箱があるだろ? 棚に同じのが並んでいるから取っ替えろ」って、それだけ。僕はストックバイトといって、仕入れた本の仕分けをしていたんですが、取次店から書店に届く本というのは、ジャンル分けされてないんです。それを僕らアルバイトがジャンルごとに分けるんですが、よく間違えるんです。それで「何だよこれ! どこ置いてんだよ。ちゃんと覚えとけ」って叱られて、こんな沢山の本全部覚えておけるわけないじゃないか、と思ったもんです。
- 矢部
- 厳しかったね。
- 藤本
- その吉祥寺店も渋谷店同様、変わった本が売れていたお店だったんですけど、アルバイトの僕から見ていると、お客さんが作っているお店って感じでした。書店というのは基本的に売れたものを再発注します。だから変なものが売れればまたそれが入ってくる。また売れると、二冊売れたから、じゃあちょっと積んでみるかと。そうこうしているうちに変な本ばかりが売れる書店になっちゃった。
- 矢部
- 確かに吉祥寺店には、すごく濃いものがあった。
- 藤本
- 当時の吉祥寺店も売れ行きベスト10にいわゆる世間のベストセラーが入らなかった。あれは吉祥寺という街のお客さんの持っている指向性の表れですよね。
- 矢部
- そうだね。
- 藤本
- ただ元々そういう方向性というのはお店側が狙っていたわけじゃなくて、学習参考書も、ビジネス書も結構売るし、地図ガイドもある。
- 矢部
- そうそう、だってP-BC吉祥寺店を作った人は、芳林堂の出身だから、普通の正しい書店の姿を求めていたはずなんだ。専門書がどうのとか、国語辞典はこう並べろとか、工学書協会に入るのが嬉しいみたいな。決して「こっちを歪めよう」みたいなことをやっていたわけじゃないんだけど、でもやっぱりお客さんがそっちを求めていた。
- 藤本
- 担当者も、これがイチオシね、みたいな感じではないんです。あの頃、他の書店の情報なんてそんなに入って来なかったから、どこでも売れているんだろうくらいに考えていた。それが、営業の人から「この店が、日本イチこの本を売っているんです」とか言われて初めて気がつくような感じでした。
- 矢部
- でも「おかしい」ってこともそんなにわかっていなかった。
- 藤本
- 別に変な本ばかりを売ろうとした担当者がいたわけじゃないですからね。
- 矢部
- いないね。
- 藤本
- ただ売れるからきちんと置くってことでしかなかったんです。
- 矢部
- おそらくいわゆるベストセラーも吉祥寺には駅に弘栄堂もあるし、紀伊國屋もあった。今のユザワヤの上の方にも本屋があって、そういうところで売れていたんだと思うよ。ただそういう部分でないところがP-BC吉祥寺店に集まっていた。
- 藤本
- えっ、ユザワヤのビルって、昔、なんのテナントもない、幽霊ビルじゃなかったですか?
- 矢部
- そうそうあのビルが、幽霊ビルだったとき、上の方に本屋だけあったんだよ。
- 藤本
- えっ?!
- 矢部
- ガランとした店内をエスカレータだけが動いていて、それで何もないフロアーを上がっていくと突然一角に本屋があった。そこは結構、人がいたんだよね。
- 藤本
- 忽然と本屋があるのは怖いですね。いかにも吉祥寺らしいと言うか...その吉祥寺から矢部さんは渋谷店のオープンに合わせて異動になるんですよね。
(つづく 次回更新は1月22日)