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  斎藤家の核弾頭  斎藤家の核弾頭
  【新潮文庫】
  篠田節子
  本体 705円
  2001/6
  ISBN-4101484120
 

 
  石井 千湖
  評価:A
  私の育った家は子供こそふたりだが四世代同居の斎藤家のような大家族だった。しかも未だに男尊女卑の色濃いド田舎である。もう読み始めは夫の総一郎や舅の潤一郎の「女はこうあるべき」とか「家族はこうあるべき」という言い草にむかむかむかむか怒りのメートルをあげていた。キワモノだけどありえるかもしれないリアルな未来。うんざりするくらい家族、家族と繰り返す総一郎の滑稽さを笑いながら背筋が寒くなる。国vs家族vs個人という三つ巴の戦いをいろんな要素をつめこみながらものすごく面白く読ませる篠田節子の豪腕に脱帽した。単純に男女を対立させるような物語ではなく、スケールのでかさに気持ちよく驚かされる。フェミニズムが嫌いなひとも読んで欲しい。

 
  内山 沙貴
  評価:E
  さまよえるニッポン、世界から切り離され、ぷかぷか浮かんでどこへゆく。女性は家を支え男は国を支える、そんな古い倫理は自分には許しがたいのだが、今よりは秩序のある社会かもしれないとは思う。だがそんな社会が今より良くなるかといったらそうでもない。この物語は法で定めたモモ色の理想郷の欠陥を徹底的にバットで叩き尽くして、ブハハハハと豪快に笑う。読んでいるこっちもなぜかフィクションと割り切れなくて背中に薄ら寒い視線を感じる。メキメキと木の板の裂ける音の中、原型の残らないささくれ立った謎の残骸が積まれてゆく。気がつけば、目の前には説明不可能な見たこともないような世界が広がり、一人、迷子の気分のまま、強引に幕は引かれていた。

 
  大場 義行
  評価:B
  最初からラスト寸前まで、酷い事が主人公に降り続けるという話は駄目だ。とにかく読んでいる最中にイライラして堪らない。電車に乗っているいるときもそうだし、家にいて読んでいる時もそう。こんな時になんかあったら大抵爆発してしまう、という単純野郎の自分には向かない物語だ(過去に「吉里吉里人」「最悪」で怒りつづけた過去あり)。超ムカツク役人軍団、自然もクソも無い都会、文句だけを言う人々。ああ、もう思い出すだけでムカツク。作者からすればありがたい読者かもしれないが、どうもなあ。といいつつ、大抵一気に読み終えてしまう自分が恐い。

 
  操上 恭子
  評価:C+
  篠田節子がこんなスラップスティックな物を書く人だとは知らなかった。それにしても凄い。民主主義、自由経済、サラリーマン社会、官僚制、家族制度、管理社会、階級制度から、体制に抵抗するものまで、およそありとあらゆるものを皮肉りおちょくっている。特に矢面に立たされるのは、仕事人間であり権威主義である男性だが、それを容認あるいは追従する女性にも容赦はない。そして肩書きという鎧を失った時の日本人のアイデンティティの脆さが、私たちに突き付けられることになる。可笑しいけれど、笑ってなどいられない恐ろしさ。さすがは篠田節子である。異形の者に対する暖かな視線もこの作者の持ち味だろう。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  昔読んだ小松左京や筒井康隆のSFを思い出し、気持ちがほのぼのとしてしまった。特A級のエリートを中心とした、曾祖母、祖父母、妻と子ども5人の10人の生活を通して描かれる未来の日本は、もちろんバラ色などではない。でも、そのリアルな描写といったら驚くほどだ。「国家主義カースト制度」。コンピュータに取って代わられた役所機構。10分も浸かっていたら全身の皮膚がおかされて死んでしまう東京湾。運動エネルギー増幅装置。ちらっと読んだだけで、もう、わくわくプルプルする。こういう夢のある小説が、昔はたくさんあったような気がするなぁ。もっと読みたいぞ!

 
  佐久間 素子
  評価:C
  近未来、管理のすすんだ階級社会、日本が舞台。不要なものを捨てようとする日本と、裏切られ続けたあげく反乱をおこす超エリート・斉藤家。階級社会という設定も、斉藤家の(エリートの)家族観も、まがいものの住環境も、ありそうな話と思わせる説得力がある。そして、斉藤家にそそがれる作者のシビアな視点ときたら、悪意があるんじゃないかと思うほどだ。彼らの無自覚や思いこみが、あぶりだされてくると、同情する気も失せてしまう。身近で理解もできて、たぶんだからこそ、鼻につく斉藤家。ぎんぎんにきいたブラック・ユーモアは、細部にまで及び、かなり背筋が寒くなる。発達異常の小夜子の存在のみがファンタジーで、救いなのだけれど、反則でもありますな。

 
  山田 岳
  評価:A
  わらっている場合ではありませんよ。いちおう2075年という設定になってはいますが、この物語の世界の芽は、現代のなかに生まれつつあります。<役にたつ/たたない>だけで人間を選別し、選別した側は、その結果にたいしてなんら責任をとらない。いまのリストラとかわらないじゃないですか。斎藤家は太田道灌から土地をあたえられた由緒あるおうち。当主、総一郎は裁判官として日本のために働いてきたのだが、裁判がコンピュータ化されたことにより失職、すなわち「役にたたない」烙印をおされたことに(本人はなかなか気づかへんけど)。斎藤家は道灌ゆかりの土地をおわれ、移り住んだ東京湾の人工島も貴金属バナジウムが発見されたことで、再度の移転をせまられる。今度の移転先は毒ガスで汚染された成田空港の跡地。国家のためにつくしてきた斎藤総一郎もこの仕打ちに、さすがに反旗を翻す。小林よしのりに「サヨク」と言われようが、この際言っておく、資本主義だろうが、共産主義だろうが、軍国主義だろうが、官僚がのさばると権力は腐敗する。<国のため>という国民の誠意は、官僚主義のためにやすやすと踏みにじられる。斎藤家のように。

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