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   世界の中心で、愛をさけぶ
  【小学館】
  片山恭一
  本体 1,400円
  2001/4
  ISBN-4093860726
 

 
  今井 義男
  評価:A
  薄幸な少女のアコースティックな物語である。100人中100人が、そうなるだろうと思うことが、多分その通りになる。そこがよい。ついでだが、アキという名前も非常によい。というよりアキ以外の名前は考えられない。この哀しみに満ちた音感がどうしようもなく胸にくる。たとえ世界の中心でなくても、私だって愛を叫びたい……って、うわごとではないか、これではまるで。けれども、古い体質の人間はこういうシチュエーションにあきれるほど弱いのである。ねじれ曲がったラヴ・ストーリーに飽き飽きしている中年世代は、涙腺がゆるむこと請け合いである。朔太郎の祖父が長年胸に秘めた思いもいじらしく、素直に頷ける。思いはかなわないから美しい。美しいから胸を焦がし、胸を焦がすから余計に思いは募る。昨今の若者にこの気持ちはわかるまい。歳はとってみるものだ。悔しいかね、全国の本を読まない少年少女諸君。

 
  原平 随了
  評価:C
  恋人の死から始る出だしといい、回想する主人公の語り口といい、ほとんど、プチ村上春樹といった感じだ。それでも、これほどストレートな恋愛小説は久しく読んでいなかったような気がするし、ヒロイン・アキは、聡明で、けなげで、その死は痛ましく、また、アキを失ってしまう〈ぼく〉の失意も、きりりと胸を締めつける。ではあるのだが、このタイトルはいかがなものか。タイトルは作品の顔だ。『世界の中心で愛を叫んだけもの』という超名作のこれほど秀逸なタイトルを安易にパクってしまうなんて……。知らずにやった(だとすれば、編集者共々あまりにも無知だ!)とも思えず、これで評価が1ランク下がってしまった。それに、何で、真ん中に読点が入るの?


 
  小園江 和之
  評価:B
  ええと、おなじような題名のSF小説があったような気がするんですが…まあいいか。帯に書いてあるように、たしかに透明感のある清冽なお話でした。魑魅魍魎的現代の少年たちの世界が描かれる一方で、このような小説が書かれて刊行されるってのも悪くないなあと思いました。好きな人と過ごす時間の体感速度について書かれた数行が、ちょっと切なかったであります。これだけ愛し合っている二人が、一夜をともにしながら結局なんにもなかった、ちゅうのは無理っぽいと思われる方もいらっしゃるかとは思いますが、そういうことの有無で変質しない、運命的な男女の繋がりというのもあるんじゃないでしょうか。そっちのほうが、はるかに想いが深いって感じがしますし。

 
  松本 真美
  評価:B
  確かに清潔で澄んだ世界だ。哀しいけれどどこか心地よい喪失感を伴った純な恋…。でも、私はそれが十代ゆえ、だからだとは思わない。いくつになったって、もしかしたら私だってこれから経験するかもしれない…ってずうずうしいにも程があるか。とにかく、こういう気分もたまにはいいもんだ。いいもんなのだが、一方でずるい気がする。愛する者を亡くした話ってのはグッとくるに決まっているから。吉本ばななの『ムーンライト・シャドウ』を読んだときも、「あいたい…」とかいう唄を聴いたときにも感じたことだが、みんな同じ方向を向くしかない世界ってのはちょっとね…。せつないでしょ胸がキュンとするでしょわかるでしょねっねっ、と念押しされてるみたいで。私は単純で術中にハマるのが明らかな分、シャク。でもこの小説ぐらいの濃度なら許せるか。虎舞竜の『ロード』とか参るよ。今頃、13章十三回忌編でも唄ってるか、ヤツら。これって前にも書いたっけ?例によって、誰に聞いてるんだ、私。

 
  石井 英和
  評価:D
  なんだか恥ずかしくなってしまったのだ。著者の描き出す聖なる少女の像。それが克明に描かれるほど「そういう女とは縁がなかったんだろうなあ」とか、著者の青春を思いやってしまって。なかったからこんな小説、書いたんでしょう。まあ、その件に関しては人ごとではないが。そして古来、青春小説の数々に、あるいは豪華アイドル共演のゴ−ルデンウィ−ク公開映画において、恋人たちに常に訪れてきた伝統ある病い、白血病の登場。などと茶化してしまう私は多分、この作品の読み手には相応しくないのだろう。この作品は3つのパ−トに分けられる。前半の恋愛妄想部分。後半の生と死に関する考察部分。最後の数ペ−ジにおける時の流れへの感慨部分。この3つの、実は別々のものの連結によって作品の「感動」が合成されているようだ。あと、著者の過剰なナルシズムと。

 
  中川 大一
  評価:C
  その夏はじめて使われるプールに身を入れたような、透明感ある文体。短い話だから、サクサクっと読める。それでだいぶん取り戻してる感じはするけれど、ストーリー自体はかなり陳腐。この病気で恋人を失う話しって、マンガでも芝居でも、もうイヤよイヤッ、ちゅうくらい繰り返されてるでしょう。ユーミンの歌にもある、ほれほれあの病気。「今日びこんな純真な若者がおるもんかい!」というような、爺くさい文句は言うまい。現代風と称して、ドラッグや売春の話題ばっかし撒き散らす「衝撃の問題作」よりよっぽど好感もてる。だけんども、しかし((c)かなざわいっせい)。これだけ若いカップルが、何の疑問も抱かずに将来に「結婚」を見据えてるってのは、何だかげんなりするなあ。

 
  唐木 幸子
  評価:C
  本書のテーマが、大事な人を失った哀しみにあるとしたら、主人公が若すぎて、また恋人同士の関わり合いが薄すぎて、その慟哭が私にはどうにも迫って来ない。魂が抜けたような【ぼく】の様子は実にそのものに書けているのだが、読後、どうにも消化不良に陥ってしまった。私としては、『人生、そんな甘いもんと違うで』という言葉がつい出て来るのだ。例えば、恋人を失った【ぼく】よりも、アキという娘を失った両親の方が断然、嘆きは深いはずである。そういう大事なところが希薄なのだ。20年若いときに読んだら忘れられない小説になったかもしれないのだが。

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