コメンテーターや放送作家として、日本語を流暢に操る
デーブ・スペクターさん。小学5年生で日本語の勉強を始め、
中学生の時には複数の日本語の辞書を使っていたといいます。
そんなデーブさんの語学学習の極意は「その国のユーモアを身に着けること」。
いったいどういう意味なのか、話をお聞きしました。
辞書は学習の「道具」ではない 豊かな「教材」そのもの!
――中学生の頃から日本語の辞書を使っていたとか。
「初めは和英や英和辞典を使っていたのですが、言葉を覚えるにはその国の辞書を使うのが一番ですからね。日本語の辞書は中学生の頃から使い始めて、新明解国語辞典も『この辞書はいいよ』ってすすめられて買ったんです。
今でも辞書はよく引いていますが、日本語を勉強し始めた頃は毎日のように読んでいました。当時の使い方は、わからない言葉を『調べる』だけでなく、無作為に開いて知らない言葉を『探して』それをどんどん覚えていくんです。
学生のときは、毎朝自分で日本語の単語クイズを作っていました。1日10問。言葉をランダムに選んで、それを1日かけて覚える。学校が終わるときまでに覚えられたか友だちに答え合わせをしてもらっていました。今でも週刊誌や新聞のコラムなどで知らない言葉を見つけると必ず調べるようにしています。その割に、クイズ番組に出演すると弱いけど(笑)」
――電子辞書よりも紙の辞書のほうが学習には向いていますか?
「本気で勉強したいのなら紙に書き残すべきですね。電子辞書だと手軽に調べられる分、自分で書かないことが多いじゃないですか。だからなかなか覚えられない。それに、紙の辞書なら読書みたいに無作為に引くこともできる。
僕は元々、日本語の学習を趣味で始めました。だから、教科書みたいに誰かが決めたやり方で『お勉強』するのが嫌だったんです。辞書は語学学習のための『道具』ではなく、それ自体が豊かな『教材』。読みものとしても面白いし、ただ調べることだけに使うのはもったいないと思います」
日本語は「ゆるい」ので「ダジャレ」に向いている!?
――デーブさんが思う日本語の特徴って何ですか?
「ひと言で言うと『ゆるい』。日本語ほど曖昧な言語はないと思います。特に話し言葉がそう。『よろしくお願いします』なんて、英語でどう訳したらいいのかいまだにわかりません。とにかく日本語は要点がはっきりしないのが特徴。その分、『空気』や『間』で言葉の意味合いが大きく変わってしまいます。
僕は時々、テレビのアナウンサーに対して講師としてレクチャーすることがあるのですが、そのときに桂三枝さんの『新婚さんいらっしゃい!』を見るように言います。彼は司会者として、間のとり方が素晴らしい。じっと相手を見て『......職業は?』と質問するだけ。ムダな言葉を使わずに、間のとり方で笑いまで起こすんです。こうした笑いは日本語、それも関西弁でしか生み出せないものでしょう。
あと、発音が同じでも意味が全く違う言葉(ダブルミーニング)も多いですよね。僕のツイッターでもそれを利用しています。『サッカー選手の勤務↓蹴球(週休)2日制』とかね」(笑)
――新明解国語辞典の「しゃれ」の項目でも、例として「潮干狩に行ったがたいして収穫がなく、『行った甲斐[=貝]がなかったよ』と言うなど」とダブルミーニングを使ったダジャレが載っています。
「つまり、ダブルミーニングはダジャレの基本なんです。しかも、言葉を知らないとできないという点で、意外と頭も使う。日本語に限らず、その国のことを理解しようと思ったらまずユーモアを身につけるべきなんです。やはり、『笑い』にはその国の文化が最もよく表れていますから。僕が毎日ダジャレをつぶやいているのも、日本のことをまだまだもっとよく知りたいから(笑)」
――では、最後に新明解国語辞典を使ったダジャレを。
「では、桂三枝さんに引っかけて、『長く愛される辞書の番組→新解さん、いらっしゃい!』」
デーブ・スペクター
テレビプロデューサー、放送作家。1年前に始めた自身のツイッターのフォロワーが既に37万人を突破。人気アカウントランキングで有名人・芸能人 部門、エンタメ部門、総合部門で、それぞれ第1位を記録(平成23年3月)した。
しゃれ 【洒落】
〔その場の思いつきとして〕類音の語に引っかけて、ちょっとした冗談や機知によってその場の雰囲気を和らげたり盛り上げたりする言葉遊戯。例、潮干狩りに行ったがたいして収穫がなく、「行った甲斐〔=貝〕がなかったよ」と言うなど。
そんな疑問を解消すべく、日本語を熱心に勉強する人がとても多い台湾の書店を訪ねました
日本で一番売れている国語辞典の「新解さん」ですが、外国人の日本語学習者にはどのように映るのでしょうか? 日本語能力試験の受験者数が人口比率1位という台湾へ飛び、現地の書店員さんを取材しました!
「台湾の出版社"鴻儒堂"が三省堂さんとライセンス契約した台湾版新解さんがあります。第七版はまだ発売になったばかりなのでありませんが」と教えてくれたのは、台湾紀伊國屋書店の石堂さん。台湾での日本語学習ブームは本物のようです。
高校3年生で日本語能力試験の1級を取った日本語フロアチーフの鐘さん(台湾紀伊國屋書店 台北天母店)は、日本語の難しさを「"てにをは"などの助詞の使い方」と話します。第七版では文法欄でそれが解説されているので「これは便利。日本語の理解が深まりそう」の感想をいただきました。
日本への留学経験もある台湾淳久堂書店の黄さんは、「日本語を勉強していて、辞書に載っている例文が硬く、実用的じゃないと感じたことがありました。新明解国語辞典は他の辞書に比べ例文が多いので、外国人にも役立つと思います」。
そして、台湾最大の書店「誠品書店」の日本語フロア担当の鄭さんは、「今の台湾人は、小中で英語、高校では日本語を勉強し、大学で英語と日本語のどちらを専門にするか選択するのが一般的」と話した上で、「外国語教材の棚は、英語よりも日本語のスペースの方が多いぐらい」と店内を案内してくれました。新明解国語辞典は"売り切れ"のようだったので、追加注文をお願いしておきました!
「辞書は人それぞれに相性があるから、ひとつの言葉を複数の辞書で引いてもらい、その解説や言葉の使い方が一番しっくりくるものを勧めるようにしています」とは、台湾紀伊國屋書店勤務20 年の黄さん。これは誰もが納得できる辞書選びのコツかも。「日本語をきれいなイントネーションで話せるようになるのはとても難しい。そういう意味でアクセント欄が充実している新明解国語辞典はいいですね」と、とても流暢な日本語で答えてくださいました。
訪れる先々で日本語を話せる現地スタッフがいたのに驚くとともに、日本語の本の充実ぶりに、台湾の方々の日本への熱い視線を感じることができました。
編集後記
辞書を読んで日本語をマスターしたデーブさん。台湾紀伊國屋書店の黄さんの友人は、日本語の辞書を一冊まるごと覚えたそう! 辞書 は「調べる」だけでなく「覚える」まで使い込むということを今回学ぶことができました。読んで楽しい「新解さん」は語学教材としても向いているのかも。