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最期の喝采
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【講談社文庫】
R・ゴダード
定価1040円(税込)
2006年1月
ISBN-4062752905
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  久々湊 恵美
  評価:★★★
 8日の間に展開するサスペンス。
下降線をたどる舞台俳優、トビーが離婚間近の未練残る妻をストーカーから救うため身辺を調べはじめた…。
サイコスリラーものかと思って読み始めたのですが、違ってました。正統派なんですね。
もっと複雑な背後が見え隠れする展開に、あれよあれよと言う間にサスペンスの世界にどっぷりと浸かってしまいました。
とても上手い!ダレることなく読み切れてしまいます。人物像がはっきりしているのも単なるサスペンスだけではない、生き生きとした感じを出しています。
決定的な証拠をつかんで先に進んだと思ったら、それをまた覆され後退していくのが、何と言うかこのストーリーにのめりこんでしまうところかもしれません。
それにしても、愛する妻のために舞台をすっぽかすなんて!個人的にはそれやっちゃだめだろー!なんて思ったんですが、だからこそ主人公の妻を思う気持ちがより一層大きく見えるのかな。ちょっと羨ましいかも……。

  松井 ゆかり
  評価:★★★
 なんかクリスティっぽい。読み始めて間もなく抱いた感想だ。それもあながち的外れではなかったか。著者はイギリス生まれ、私は不勉強にしてこれまで他の著作を読んだことがなかったのだが、歴史ミステリーを得意とする作家であるとのこと。この作品は現代物だが、翻訳もいいのだろうか、重厚な雰囲気が全編を通して支配する。主人公は落ち目の舞台俳優。戯曲も著すアガサ・クリスティと舞台は切っても切りはなせないものだろう(著作にはよく女優が登場する気がする)。その彼に離婚寸前の妻が助けを求めてくる。彼女を付け回すストーカーの真の狙いは…。
 クリスティ好きとしては、大乗り気で読み始めたのだが…。うーん、できれば“意外な犯人”というハードルもクリアされているとなおうれしかったが。その他の細かい伏線の回収のしかたはなかなかよかった。
 しかし最大の謎は解き明かされていない。主人公トビーが未練たっぷりの妻ジェニー、そんなに魅力的だったか?

  西谷 昌子
  評価:★★★
 最初はなんだか重苦しい雰囲気だったが、どんどん謎が解けていき事件の全容が明らかになるのが面白くて、最後のほうは夢中で読んでしまった。結構な長編なのにだれず、読み進めるほど面白いのは作者の力だろう。落ち目の役者である主人公は、離婚寸前の妻から、誰かに見張られているという電話を受ける。調べるうちにその地域に昔あった工場と、妻の恋人にまつわる、忌まわしい話が少しずつ姿をあらわしていく。謎解きばかりでなく随所にハプニングがあったり、アクションシーンがあったりして読み手の緊張感をそこなわない。妻の恋人がいかにもな悪者だったり、妻への愛情表現が恋敵を貶めることだったりと、アメリカ的な話ではあるが、だからこそエンタテインメント性はたっぷりだ。翻訳が少し固くて読みにくい気がしたので、星4つのところを星3つ。

  島村 真理
  評価:★★★
 男って意外と嫉妬深いし未練がましいということがよくわかる一冊。そのあたり女の方が怖いと言われてますが、やはり違うようです。
落目の俳優トビーが地方巡業先で、妻からストーカーの排除を頼まれ、そのために事件に巻き込まれます。一発逆転で妻の心を取りもどそうと思うあまりに、めまぐるしい一週間となるのですが、そのわりに、妻の心がこちらに見えてこないので、読むほうはついついやめておけばいいのにと思うのです。事件とあいまって、彼の献身的な行動がかえってかっこよく見えてました。
 もちろん、追い込まれて研ぎ澄まされていくストーリーは抜群です。ぐったりとするくらい。トビーだけでなく、妻の交際相手のいやらしさも見逃せません。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★
「千尋の闇」や「さよならは言わないで」といった名作でも分るように、報われない愛に殉じる男の切ない純情をほろ苦く描くのが、この作家の真骨頂だろう。ロマンスが絡んだ歴史ミステリーの作家というよりも、本質的にはミステリーの体裁をとるロマンス小説の作家なのではないかというのが私のゴダード観である。
 さて本作である。主人公のトビーは妻ジェニーと離婚訴訟中。トビーは妻に未練があり、離婚を望んでいない。一方、ジェニーはトビーと別れ、ロジャーという大富豪と再婚する予定なのだが、このロジャーが曲者で、悪い奴なのだ。ロジャーの本性を知ったトビーは妻を守るため、そして妻の愛情を取り戻すために事件に巻き込まれてゆく。まさにゴダート節全開である。ただ、ジェニーの魅力がいま一つ乏しかったのと、後半から終盤にかけての展開が性急かつややあっけなかったのは、ちょっと残念。そろそろ「千尋の闇」を超える作品を、と切望しているのは私だけではあるまい。

  荒木 一人
  評価:★★★★
 非常に読ませる、8日間の現代ミステリ本。面白いんだが、ほんの少し物足りない。勢いも、ひねりも、もう少しあれば大満足できるのに。表現方法も、ゴダードらしく無いと考えるか、新分野を開拓しているのか、判断しにくい。
2002年12月、落ち目の舞台俳優トビー・フラッド。気の進まぬ、興行先。理由は、人気の無い主役、離婚訴訟中で自分を捨て行った妻ジェニーが居る場所、そして妻にまだ未練がある事。ところが、ジェニーからストーカーについての相談をされる。ストーカーを説得するだけの筈が、ジェニーの婚約者で地元の資産家一族の暗い秘密に触れてしまい…
「録音テープの書き起こし」という手法は、いま一つの感が否めないが、過去と現在の複雑に絡まる話をすっきり読ませる著者は流石としか言いようが無い。
宗教や文化が違うと、理解しにくいモノもある。それはそれ!として受け入れるか、拒絶するかは個々の自由であろうが寛容な方が、より楽しめるのは間違いない。

  水野 裕明
  評価:★★★★
 あぁ〜面白かった。さすが希代のストーリーテラーの作品。楽しく読ませる術をよく知っている。緻密に構成された「物語」を読むという満足感の大きな作品。離婚訴訟中の妻からストーカーまがいの男を何とかして欲しいと頼まれた舞台俳優が復縁の期待もあって、その頼みを引き受けた日からの一週間の物語。ただのストーカーと思っていたら、話はどんどんと複雑になってゆき、過去の事件や公害企業の実態暴露へと話は広く深くなっていく。これまでのゴダードの作品の多くは史実とフィクションを上手く織りなした歴史ミステリで、面白いが展開にまだるっこい所があったが、これは日曜日から土曜日までの1週間の事件(最後の日曜日の章はほとんどエピローグなので……)なので展開も小気味よく、一気に読了した。ちなみに、作中で紹介される劇作家ジョー・オートンは実在の人物で、ほんとうにホモの愛人ケネスに殺害されていることがホームページを見てわかった。このあたりが虚実取り混ぜて一つの物語に仕上げるゴダードのこだわりであろうか。

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