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├2001年6月
└2001年5月
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
堕天使は地獄へ飛ぶ
【扶桑社】
マイクル・コナリー
本体 2,095円
2001/9
ISBN-4594032621
石井 英和
評価:A
ロス市警にとって目の上のタンコブというべき存在だった、いわゆる「人権派」の弁護士殺人事件の捜査をめぐり、炙りだされてゆくアメリカのある側の現実。全編にわたって、やり切れない現実の苦さが基調音として響き続ける。「正義」は、その裏では別の顔をしており、腐敗した権力はさらにその影で決して揺らぐ事がない。単に面白い小説を読みたいだけのシンプルな読者たる私にとっては、様々な障害に阻まれて進まない捜査へのフラストレイションが溜まるが、事件の「解決」には、その感情を昇華するべきカタルシスが用意されてはいない。代わりに提示されるのは、入り組んだ虚偽の迷宮の暗黒のみ。読者に出来るのはただ、主人公とともに絶望の淵に立ち、その苦さを奥歯に噛みしめる事。だが、その重さは、正面から受け止める価値のあるものだろう。
今井 義男
評価:AAA
けれんのない剛球真向勝負である。しかもディーヴァーの変化球攻めのあとだったので、このストレートの速いこと速いこと。殺されたのは人権派の黒人弁護士、弁護する容疑者も黒人、訴訟相手は市警察、容疑者が殺して埋めたとされる白人少女の両親は町の名士、折から町は警察への不信から一触即発の状態だ。身内の捜査員自ら《現場を汚す》という悪習慣、裏切り行為、政治的判断から真実を隠匿しようとする上層部にうんざりさせられる反面、抜擢というよりジョーカーを引かされたていのボッシュ・チームの孤軍奮闘ぶりが光る。いまや警察小説は事件そのものだけを描いていられないややこしさが付きまとう。悩める刑事ハリー・ボッシュの気が晴れることは永遠にないだろう。私は陰鬱非道な事件の背景から旧約聖書の重大な誤りを発見した。神はソドムを焼かなかった。なぜなら我々はいまもこうしてそこに住んでいるからだ。この件に関してはいつ何時でも反論を受けて立つ用意がある。ただし、代理人ではなく神ご自身の。
唐木 幸子
評価:A
警察組織と敵対する人権派の黒人弁護士を殺したのは、本当に警官なのか?のっけから惨殺死体が発見されて物語は始まる。L.A.ハリウッド署の刑事・ボッシュは、妻との関係が脆くも壊れかかっているが、そういう私生活に動揺しつつも目の前の犯罪の究明に、不眠不休で取り組む。どんなに疲れていても手を抜かないで力を尽くして働く男は格好良いなあ。ストーリーそのものにはディーヴァー作品のようにガラガラと根底から話が覆る驚愕、衝撃は少ない。もっと本格感のあるハードボイルドなのだ。O.J.シンプソン事件や人種暴動、美少女殺人など、米国が映像で全世界に発信してしまった数々の事件を連想させる筋立てだが、あざとさはちっとも感じない。長いし暗いし、途中で投げ出したくなるようなおぞましい場面もあるが、この読み応えはやはり、Aだ。いやだいやだと思いながらも、いつしか孤独のボッシュ刑事に共感を覚えて、私は結局、一気に読みきってしまった。
阪本 直子
評価:AA
私より先に読んでしまった父が、予想に反して「面白かった!」と言う。おやおや、ミステリそれも翻訳ものになんて縁のない人だったのになと感心してると、「……面白かったけど、でもなあ、ラストが……」と続いたから、言うなッと制しておいて読みました。彼の性向からして、巨悪がまんまと法の網をかすめたのが許せないとかいう展開かな、都会の陰鬱な犯罪のようだし、などと予想をしてみたのですが。
なるほどね。これはつらい。やりきれない、確かに。だけどミステリに慣れた読者にとっては、むしろそれほど救いのない話ではありません。主人公は一介の刑事で、これはシリーズものだから。どんなに苦しんで胸の張り裂ける思いをしても、ボッシュ刑事は今日に続く明日を生き続け、正気を失うことはない。これを信じていられるから、読後感は決して悪くはないんですよ。女性刑事や検事達が、マクベインとかとは違って、ちゃんと姓で書かれてます。
谷家 幸子
評価:C
シリーズ物なので、登場人物ひとりひとりのバックグラウンドがわからない外野の人間としては、今ひとつ物語の中に入っていきにくい。主人公たるボッシュに対しても、魅力的だとかそうでないとか、判然としない気持ちのまま読み進めるのは、少ししんどかった。判然としなくてもいいのかもしれないが、やっぱり主人公にはもう少し寄り添えないと楽しめない。
「現代アメリカの暗部を描く」って最近よく見かける表現だ。組織の腐敗、人種の葛藤、トラウマ、児童虐待、歪んだマスコミ。ひとつかふたつ選んで織り込めばいっちょあがり。あー、私ってなんて意地悪なんでしょう。だけどだけど、織り込み方が面白ければ私だって素直に認めるぞ。それぞれの問題がはらむ深刻さも理解しているつもりだし。
面白くないわけではない。それなりに読ませるのは事実。しかし、それなり以上ではない。それがなんとも物足りない。
中川 大一
評価:B
複雑だけど、クリアな構成のミステリ。勧善懲悪ではないが敵役はおり、ラストでは読者の溜飲がほろ苦く下がる。2段組400頁を越える大冊で、40頁くらいまでは固有名詞を頭に入れるのに四苦八苦。でもそれだけのことはある。そこを過ぎると読書は加速度を増し、ジェットコースターとは言わないが、トロッコくらいのスピードは出る(早いのか遅いのか?)。つまりページターナーではないけれど、堅実な筆運びで、みんな本当に起こったことのように感じさせられる。O.J.シンプソン事件や1992年のロス暴動など、現実の出来事を巧みに取り込んでストーリーを盛り上げているのも一興。そんな仕掛けは他にもいっぱいあるみたい。アメリカ人だったらもっともっと楽しめたんだけどねー。
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