政治家、官僚、マスコミを嘆き、ふつうの人にも
容赦なく社会はきびしいものだと言う“新解さん”。
一方、コラムニストのマツコ・デラックスさんは、
社会を見る目の鋭さで、コメンテーターとしても活躍し
時には「毒舌家」と評されることも。
そんなふたりの共通点は、ともに1972年生まれで、
鋭い意見をビシバシと言うところ。
しかし、マツコさんの話から“毒舌”の裏にある
ふたりの意外な素顔が見えてきました─。
“新解さん”は生真面目がゆえに時にきびしい?
――“新解さん”はそのユニークな語釈で「ひとこと多い」辞書ともいわれています。そんなところがマツコさんと似ていると感じたのですが、マツコさんも“新解さん”と似ていると思いませんか?
そうかしら? 例えば、どんなところが?
――【公約】では、「政府・政党など、公の立場にある者が選挙などの際に世間一般の人に対して、約束すること。また、その約束。〔実行に必要な裏付けを伴わないことも多い〕」と説明しています。【政界】では、「〔不合理と金権が物を言う〕政治家の社会」と。〔 〕のなかのひとことが、マツコさんに似ているかなと?
私がひとこと多いと思われているとしたら心外だわ。意図的にやっているのが毒舌でしょ? 私は、毒を吐こうと思って言ってないの。ただ、ウソがつけないの。我慢ができないのよ。だから“新解さん”も私と同じでウソがつけないタイプなんじゃないかしら?
――ウソをつけないからこそ“新解さん”も書かずにはいられないと?
世の中に対して怒っていたり、憤懣やるかたなく思っていたり、役人に対して物申すような語釈があるわよね。それは、世間を本当にそういうふうに見ているからだと思うの。毒舌じゃないのよ、“新解さん”は。私もそうだけど。
――なるほど。じゃあ、例えば【人生経験】の語釈は、ずいぶんネガティブだなと感じられるのですが、“新解さん”自身もこういう経験をしたということなのでしょうか?
なんて書いてあるの?
――「(順調に人生を送ってきた人にはわからない)実社会で多くの困難を克服してきた経験」とあります。
まさに、その通りじゃない。毒は実際に体験したことに対してじゃなきゃ吐けないの。人から与えられた毒って、それこそ毒にも薬にもなんないわよ。本当に体験しないことにはわかんないのよ、その気持ちは。だとしたら、“新解さん”も若い頃に苦労したんじゃないのかしら。きっと、世の中に対して「もっとこうあるべきなのに」という強い思いを持ちながら辞書をお作りになったのね。これは毒舌というより、実体験に基づく純粋な説明なのよ。
――ということは、意地悪に書いているわけではなくて、心底そう思っていると?
そうよ。私もこう見えて生真面目なの。だから、ウソをつけないの。思ったことをつい正直に口にしちゃうだけ。“新解さん”も「辞書に載っている言葉をそのまま信じる子どもたちがいるわけだから、できるだけ正確に、正しく、実体験に基づいて書いてあげよう」と、親心からここまで書いている気がするわ。違うかしら?
――“新解さん”の語釈に、主観が入っていることが多いのはそういうことだったのですね。
ほかにも主観が入った語釈がそんなにたくさんあるの?
――例えば、“新解さん”は魚介が好きなことが分かっています。特に白身魚が好きなようです。【おこぜ】では、「背びれに毒のとげが有る近海魚。奇怪な頭をしているが、美味」と書いています。ほかにも、【はまぐり】で「遠浅の海にすむ二枚貝の一種。食べる貝として、最も普通で、おいしい」とか。
ほら、やっぱり主観というより、実体験なのよ。“新解さん”は生真面目だから、自分がそう感じたら書かずにはいられなかったの。白身系の魚に「美味」だの「おいしい」だの書いているのは、自分が好きで食べるから感じたことを書けるけど、赤身が苦手だったら、食べてないから感想も書けないのよ。かといって、みんながマグロのとろを「おいしい」と言っても新解さんはそのまま書かない。なぜなら“新解さん”はそう思っていないから。その生真面目なところ、私には分かるわ。
つまり、“新解さん”もマツコさんも“毒舌”なのではなく、生真面目がゆえに、時々きびしいもの言いになると。最後の最後で“新解さん”について新しい発見をした気分です。マツコさん、ありがとうございました!
マツコ・デラックス
コラムニスト、タレント。バラエティー番組での歯に衣着せぬコメントで一躍お茶の間の人気に。CMでも活躍中。
5号にわたり、新明解国語辞典の特徴を紹介してきましたが、なぜ“新解さん”はここまで他に類を見ない辞書になったのでしょうか──。そんな疑問がすっと腑に落ちる"答え"を私たちは見つけました。それは、辞書の「所信表明」でもある序文。初めて新明解国語辞典が世に出たときの「初版」と、最新の「第七版」の序文を紐解けば“新解さん”の心意気が伝わってきます。
編集後記
毎号いろいろな発見があった“新解さん”。子どもの頃から使ってきた辞書ですが、大人になって改めてその面白さが語れる新明解国語辞典は、奥が深 いと言わざるをえません。「一生付き合いたい辞書」に出会えたことに大感謝! 次は第八版が出た際にお会いしましょう!