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陽気なギャングが地球を回す
陽気なギャングが地球を回す
【祥伝社文庫】
伊坂幸太郎
定価660円(税込)
2006年2月
ISBN-4396332688
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  久々湊 恵美
  評価:★★★★★
痛快!爽快!面白い!!
ゲラゲラ笑いながら読みました。
人のついた嘘がたちどころにわかる男、狂いのない体内時計を持つ女、見事な演説で人を煙に巻く男、何でも盗む天才スリの男。
面白い特技を持ったメンバー達が、その能力を生かして銀行強盗しちゃうのです。
鮮やかな手口で誰一人傷つけることなく、現金を奪う様は、まさにルパン三世の世界。カッコイイ。
その彼らの奪った現金を別の強盗団によって奪われてしまう。ところが、その強奪計画を企てたのは…。
二転三転のストーリー展開も実に良いです。
登場人物達がとってもユニーク!私もなにか特技があったら、是非とも仲間に加えて欲しい!
彼らの日常生活はどんなんだろう、なんて読み終わったあともまだ心の中でストーリーが続いていくような気がします。
まるで映画を観ているかのような一冊。本当、読んだあとスカッとします。

  松井 ゆかり
  評価:★★★★★
 ロマンはどこだ。
 (ろまん【ロマン】1.文学用語でロマンスと同義。伝奇的な物語。2.夢や冒険に満ちた事柄。
  ―はどこだ【ロマンはどこだ】銀行強盗に押し入る際の合図の言葉。)

 以前NHKBS「週刊ブックレビュー」のミステリー特集で、北上次郎・関口苑生両氏が「年間ベスト9に『重力ピエロ』と『陽気なギャングが地球を回す』のどちらを入れるか」で激論を戦わせていた。北上さんが『重力〜』派で、関口さんが『陽気な〜』派。結局ベスト9入りしたのは『重力〜』だったが、私は断然関口さんに一票だ(「重力〜』ももちろん好きだが)。当時の残念さも含め、ここで強力に推させていただきたい。

 ロマンはどこだ。
 ロマンは伊坂作品の中にある。


  西谷 昌子
  評価:★★★★
 ひとつひとつの章が短く、視点がその度に変わるので少し読みづらかった。しかし、ちょっともったいぶった独特の会話文と、登場人物たちのでたらめな能力の高さが面白い。章ごとのイントロについている、辞書ふうに言葉の意味を書いた短文も楽しめた。驚くような謎解きがあるわけではないが、主人公ら「ギャング」が実に軽妙に、楽しくしているのでこちらもその雰囲気を味わえるのだ。彼らが得ようとしているのは、実はお金ではなく、日常を強烈に楽しくしてくれるような物語なのかもしれない。彼らはどれだけ美しい手段、やりたい手段で目的を完遂するかにこだわる。銀行強盗の途中で客たちに演説を行うギャングがいるだろうか。しかし、彼らは演説を行う。彼らが大切にしているのは、ひとつの美しさ、ロマンを貫くことであるからだ。

  島村 真理
  評価:★★★
 銀行強盗(というよりギャング)は実は明るい正義の味方なのか?という錯覚をおこします。犯罪人であるギャングが痛快に事件を解決なんて。人数も内容も違いますが「バンディッツ」という映画を思い出しました。これは犯罪コメディでしたが、そもそも銀行強盗はコメディかもしれない。
 この物語で好きなところは、4人それぞれが素晴らしい素質に恵まれているところ。人の嘘を見破れたり、体内時計を持っていたり、演説が素晴らしかったり、スリが上手かったり。(「特攻野郎Aチーム」とか「ファンタスティック・フォー」とかみたい!)それぞれが得意分野で一つの事業(まぁ強盗ですけど…)をなしとげるところは、”よし!よし!”と声援をおくってしまう。スピードとスマートなからくりが魅力です。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★
 嘘を見抜く名人、スリの天才、演説の達人、体内時計で時間を正確に測れる特殊能力を持った女という、個性的な四人組の銀行強盗団のお話。それぞれのキャラがよく立っているし、軽妙洒脱な警句や薀蓄の飛び交う会話、手品のようにひねりを利かせた仕掛けなど、この作者の面目躍如である。小道具を使った伏線の張り方も気が利いている。読後感も悪くない。強盗団のメンバーの一人の子供をみんなが気遣う様子など、心温まるものがある。
 さくさくとクリスピー、軽い口当たりの小説だ。ただ、正直なところ、ちょっと食い足りなかった。いじめられていた少年、薫君の今後が少々気がかりだし、四人組が別の現金輸送車襲撃犯に横取りされた金の行方は、予想と全然異なっていて、私としては十分なカタルシスを得られなかった。作者の独擅場ともいえる技巧の冴えも、本作ではなんだか小手先のものに終わっている感じで、読後感がやや希薄だ。
 本作品は映画化され、5月に公開される予定とのこと。小説とは一味違った小気味のいいノリのよさが味わえるかも。

  荒木 一人
  評価:★★★
 有りそうで無さそうな、脳天気ギャングのアクション小説。捻りも少なく、あっと言う間に読める。主役はもちろんだが、脇役も含めた個々のキャラクターの設定が面白すぎる程。伏線の張り巡らし方も上手いとしか言いようが無く、さすが。お気楽!極楽!軽く面白い! 
 特殊な特技を持っている4人組の強盗団(ギャング)。入念な下調べと、シュミレーションを繰り返し完全犯罪を行う。計画通りに襲撃し、4000万円強奪に成功する。逃走ルートは完璧。ところが、交通事故に見せかけられ、他の強盗団にまんまと取り上げられる。当然、そのままでは済ませない。逆襲の狼煙をあげ反撃開始。
 各章の始めに、辞書の解説の様な文書が付いている。始めの方の章では普通なのだが、段々と著者流の説明になっていき、これもなかなか面白かった。昔々、「コージ苑」という古い漫画で同じ手法を見たことが有るが(笑)。映画化される様だが、映画の前には是非読んでみることをお奨めする。

  水野 裕明
  評価:★★★★
 なんと素敵で楽しい悪漢小説だろうか。映画「オーシャンズイレブン」のような個性豊かな面々が揃った銀行ギャングが主役の、ほんとうに騙し騙される楽しさを味わえる佳作。演説の天才とか、嘘を見抜いたり完ぺきな体内時計を持っているなど特殊な能力の持ち主が4人も登場して、ちょっと嘘っぽいけど、そんなことはあっさりと許して、楽しめる作品。特にギャングの上前をはねようとする連中をさらにひっかけて、車に閉じ込めるシーンなどは、映画「スティング」を思わせて、きっとそうだろうなと思いながらも、ワクワクドキドキとしながら読んでしまった。銀行ギャングを正当化するのはどうかとは思うが、でも、殺人はしない、拳銃も必要最小限でしか持たないと、一般の読者がシンパシーを感じやすいような設定になっていて、そのあたりもスゴイ好感が持てた。日常の憂さを忘れさせるエンターテインメントの一作。