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   ホテルカクタス
  【ビリケン出版】
  江國香織
  本体 1,500円
  2001/4
  ISBN-493902914X
 

 
  今井 義男
  評価:A
  アパートなのになぜかホテルカクタス、そこにたまたま住む帽子ときゅうりと数字の2の交流。ん? す、数字の2……? あやうくさらっと読み飛ばすところだった。きゅうりと帽子はまだいい。いや、別によくはないが、なんとなく私の頼りない大脳新皮質前頭連合野なら見逃してくれそうな気はするのだ。一応、三次元の物質だし。しかし、数字の2にはたまげた。こんな衝撃を受けたのは、草野心平の『春殖』ぐらいである。高橋新吉もプルトンも裸足でスキップしながら逃げ出すだろうな、数字の2をもってこられたのでは。この言語感覚はただごとではない。不勉強なので私は江國香織という作家をよく知らない。いつも素でこんな風なら、すごいことである。これはもはや<詩>の領域だ。賢治星雲を横切る足穂流星群と、クラフト・エヴィング惑星を結ぶ透明な子午線。その方角から伝わってくる、えもいわれぬパルス。最新にして最大級の超脈動電波星の発見である……などと、いまごろはしゃいでいるのは私だけなのか、ひょっとして。


 
  小園江 和之
  評価:D
  むうう、挿し絵はきれいだし、つるつる読めるし、まあまあ面白かったんですが、なんかこう手放しで推せないっちゅうか。これだったら稲垣足穂の『びっくりしたお父さん』あたりのほうが面白いような気がしちゃいまして。こういうスタイルの小説の読者層って、どこいらへんなのかなあ。洒落てて無駄な人情やら愁嘆はぜんぜんなく、それでいてほのかな哀愁がただよっている。なんというか、熱い小説の反対側にある感じですかねえ。でもこれ、今月のわたしにとってはお助け本でした。神経がささくれ果てちゃってて、活字に感情移入できないときにも、これだったらスーッと入っていけますから。

 
  松本 真美
  評価:C
  江國香織…女らしくて清らかなお名前だ。字面だけで「高貴で上品で世界が違いそう」と敬遠してた。『きらきらひかる』を映画で観ただけ。で、今回初めて読ませていただいたわけだが、やっぱ、世界が違った。私はTDLが苦手なのだが、それに通じるものがある気がする。まず関所があって「ここは別世界。お約束事を疑問なくすんなり受け入れられない輩は入るべからず」と但し書きがある感じだ。なんで帽子ときゅうりと2なの?パンツとつまみ菜と-4じゃ何故ダメ?…これは禁句なのね。このお方の他の著作にはそんな関所がないなら、これって出会いが不幸だったってことか。まあ、児童書界隈は関所本が多いんだけど。絵もウツクシイし、物語もまあまあ心地よいのだが、どうもやけに作為的に映った。ま、作為王のTDLだって、行けば行ったで心洗われたりもするわけですが。

 
  石井 英和
  評価:A
  数ペ−ジおきに挿入される絵画に目を奪われ、その度にペ−ジを繰る手が止まった。読み進めてきた物語のイメ−ジを反芻しながら絵の世界に入り込み、小説と関係のあるようなないような幻想を弄び、また現実世界に戻っては残されたペ−ジを読み進む。そんな読み方をしてしまい、妙に読みおえるのに手間取った。それらの絵が小説世界にうまく溶け込んでいるせいなのか、それとも私好みの絵柄であるせいなのか。この作品への称賛のかなりの部分は、この画家に対して与えられるべきだろう。などと、いちいち付け加えてしまう私の性格は多分、作中の「数字の2」に似ている。初夏の風の吹き抜ける、居心地のよい部屋における午睡の夢の如くに淡い幻想物語が静かに立ち上がり、ほのかな感傷の気配を残して消え去ってゆく。心地良い。

 
  中川 大一
  評価:C
  えっ、これが油絵? 写真みたいにリアルで、時々シュール。こりゃあ見応えあるぜ。そんな絵がカラーで三十数枚挿入されている。全部で150ページほどの本だから、どっちが挿画でどっちが挿文だか分からないくらい。画文集といってもいいだろう。贅沢でおしゃれな作りではあるが、絵と文が相乗効果をあげているかというと、うーむ。話しの主人公はきゅうりと帽子と数字の2の三者。ええと。きゅうりが風呂に入ったり帰省したりするか? 帽子がタバコ吸ったりバスに乗ったりすんのんか? 数字の2に家族がおるんかい……すいません。ミもフタもないとはこのことですな。私にはこういうファンタジーというのか、大人の童話を楽しむ才能が欠けておるようで。それでもまあ、軽いノリで楽しみましたけど。

 
  唐木 幸子
  評価:D
  うーん、まるで翻訳物の絵本を読んでいる感じだった。この著者の本は初めて読むのだが、日本人だよね、と確認したくなったくらいである。大人の自分から考えて筋の通らない絵本を娘と読むときに感じるあの感覚、「これはこの子の心にどう納まって行くんだろうか」という不安に似た印象を、読んでいる間中、ずっと感じていた。歪みと揺れのある挿画が一層、その疑問をかき立てるのだ。だいたい、何で『ホテルカクタス』に住んでいる者たちの名前が、数字の2、と、きゅうり、と、帽子、なんだよ。あー、自分はこういう本を楽しめないことをわかっているけれど、つい、読んでしまった。

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