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夜明けのフロスト
夜明けのフロスト
【光文社文庫】
R.D.ウィングフィ−ルド 他 
定価600円(税込)
2005/12
ISBN-4334761623
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  松井 ゆかり
  評価:★★★★
 “クリスマス”というキーワードは共通しているものの、内容的にはバラエティに富んだ7つの短編が収められたアンソロジー。とりたてて期待もせず読み始めたが、いや、なかなかの収穫だった一冊。
 特に、殺人の起こらない「Dr.カウチ、大統領を救う」と「わかちあう季節」の2編がよかった。前者は、獣医の祖父が孫娘に昔話を語る中で大統領にまつわる謎を解き明かしてみせる話。後者は、作家のマーシャ・マラー&ビル・プロンジーニ夫妻がそれぞれのシリーズ探偵であるマコーン&名無しの探偵(本編では“ウルフ”と呼ばれる)を登場させた共作。どちらもチャーミングな作品になっている。
 ひとつ疑問が。『夜明けのフロスト』という題名だが、これでいいの?R.D.ウィングフィールドが生み出した人気キャラ、フロスト警部の短編集と思われるのでは。そう思って買ったファンはがくっとくるだろうし、他にいろいろおもしろい短編が入っていることを知らずにスルーしてしまう人がいたらそれも残念だ。

  西谷 昌子
  評価:★★★
 クリスマス短編集。ミステリなのにどの事件もなんだかほんわかしていて、クリスマス気分に浸れる。クリスマスパーティーやクリスマスツリー、家族へのプレゼント。特に表題作はフロストシリーズファンももちろん、フロストシリーズ初読にもおすすめだ。飲んだくれでブラックジョーク大好きなフロスト警部がクリスマスを当たり前に過ごすはずがない。乱暴にぽんぽん飛ぶジョークが小気味いい。他にもおじいさんと少女の会話でつづられるほのぼのミステリから、クリスマスパーティーの最中に起こった毒殺事件まで、毛色は違うのにどれもクリスマスの雰囲気に満ちている。クリスマスがカップルだけのものになっている日本で書かれたものなら、こうはいかなかっただろう。警察もクリスマスに休む国ならではの物語。本場の雰囲気が存分に味わえる。

  島村 真理
  評価:★★★★
 クリスマスにまつわる、7つのアンソロジー。
なんともお気の毒。クリスマスに事件に巻き込まれるなんて。だけれども、読者としては大いに興味をそそられる状況。耳を澄ませばそれぞれの嘆きが聞こえてくる。
クリスマスツリーを積んだピックアップトラックがねらわれたり、父親探しに、突然過去の女の子供が現れたり、イヴの夜から次々と事件が持ち込まれたり。きっと彼らには“オーマイゴッド”と叫びそうな状況だけれど、なんとも痛快で心温まる結末が用意されている。
注目すべきは愛すべき登場人物たち。「お宝の猿」のダルジールとパスコーの絶妙なやりとりと会話は爆笑だし、「わかちあう季節」の探偵事務所の面々のお手並みはクール。「夜明けのフロスト」のフロスト警部の分厚い面の皮も見逃せない。
読むだけで、クリスマスの日の特有の楽しくて優しい気持ちが味わえます。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★
 7人の作家による短編のアンソロジー。ご存知フロスト警部の活躍する表題作はそのうちの一つで、この作品だけだったら星はあと一つ多くてもいい。残りの6作品もそれなりに楽しめるが、やはり「夜明けのフロスト」が圧巻である。これは短編というよりは中編小説に近い長さがある。
 舞台となるデントンでは、クリスマスの日も、朝から晩まで一日中絶え間なく事件が起こる。赤ん坊の放置事件から始まって、病気の少女は行方不明になるわ、百貨店には強盗が入るわ、警備員は行方をくらますわで、当然、フロスト警部をはじめとするデントン警察署の面々は、クリスマス気分を味わう暇もなく振り回される。しかし最終的には、パズルの断片を組み合わせるようにカチッと1日ですべての事件を結びつけ、見事にケリをつけてしまう。フロスト警部は持ち前の下品なジョークを随所で炸裂させるかと思うと、犠牲者の家族の前では、ほろっと人情味も見せる。俗物マレット署長も健在。酔っ払いのハリーもいい味出してる。

  荒木 一人
  評価:★★★★★
 生まれて初めて推理小説で爆笑した、抱腹絶倒。フロストのおっさんが良いです。大爆笑!大満足! クリスマスにちなんだミステリの傑作7編(短編6+中編1)からなるアンソロジー。
7編全ての完成度が高く秀作、非常に読ませる本になっている。各作家が個性豊かな探偵・警察官を登場させ、最後の落とし所を見事に決めている。この「小さな灰色の脳細胞」を満足させてくれる。
各方面にお叱りを覚悟で宣言するが、表題の「夜明けのフロスト」だけを読むために買う価値はある! 主人公のジャック・フロスト警部は、だらしなく、下品で意地汚い。その上、悪口雑言の癖まであるのに憎めない、不思議で魅力的な人物。凡百の探偵・警察官の中でフロストのおっさんが一番好きになった。著者のウィングフィールドは寡作らしく、今まで接する機会が無かった事を残念に思う。
ミステリなる分野は、昔に填った事はあるが、最近御無沙汰だった。これを機会に、また、填ってみようかな。

  水野 裕明
  評価:★★★
 寡聞にして『ジャーロ』というミステリー専門誌が季刊で出版されていることを知らなかった。ネットで調べると錚々たる本格派の作家が並んでいて、驚いてしまった。その『ジャーロ』に掲載された短編のアンソロジーがこの1冊。“クリスマスにハートウォーミングなミステリーを”がテーマらしく(でも、ミステリーなので殺人事件が起こるので、ハートウォーミングと言うのは辛いのもありますが……)クリスマスにちなんだ作品が8編。それもよく知られた探偵や警部が主人公の作品が多いので、この時期ではちょっと季節外れかもしれないが、けっこう楽しく読めた。読後感で抜群なのは「あの子は誰なの?」。“実は本当の父親は違うの”、と言い残して亡くなった母の言葉から本当の父親探しをする青年と、その父親候補となった主人公の警官の、イブからクリスマスまでのどたばたを描いたストーリー。殺人は起こるが、青年の無実は晴らされ、本当の父親もわかるクリスマスにはちょうどいい読み物であった。タイトルの「夜明けのフロスト」は長編でも活躍するフロスト警部の短編。イブの夜に次々と事件が起こって、徹夜で走り回るフロストの様子が描かれた、これもクリスマスにぴったりのストーリー。これで何の罪もない警備員が殺されなければ、ハートウォーミングで良かったのだけれど……。