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  エンプティー・チェア  エンプティー・チェア
  【文藝春秋】
  ジェフリー・ディーヴァー
  本体 1,857円
  2001/10
  ISBN-4163204008
 

 
  石井 英和
  評価:B
  やはり主人公ライムには、大都会の暗黒が似合う。今回の作は、アメリカ南部の泥臭い風土を背景に、いつもの微に入り細を穿つ科学捜査が展開されるのだが、数ミクロン単位で作動する精密機械に、大きな岩盤を掘り起こす土木作業を行わせるような場違いなものを感じてしまった。なんだかライムの存在感が薄いのだ。「相棒」のサックスとの感情の行き来も、「余計な話」という気がする。また、いつもなら異様な存在感を持って活躍するはずの「悪役」も、諸事情あって、「不気味な魅力」を発揮しきれずに終わっているのも残念。今回、いろいろ新機軸を打ち出そうとして、やや空回りに陥ってしまったのではないか。最後のどんでん返しの大盤振る舞いも、意外性の面白さよりは、むしろ「くどさ」や「しつこさ」を感じてしまった。

 
  今井 義男
  評価:B
  昆虫から学んだ知識を武器に大人を手玉にとる少年が今回の相手である。これが前作の《ダンサー》をしのぐ役者ぶりで、さすがのリンカーン・ライムも影が薄い。馴染みのない町で捜査に関わることとなったライムを地元警察のスタッフは快く思っていず、なにかにつけて起きる摩擦が昆虫少年との知恵比べを妨げる。それだけでも十分面白い小説になっているのに、何事もこねくり回さないと気のすまない作者は、またまた色々とやってくれる。サービス精神もここまでくれば、やり過ぎというものである。おまけに恋愛感情を露にするライムとアメリア・サックスの描写がまた煩わしい。二人にはもっとストイックな姿勢で事件に取り組んでもらいたいものだ。それを楽しみにしているファンには悪いが、私は気難しい上司と行動的な助手の関係でいてくれた方がずっと読みやすい。

 
  唐木 幸子
  評価:A
  なんと言ってもディーヴァーである。もう最初から、どいつが真犯人だ、と全てを疑いながら読んだが、やっぱりドンデン返しを食らってひっくり返ってしまった。まさかなあ・・・。こんなラストが待っているなんてなあ・・・。ああ、誰か本作を読んでしまった人と得心行くまで話し合いたい、そんな気持ちにさせる1冊だ。私が新刊採点員を拝命してこの1年、これまで知らなかったスグレモノ作家に沢山出会ったが、中でも、ディーヴァーには心底、ひと読み惚れした。正直言って、『コフィン・ダンサー』や『悪魔の涙』の方が読後の衝撃は強かったが、本作も期待を少しも裏切らぬ面白本である。四肢麻痺の科学捜査専門家/リンカーン・ライムとNY市警の警官/アメリア・サックスの関係もかなり進んで、互いを失いたくないという心理が嵩じて恐怖心でいっぱいになっている。その切なさが一層、本作の緊張感を高めている。『ボーン・コレクター』のDVDを買って何度も観たせいか、映画に出ていた二人の俳優の顔が思い浮かんで仕方なかった。今回はアメリア自身にも危機が容赦なく降りかかるので読み始めたら止められない。用事のある人はちゃんと済ませてから本書を開こう。

 
  阪本 直子
  評価:AAA
  ハードカバー478頁2段組。これは何日かかるかなあ、と懸念しながら最初のページを開いたのですが。杞憂もいいとこ。結果は1日ぶっ通しの一気読みでした。これから読む皆さん、この本は絶対に、「寝る前にちょっとだけ読もうかな……」なんて思って手にとってはいけません。夜明かしする羽目になるぞ。ノースカロライナの田舎町で起きた殺人と誘拐。事件を追う主人公コンビはニューヨークの人間で、土地鑑も何もない。意外や意外の連続で、読み出したら最後、途中で休むことは不可能です。二転三転、なんてものではないのだよ。四転五転六転、七転ぐらいはしてますね、これは。ミステリの仕掛けがいつもすぐに判ってしまって、読書の喜びを味わえないすれっからし読者も、この本ばかりは手に汗握ってしまうことでしょう。本体価格1857円。あなたが面白いミステリに飢えてるなら、タダ同然の値段です。読め!

 
  中川 大一
  評価:B
  ジェフリー・ディーヴァー、新刊採点員の間に激しい口論を巻き起こした男(本誌2001年1月号「新春トークバトル」参照)。著しく毀誉褒貶の分かれる作家。『悪魔の涙』『コフィン・ダンサー』に続いて三たび課題図書に登場! いったい誰の趣味やねん? 浜やんか、松村さんでしょうか。あんまし私らを喧嘩させんといてや〜。肯定派の小園江さんと否定派の原平さんが一人ずつ交替したことで、その分布図はどう変わるのか!(しつこい) さて本書でも、読者の予断を徹底的にぶちこわすどんでん返しは健在。ぐいぐい引き込むパワーも相変わらずだ。ある意味、今月の『堕天使は地獄へ飛ぶ』と対照的。あちらは玄人好みのリアリズム。こちらはハリウッドスタイルの馬鹿話。その時々の気分によって読み分けましょう。

 
  仲田 卓央
  評価:A
  面白い! やっぱりエンターテイメントはこうでなくちゃ、いかん。実を言うと私は『ボーン・コレクター』も『コフィン・ダンサー』も読んでないので、最初はちょっとためらったのだ。ほら、シリーズものって途中から読むと、疎外感というか、学校を休んだ次の日というか、とにかく寂しい気持ちになるときってあるでしょう? ところがそんな心配は一切無用。ただ本を開けば映画館のシートに座るように、ジェットコースターに乗るようにあとは楽しむだけ。読み終えるまで全ての日常生活が上の空になる。中学生のころ、試験前だというのに読み始めてしまった小説が面白くて、ついつい勉強なんかそっちのけで朝までかかって読み終えてしまった経験、そんな「物語に振り回される快感」を久しぶりに思い出させてくれる一冊であった。

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