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  ささら さや  ささら さや
  【幻冬舎】
  加納朋子
  本体 1,600円
  2001/10
  ISBN-4344001168
 

 
  石井 英和
  評価:D
  これは、著者が抱いた「私を庇護し、愛してくれる人が、突然いなくなってしまったらどうしよう?」といった被虐妄想がベ−スの物語だ。あと、それからの再生談と。登場するのは実質、女性ばかり。それも中年以降の女性たちがより存在感を持って。彼女らの果てし無いお喋り、ほぼそれのみの内にスト−リ−は進行する。生活の知恵、子育ての知恵のあれこれを散りばめつつ。う−ん・・・私には、スト−リ−が微温的で退屈だったし、なにより「こんなにダメな、か弱い女のコが生きていこうとする姿っていとおしいでしょ」といった形で提示される著者の、ヒロインに仮託した過剰な自己愛が鬱陶し過ぎてダメでした。

 
  今井 義男
  評価:C
  夫に先立たれたサヤが《佐々良》という町で、悲しみから立ち直っていく姿を暖かな目線で綴った連作集である。死んだ夫が妻子を見守る趣向はなんなく受け入れられる。軽いミステリ仕立てに転居先で知り合った<三婆>がからむ場面がほのぼのとして楽しい。惜しむらくは挿話のいくつかが、いかにも作り物じみていることだ。設定が現実離れしていたとしても、エリカの行動や、義父の企てはいくらなんでも常軌を逸している。それらのためにこの作品のふわふわした持ち味がずいぶんと損なわれていると思う。ついでながら、民俗学者でも巫術者でもない若者が、霊になったとたんに憑代(よりしろ)などという非日常的な言葉を使うのも感心できない。

 
  唐木 幸子
  評価:C
  冒頭で、主人公サヤは交通事故で夫をあっけなく失う。生まれたての赤ちゃんを抱えて残されたサヤは、夫の家族の身勝手な要求にも反論せず、生活の糧となるべき保険金さえ加害者から貰わないまま、見知らぬ街へと逃げ出してしまう。こうまで私と性格の違う、泣き虫でか弱くおっとりした女性が主人公だと、はなから感情移入は無理である。何やってんだ、と机に突っ伏し、しっかりせんかい!、と怒りつつ読み続けることになる。そういう情けなさは別としても、ちょっと話を作りすぎてないか。例えば、夫を亡くした若妻が初七日の席で赤ちゃんをあやしている姿に向かって、「今時の若い女はしたたかだからな」等と言う親戚って本当にいるか? 例えそういう輩がいたとして、それをたしなめる人が一人もいないなんていうことってあるか? そして、そんなこと言われて何一つ言い返さない女性って、、、、。というように、そもそものところから、この小説は私には優しすぎた。

 
  阪本 直子
  評価:B
  あまりにも内気で気弱なヒロイン、さや。うーんこれじゃあね、死んだ息子の忘れ形見を引き取りたいと、強硬に言い張る夫の身内の気持ちも判らなくないぞ。乳飲み子を彼女一人に任せるには、はっきり言って頼りない。あんまり頼りないので、事故死した夫は何かにつけて妻の前に現れる。これが幽霊になって出てくるんじゃないところがミソです。でも、ちょっと弱いかな。浅田次郎の書く幽霊みたいには胸にこない。「日常の謎」系ミステリとしても、北村薫や泡坂妻夫の意外性はなし。一人ぼっちの臆病な女の子にだんだん友達ができて、生きる強さを得てゆく成長物語として読みましょう。埼玉県佐々良市は、適度に街で適度に田舎で、住みよさそうに見えますね。喫茶店〈ささら〉で、無口なマスターのコーヒーが飲んでみたくなりますな。

 
  谷家 幸子
  評価:C
   2001年版「このミス」誌上で、作者本人がこの作品のことを、加納朋子版「ゴースト」だ、と紹介しているのを読んで、わりと気になっていた。あざといと思いつつ、あの映画では大泣きしてしまったクチなもんで。ただ、その紹介文の「ヒロインに感情移入して、書きながら涙する」というくだりに、多少の不安感はあったのだが。
不安感は的中。題材は魅力的だし、登場人物もいいのだが、ひとことで言えばとにかく中途半端。ミステリーとしての弱さなんてものは別にいいのだが、それにしても、お話としての力が弱すぎる。「ゴースト」でいくなら、永遠の別れを迎えるラストは、もっと気持ちよく泣かせて欲しかった。なんだか今回、こればっかりだけど、面白くはあったのだ。だけど、消化不良。私がひねくれてきてるのか、ちょっと心配。

 
  中川 大一
  評価:B
  乙女チックなミステリ。主人公は、赤ん坊を抱えたまま夫を亡くしちゃった若い女性。だから乙女ではないかもしれんが、全体にメルヘン調あるいは少女マンガふう。うーん、恥ずかしいぞ、いい年こいてこんなクセのない善人にイカれちゃうなんて。大御所の阿刀田高は、推理小説におばあさんを登場させると、そこはかとなくユーモラスになると言っている。その点本書にはおばあさんが三人も出てくるから、漂うユーモアの量も半端じゃない。逆に、推理ものとしての完成度は下がることになる。ほんとはAをつけたかったんだけど、どうにもわざとらしいのが一遍あって(「待っている女」)、ワンランクダウン。あと、裏表紙の色使いがとてもきれい。この色は、本文中である食品に喩えられている。さて何でしょう?

 
  仲田 卓央
  評価:A
  「泣けるもの」が嫌いである。「泣ける」と評判の作品をよくよく見てみると、小説家や脚本家の「ここらをもう一押しすれば、もっと泣けるぞ」というようなあざとさが透けて見える。泣ける、のではなく泣かされている状態。それで泣かされるのは、非常に悔しいそんなわけで「泣けるもの」には、特に警戒している私なのだが、この作品にはやられた。全体の空気が物凄く良いのだ。それは例えば、しっかりとした造形の脇役であったり、「ささらさや」という奇妙な音の響きであったりするのだが、そこから漂ってくるものが、ふとこちらの気を緩ませてしまう。言ってしまえば、甘ったるくてぬるい話である。しかしたまにはこういう「花も実もある絵空事」も良いと思うのだ。

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