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├2001年6月
└2001年5月
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
あしたはうんと遠くへいこう
【マガジンハウス】
角田光代
本体 1,400円
2001/9
ISBN-483871324X
石井 英和
評価:E
いい気なものだなあ。ノ−テンキな裏・願望充足小説とでも言うべきか。作り上げた「愛に傷つき、人生に彷徨う寄る辺ない私」の物語に自己陶酔しているだけ。青春物語には定番の思い、「あたしってば、こんなにカシコイのに、どうして周りはアホばかりなのかしら」に相応しい恋人やら仲間たちを周囲に配し、うまい具合にしかるべきところで無神経な行いや裏切りやらなんやらを行わせて、「繊細な私」は、安直に傷ついてみせる。形通り外国を「放浪」したり(しかもアイルランドだ。渋いねえ、オシャレだね)精神世界に嵌まったりスポ−ツしてみたり、はたまたスト−カ−が出現したりのお定まりメニュ−が臆面もなく続くけど、これはギャグなのかね、本気なのかね?とにかく底の浅い話なんで、がっかりしちゃいました。
今井 義男
評価:D
小説中の人物のすることにいちいち目くじらを立てるのは私の悪い癖である。テレビを見ていても『そんな腹立つんやったら見んといたら?』とよく家族にいわれる。この本を読んでいて遅まきながら自分のボヤキ体質を痛切に自覚した。他人にマーキングしてもらわないと居場所も見つけられない脆弱な人間の話など読みたくない。そんな連中は現実社会だけでたくさんだからだ。それにこの小説、やたら曲名、音楽家名を連呼しているが、なにがしかの空気を発生させるための道具なのか。もし同好の士だったら、おおこの作家いい趣味してるとか、うんうんそういうときはやっぱりこの曲だよな、などと激しく共感を抱いたりするのだろうか。だとしても私はごめんこうむる。大阪にはこういう小説に応じるうってつけの口調がある。ほんにどこなといきなはれ。
唐木 幸子
評価:B
大学時代からドレッド髪の男と同棲、その後の男性遍歴も山あり谷ありでもう大変。ここに描かれている主人公の女性像は決して誉められたものでも共感するものでもないが、これが実に等身大で印象深い。会話に力みや誇張がなくて自然なのがこの作品に命を与えているように感じる。話はそれるが、女の子の高校生時分から30代に至るまでを経時的に語るような、こういう物語を読むと、私は自分の人生ではなく、今まだ5歳の私の娘の人生を考えるようになってしまった。娘がこんなに手当たり次第に男性と関係持ったりしたらいやだな、とまず、思ってしまうのだ。年取ったなあ、私も。と共に、私は相当に克明に本を読むようになって、9ページで主人公がコーヒーをいれているシーンが気になる。お湯は沸かしているが、カップに入れたのは、コーヒーの粉と冷蔵庫から出したミルクだけだ。さあ、これが気になって気になって・・・。
阪本 直子
評価:C
レコードを何枚も替えて、好きな曲のテープを作ってる高校生の女の子。この冒頭を読んだ時には、いける、と思った。のですが。1985年から2000年まで、その時々の音楽に乗せて彼女の恋愛を辿る物語。面白くなくはないんです。ただ、やはり断片的過ぎる。彼女が好きになった男達。皆その後どうしたんだろう。それは現実では確かに、音信不通で当然です。でも、これ、小説だもの。風の便り、噂の一つぐらい欲しいよ、やっぱり。でないと男達の顔が見えない。見えないから、彼らに心奪われた彼女に感情移入できない。小説読んでるのじゃなくて、現実の誰かの恋愛話聞いてるみたいになっちゃうのだな。……あのね、悪いけど、私あなたの失敗にも自分探しにも、別に関心ないんだけど……最後の章は、希望ある旅立ち、の筈だとは判る。だけどその希望の源である(現在の)恋人は、ひょっとして彼女の想像の産物なんじゃないかと思うくらいに存在感が希薄だ。
中川 大一
評価:C
「自分がどこにいるかわからなくなっても、その場にいる意味がわからなくなっても、自分で選んだ音楽を聴けばとりあえず持ちこたえられる」。そんな主人公の高校時代から32歳までを、フラッシュバックのようにちょっとずつ切り取った短篇集。行間からその時々の音楽が鳴り響いてくる。いや、章題に曲のタイトルやフレーズが使われているくらいだから、音源は行間じゃなくて真っ正面にある。著者(1967年生まれ)と同世代で洋楽好きの女性にはさぞ受けがいいことでありましょう。しかし、出てくるオトコはどいつもこいつもショボい。かっこいい男を書こうとして失敗した、ということではないんだろうけど、ストーリーに光彩を欠くことはたしか。恋愛小説なら、お相手もそこそこでないとね。
仲田 卓央
評価:B
人は気付かないうちに、驚くほど遠くまで来てしまう。考えてもいなかった場所まで来てしまう。そのときになって帰りたくなっても、もう手遅れだ。そして、こんなはずじゃなかったのに、と思いながら、また遠い場所へと向かうのだ。どうせ辿り着いた先でも、こんなはずじゃなかったと思うくせに。馬鹿な人ほどそういうことを繰り返す、という意味で、主人公の泉は馬鹿だ。『パートタイム・パートナー』の主人公の馬鹿さ加減を笑った私は、しかし泉の馬鹿さ加減を笑えない。『パートタイム・パートナー』の主人公の馬鹿は感受性や知性の欠如という「頭が馬鹿」であるのに対して、こちらは「体が馬鹿」なのだ。わかっちゃいるけど、やめられない、という馬鹿。だからつい、衝動にまかせてジャンプしてしまい、柵を飛び越えて戻れなくなる。そして後悔する。そういう行為は馬鹿以外の何物でもないが、そういう行為に魅力を感じる以上、私は彼女を笑えない。
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