「坂の上のパルコ」 第1回第4話
第1回:「渋谷の栄光は『バカドリル』とともに」
藤本真佐夫(PARCO出版)VS矢部潤子(リブロ池袋本店)
(第4話)キャッチボール
- 藤本
- ベスト10以外に着実に売れているものがありましたね。当時は『うたかたの日々』の後ろにはいろんな外文が控えていて、それも売れていた。
- 矢部
- そう『バカドリル』も、後ろに引きずっているものがいっぱいあって、それがしっかり関連づいて売れていたんだ。だからひとつ売れるとその一群は売れた。
- 藤本
- わりと芋づる式で売れてました。今は単品だけ売れて余波がないですが。
- 矢部
- でも、それは我々書店員にも問題があるかも。前はそうやって既刊書だ、関連書だって積んだけど、今はやっていないだけかもしれない。
- 藤本
- そこまでやらなくても新刊が次から次へと入ってきますから、平台や棚は埋まっちゃいますよね。
- 矢部
- そうだね。あと昔はうるさいベテランがいて、「何でこの本が売れているのに、この本を隣に積まないの!」なんて怒られたりしたし、あるいは一緒に並べていたら評価されたりしたけど、今はなかなかそんなこともないもんね。
- 藤本
- あの頃、どうやって情報収集してました?
- 矢部
- ネットやなんかで本を探すなんてことがなかったから、もう勘だけとか関連ものを勉強して試していくしかなかったんじゃないかな。
- 藤本
- 書店は今、人も減って、新刊がすごく増えた。だから関連書を探す時間もないですよね。並べる時間と捨てる時間しかない。
- 矢部
- 揃えている時間がないんだよ。だからかつては『バカドリル』の向こうには『見仏記』いとうせいこう、みうらじゅん著(角川文庫 当時は単行本)とか三谷幸喜とかが見えていたんだよね。ブコウスキーの向こうには......ってね。それでそれを並べている時間と場所があったんだ。
- 藤本
- P-BC渋谷店でいうと、そういうものがオープンして、だいたい2年で見えてきたんですね。95年あたりが象徴的だったかも。
- 矢部
- そうだねえ。オープンして2年で、P-BC渋谷店っていうのは成熟したんだね。その後2年くらいがピークだったと思うよ。
- 藤本
- ただ、その方法論は吉祥寺店のやり方と変わってない。
- 矢部
- だからあれが特別だとは思ってないよね。
- 藤本
- 売れるものをきちんと補充していたらそうなった。だからある意味、狙って売っていたというよりは、抗いながら売っていた(笑)。
- 矢部
- 屈託は相当あったな(笑)。まあ売れているから仕方ない。もしかしたら私がやらないで、渋谷のパルコで働きたいと思って入社してくる若い子にやらせた方が良かったのかも。それでもっとストレートにやった方がいいんじゃないかって、いつも思っていた。だってここで買いたい子が働いているんなら、ちょうど合うはずだよね。そうしていたらもっとエスカレートして「これがパルコ渋谷だ!」みたいなお店になったかもしれない。
- 藤本
- でもやっぱり当時は青山ブックセンターもなく、ブックファーストもなく商圏が広かったから、普通のビジネスマンも来ていたわけですよね。そうするとビジネス書とか人文書とかきちんと置いておかないとやっていけなかったというのがありますよね。吉祥寺店とか渋谷店というのは今考えると恵まれていました。お客さんとキャッチボールが出来て、何か置いたら反応があったし。
- 矢部
- 時代的に全体がそうだったんじゃないのかな。
- 藤本
- 確かにそうかもしれませんけど、やっぱり際立っていたと思いますよ、吉祥寺店と渋谷店は。僕は昔と今と見比べて、明らかに匂いが違うと思うんです、それは要するにお客さんの匂いが違うってことなんですけど。
- 矢部
- それはあるね。
- 藤本
- お客さんの匂いが変ってしまったというのは歴然たる感じがしますね。
- 矢部
- ほんとだよね、どこに行ってもそこにいる人達の特徴っていうのは薄まって来ている気がするね。だからその特徴を本や棚に反映させられるようなものを感じとれないっていうか。それにこっちも薄まってる感じがあるね。あの当時の渋谷は、道で全然客層が違った。センター街はセンター街の人たち。公園通りを行く人と、本店通り、道玄坂とか、みんな匂いが違うんだ。
- 藤本
- タイプが全然違いましたね。
- 矢部
- 途中で改装するときに本部から若向きのものをがっちり揃えたいって言われて、私はものすごく抵抗したんだよね。そうするとね、お店がゼロか100のお店になっちゃうんだよね。
- 藤本
- しかもそういうものって、そういう発想が出た頃にはソフトが出て来ないんですよね。何でもそうなんですけど、みんなが気が付いて、それで行こうかってなったときには、ソフトがもうないんです。
- 矢部
- そうそう、そうなんだよね。これで終わりなんだ。
- 藤本
- 広がらないんですよ。それで今度はまったく別のところに新しい潮流が出てきたりするんです。
- 矢部
- そう、だからある方向性だけ集めたお店にしちゃうとゼロか100しか置いてないから、新しい潮流の場所が捕まえられなくなっちゃうのよ。普通に少しでも置いておけば、こっちが来たのかってわかるじゃない。
- 藤本
- ピラミッドと一緒ですね。底辺が小さいと安定性がない。底辺がどんどん狭くなっていったら、なんかあったらすぐ倒れちゃうみたいな。
- 矢部
- まあそうやっていろいろ試行錯誤しながらP-BC渋谷店をやっていたんだけど、98年にはブックファーストが出店してきたり、バカ本そのものが品切れで並べられなくなってきたりしていたところに、P-BC自体が2000年の3月同じグループの書店リブロと統合してね、しらばくはそれでも「パルコブックセンター」という名前で営業していたんだけど、結局屋号も統合することになって、パルコブックセンターは無くなってしまった。
- 藤本
- 今のリブロ渋谷店は同じ場所にありながら、またちょっと違うんですよね。どっちが良いとか悪いとかじゃないんですけど。
- 矢部
- ベストセラーがベスト10に入らないのは共通してるけどね。
(了)