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とむらい機関車
【創元推理文庫】
大阪圭吉
本体 660円
2001/10
ISBN-448843701X
石井 千湖
評価:C
昔の「探偵小説」がとにかく好きだ、というひとにはお薦め。興味のない向きには退屈に感じられるかも。当時は斬新だったかもしれないトリックや動機も今ではお馴染みのものだし、「ああこのパターンね」と本格ものを読み慣れた読者は思うかもしれない。ほんとうにオーソドックスな探偵小説だ。派手な現代のミステリーに比べるとあまりにも地味な印象。同じ時代に書かれたものでも「今読んでもすごすぎる!」と驚かされる作品はたくさんあるのだが。ただ、渋い味わいの挿し絵や洒落た言葉づかいは楽しめた。
内山 沙貴
評価:B
真っ黒い鉄の巨大な機関車が爆音を撒き散らしながら、人気のないの原っぱを厳かに走る。空中には霧が漂い、視界は限りなくゼロに近く、まだ動物たちも眠る朝、幻想を打ち破るような事件が行われる……まるで現実味のないおとぎの世界に、無理やりつっこまれた陰惨な情景と血なまぐさい匂い。それらが媒体となって私たちの手は物語の中に引き込まれる。その世界は幼い頃に見た人形劇みたいにファンタスティックで、でも説明のしようがない空恐ろしさを含んでいる。無駄のない完成された世界が描かれた、不思議な推理小説だった。
大場 義行
評価:B
そんな事件あるのか? と少々首を傾げてしまう事も多々あったけれど、面白かった。挿し絵も効いているし、単に昔の作品だからかもしれないが、トリックだけで勝負する潔さが良かった。最後のエッセイは蛇足かと思わせておいて、「探偵小説突撃隊」とか案外オモシロかったし。しかし、どうしても表題作でもある「とむらい機関車」が頭から離れない。なぜか豚なんかがちょくちょく、その「とむらい機関車」に轢かれてしまい、謎を解明しようという話。この話は謎を解いてみれば、それはないだろう、とか言われそうなのだけれども、とにかく最後が忘れられない。ほんとうに、良い物を復刻していただきました。ごちそうさまという感じ。
佐久間 素子
評価:B
戦前の探偵作家としてファンに愛され、若くして戦没した著者の初期短編集。乾いた明るさのせいか、パズルのような謎解きのせいか、それとも、何だか呆気ないような「犯人」のせいなのか。小学生の時、夢中になって読んだ探偵小説のような懐かしいにおいが感じられて嬉しい。もっとも、記憶の底をさぐっても出てこない風景もまた魅力的。汗ばんだような空気、凄惨な死体、狂気と情熱をえがきながら、暗くならない『とむらい機関車』『坑鬼』はともに傑作。また、さすがについていけない展開ではあるが、ラストシーンが好きなので『気狂い機関車』を推しておきたい。同時発刊の『銀座幽霊』は乱歩の批判に応えた、意外性重視作品群らしい。とりあえず購入決定やね。
山田 岳
評価:C+
ほんまに戦前に書かれていたんですか? なんや、えらいモダンですやん。文体もさることながら、横溝正史みたいなオカルトもどきのおどろおどろしさに頼ってへんし、昨今の地方名所めぐり2時間ドラマにも陥ってへん。事件をドライに扱いつつ謎ときに挑んでいる姿勢は、<本格派>違ゃいます?表紙の絵はちょっと<もっさい>ねんけ’ど、本文のイラスト、とりわけ「白鮫号の殺人事件」での内藤賛のカットはめっちゃモダンですやん。107ページのんと’か、映画「太陽がいっぱい」のワンシーンを彷彿とさせてはります。ただ本文の方は、今の感覚からすると、ちびっと、話が短い。登場人物の会話のシーンも少ない。け’ど、モダンばかりかと思うたら、「坑鬼」は、プロレタリア文学みたいですやん。当時の特高警察には「これは推理小説や!」言い返してだまらすだけの力をもってはります。大阪はんは、名前に反して愛知県生まれ。戦争中に南方で戦病死しはりました。エッセイ「我もし自殺者なりせば」を読むと、芥川龍之介みたいに自殺したかったのと違ゃうか?という気がちょっとしました。
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