年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
      
今月のランキングへ
今月の課題図書へ

商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
 
  すべての雲は銀の…  すべての雲は銀の…
  【講談社】
  村山由佳
  本体 1,800円
  2001/11
  ISBN-4062108860
 

 
  石井 英和
  評価:D
  冒頭から、とにかくご立派な人物ばかり登場する。有機野菜の正義を語る「園主」やら、私達は外国へ行くのでもきちんとした目的を持ってゆきます、の女の子たちやら、夫の行方知れずにもめげずに強く生きようとする母やら。登校拒否する小学生にさえ「勉強はクラスで一番で、児童会の副会長さん」なる「肩書」が付く。そんな偉いコでなくては登校拒否する資格もないのか、この小説の世界では!多分著者は、正しいものの考え方とか、まっすぐな生き方が好きなのだ。そして、すべて人は正しくあるべきだと演説する代わりに、この小説を書いたのだろう。私は勘弁させてもらいます。説教されたくて小説好きになった訳じゃないしね。いやホントにこの小説、9割方が、登場人物が座り込んで身の上話をしているか、著者の説教話が提示されるかだ。楽しいか、これで?

 
  今井 義男
  評価:A
  一歩間違うと軽薄すれすれの作品になったかもしれない。全体に楽天的というか、なにもかもがとんとん拍子に運びすぎて、こちらはハラハラもドキドキもさせてもらえないのである。不登校のエピソードひとつとってもそれは顕著である。羽ぼうきで表面を撫でているようでまるで手ごたえがない。別に憂鬱な気持ちになりたいわけではないが、そう易々と片づけられるといかにも作り話っぽい。主人公の個人的な苦悩も他人から見れば笑い話ほどの価値しかなく、無論そんなことで世界は終わったりしない。逃げ場が必要なのは理解できる。だが、物分りのよい人々と、居心地のよい空間だけではなにも解決しない。この小説は土俵際で辛くもその答えに到達している。道は少々曲がりくねってはいるが。

 
  唐木 幸子
  評価:A
  読み始めた最初は、こういう今風の大学生が主人公で、『・・・じゃん』『・・・というか』『・・・っしょ』『・・・なんスか』などという会話を交わすトレンディドラマみたいな小説はイヤだな、と思ったのである。しかしこれが意外に面白かった。登場人物のひとりひとりが生き生きしているのだ。まず主人公の祐介は、恋人を兄に取られたショックのあまり大学を休んで信州の民宿に住み込んでしまう。その行った先で、3歳の男の子から【とーちゃん】と呼ばれて慕われるシーンには本当に心暖まる。で、その子の母親・瞳子と恋愛関係に落ちそうで落ちなくてストーリーは進むのだが、周囲の脇役達も個性豊かで最後まで気持ち良く読めた。ところで、私はこの著者のことを全く知らないのでインターネットで検索したら、なんとオフィシャルなホームページがあるではないか。しかし、読もうと開いたものの、字が小さすぎてとても読む気がしなかった。何とかしてくれー。

 
  阪本 直子
  評価:A
  余りにも惨めな失恋に、すっかり打ちひしがれてしまった21歳の祐介。友人の強引なすすめで、東京から信州へ、高原の宿で住み込みアルバイトをしにやって来た。そこで出会う、様々な人達……という始まり方は、まあ、ありがちかなって感じです。しかし。
 ありがちだなと思いつつ、引き込まれてしまうのだな。よく知っている誰かの、一別以来の消息を聞くように。脇役の誰彼について、ちょっとびっくりするエピソードは折節挿まれるけれど、少なくとも主人公・祐介に関しては、ラストまでずっとありがちな展開のまま。結末まで予想できた読者もきっと少なくない筈だ。それなのに、しっかりと読んだ手応えが残る。安堵感、満足感、爽快感。
 この作者は、良い。上手い、じゃなくてね。良い作者が書いた良い小説です。

 
  谷家 幸子
  評価:A
  村山由佳は、恋愛小説界の人だと思ってた。
そんなわけで、恋愛小説(食わず)嫌いの私としては、11月課題の唯川恵とともにわりと意識的に手に取ってこなかった作家のひとりだ。
いやー、やっぱ読んでみなきゃいかんよね。こういうの、めちゃくちゃ好きです。恋愛小説というより青春小説、さらにいえば北上次郎氏いうところの「普通小説」の傑作。
恋人の裏切りに傷つき、大学生活を捨てて信州にやってきた「僕」。その「壊れた心にやさしく降り積もる物語」(帯の惹句)。正直言って、普段なら手に取ってレジに向かわせるほどの力は、ここにはない。でも確かに、「降り積もる」ようにじわじわと染みてくる手応えを感じる。
「僕」は、別に「一生懸命働いて立ち直らなきゃ!」などと考えているわけではない。自分で自分の傷ついた心ををもてあましつつ、それでも目の前にある仕事は仕事として、淡々とこなしているだけだ。そして、そこで出会う人たちとも、ごく自然にかかわっていく。腹を立てたり、とまどったり、笑ったりしながら。
だけど、そうやって「生活していく」ことこそが、立ち直る道筋になっていることがとてもよくわかる。なにか劇的なことが起こるわけではなく、なにかを少しずつ積み上げることで獲得するもの。そうやって手にしたものは、きっとゆるぎないだろう。
なんだか、自分も一緒に再生された気分になった。

 
  中川 大一
  評価:C
  ぱっと見た感じそうは思えないけど、実はいい人。本書に出てくるのは、一括りに言うならそんな人物ばかり。口の悪いペンションのオーナー、無口な料理人、不登校の小学生、つんけんした母親……誰も彼も、よくよくつきあってみると心根やさしい人たちだ。かれらに囲まれ、揉まれることで祐介は心を繕っていく。恋人による裏切りで引き裂かれた心を。質の高い力作であることは確か。ただ、キャラクターが善人ばかりの一本調子なので、現代のお伽噺、予定調和の感あり。ペンションのオーナーすなわち農園主の無農薬へのこだわりは立派だが、こんなにうまくいくものなのかなあ。経営的に成り立つんでしょうか。宿泊料はおいくら? 癒しの物語に水差すくそリアリズムの感想文、失礼しました〜。

 
  仲田 卓央
  評価:A
  村山由佳は巧い。ひとつのことしか見えていなくて、まだまだ挫折する余地のある若僧を描いたら物凄く巧い。この人の作品はびっくりするぐらい当たりはずれが激しくて、当たりのときには涙が止まらなくなるようなものを書くくせに、外れのときには金を払ったことを後悔するような作品を書く。それは若僧を描くときの、その匙加減があまりにも微妙だからなんじゃないだろうか。結論からいうと、今回は2等賞ぐらいで当たり。主人公はこれまた優柔不断な、『なんてガキなんだ』と思ってしまうぐらいの若僧なのだが、いつのまにか感情移入してしまう。村山由佳にしては長い物語だけど、ゆっくりゆっくり物語に入っていけるという点で、それもプラス。帯には誰もが抱える傷がどうしたとか、許し会う人々が何とかと書かれているが、気にしないほうが良い。自分にもこんなガキまるだしのときがあって、今でもそれが体のどこかに生きてるんだよな、という物語である。

戻る