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地球の静止する日
地球の静止する日
【創元SF文庫】 
レイ・ブラッドベリ 、シオドア・スタージョン他 (著)
定価1050円(税込)
ISBN-4488715028
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  久々湊 恵美
  評価:★★★★

 映画化したものは何本か観ていたのですが、こうした原作といわれるものはほとんど読んだ事ありませんでした。
 そういえば、昔読んだ事のあるSFってこういった感じのものが多かったような気がします。
 なつかしい感じのSF短編集。友好的な宇宙人が多く登場します。
 最近では何だか近寄りがたい分野になってしまっていてずいぶんとご無沙汰であったのです。
 そういえばここ最近のハリウッド映画は攻撃的な宇宙人ばっかりだな、人が死んでばっかり。なんて思っただけに、なんとも嬉しく読みました。
 面白かったのが『擬態』。えっ!あの映画の元はこれだったのか!って驚きました。
 この中でも生理的にも嫌だ!って思ったのに好きになってしまった一編は『ロト』ですねえ。
 主人公がとても不愉快極まりない人物なのですが、この不愉快さがたまらなくって。
 それにしても、かなり短いSF小噺的なものから、よく膨らませて一本の映画にしてしまうよなあ、と感心しちゃいます。
 本書の最後の一編に映画の撮影始末記が掲載されていますが、こりゃあ、大変だって感じ。
 全くもって始終お金の事ばっかりです。今も昔もハリウッドは金、金なんですねえ。

  松井 ゆかり
  評価:★★★

 「SF映画原作傑作選」ということだが、私のSF原体験ともいえる星新一&「猿の惑星」的な空気(一流と呼んでも何の問題もないはずなのに、そこはかとなく感じられるB級感)が色濃く漂う短編集。
 特に印象に残ったのは「ロト」。すごいですよ、こんなとんでもない父親かつ夫を描き出したという点ですでにSFというジャンルの枠を超えている気もする。あるいは「月世界征服」。間に挿入される未来の歴史書の記述を読んでも、結局主人公たちの運命がはっきりとわからないのは私の頭が悪いせい?SFも映画も好きという人にはもちろんのこと、どちらもあんまり興味ない方にもおすすめしたい。この本が両方を好きになるきっかけになればいいなと思う。

  西谷 昌子
  評価:★★★★

 映画化されたSF短編のアンソロジー。短編だけ読んでも十分面白いが、解説でどんな映画だったのかも書かれているからより面白い。不勉強にして映画のほうは見ていないものばかりだったのだが、「殺人ブルドーザー」など、本編といっしょに掲載されている映画のポスターを見るとB級風味もいいところで、想像するだけで面白い。「殺人ブルドーザー」という題名でB級アメコミの絵だと、なんとなく内容が想像できてしまうではないか。しかし本編は手に汗握るSFサスペンスだ。しっかりとSF的な設定もあり、ブルドーザーの専門的な知識もしっかり生かしたうえでの小説である。
 他の短編も同様に、まず純粋に小説を楽しみ、次に映画化したところを想像しながら楽しむという読み方ができる。「擬態」など、一体どんな映画になったのかぜひ見てみたいところだ。

  島村 真理
  評価:★★★

 先入観がふっとびました。実はSFは苦手なのです。映画ならバカバカしいほど笑えますが、SFを読むのは面白くない!(科学的なことをいわれても難しくてわからないから)読むほどのことはないと思っていました。
 しかし、それは間違いでした。この本に収録されているのは、主に1950〜70年代のSF映画、それも原作があることをあまり知られてないもの、また日本初翻訳作がほとんどだという。中村氏のまえがきを読んだ時点で心が騒ぎました。そして、「趣味の問題」(「イッツ・ケイム・フロム・アウタースペース」の原作)を読んでひっくり返りました。面白い。面白いのです。「殺人ブルドーザー(原題はキルドーザーですよ!!すばらしい)」というチャーミングなタイトルに、「ミミック」の原点である「擬態」との出会い、「地球の静止する日」の原作「主人への告別」のラストの衝撃、とにかく読みどころ満載なのです。
 小説を読めば映画も観たくなり、映画を観たことがある方はきっと読みたくなる。とってもお得な一冊なのでした。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★★★

 レイ・ブラッドベリやロバート・A・ハインラインなどの手による短編集。SF映画原作傑作選と銘打たれている。私が観たことのある映画は残念ながら1本もなかったため、映画と原作を比較して楽しむということはできなかったのだが、いずれにせよこれらの作品は外れなし。全てが文句なしに面白かった。
「趣味の問題」はファースト・コンタクトにおける生理的好悪の問題を扱う、一種の滑稽譚。「ロト」はパニックもの。シニカルなラストが衝撃的。「殺人ブルドーザー」は人間を殺しまわるブルドーザーの物語。荒唐無稽さではこれが1番。ど迫力の描写で一気読みした。「擬態」は諸星大二郎の漫画を連想させる。「主人への告別」は高い知性を持つ異性人と人類との悲劇的な出会いとその後日譚。ラストにどんでん返しがある。「月世界征服」では緻密きわまる描写に驚かされる。その19年後に実際に人類が月に行くことを、そのまま予言したような作品。ラストがとてもクールで素晴らしい。

  荒木 一人
  評価:★★★★

 六編(うち五編は本邦初訳)から成る、SF映画の原作短編集。なかなか面白かった。著者達はあまりに有名なので紹介の説明が必要無いくらい(笑)。SFファンには堪らない超有名どころによる、アンソロジー。
 趣味の問題(レイ・ブラッドベリ)、ロト(ウォード・ムーア)、殺人ブルドーザー(シオドア・スタージョン)、擬態(ドナルド・A・ウォルハイム)、主人への告別(ハリイ・ベイツ)、月世界征服(ロバート・A・ハインライン)
「閑かなる棲息」、「主観の相違」、「生命の定義」、「理性有る蛮勇」、「主従の逆転」、「悲惨な結末」。(目次通りの並びには、故意にしていませんので悪しからず。)
 単なる娯楽作品だと思い読むと、手非道い目を見る気がする。著者達が込めた思いは、啓示なのか?教訓なのか?それとも、シニカルな笑いが欲しかったのだろうか? 
 全作品を通し、人間を見つめ直すきっかけに成るかも。映画の「宇宙戦争」や、アニメの「風が吹くとき」を何となく思い出してしまった。

  水野 裕明
  評価:★★

 宇宙人、原爆戦争、タイムマシン、月ロケットをテーマにして書かれた、映画の原作となった短編を集めたアンソロジーで、映画についても巻末で紹介されている。残念ながら、映画は「ミミック」しか見たことが無く、原作と映画はまったく違うものとなっているが、古いSF映画ファンの人には資料的価値があるかもしれない。個人的には本を読み始めた頃、夢中になって読みふけった、その頃はSF小説と呼ばれた、ただひたすらに懐かしい短編が並ぶ1冊である。サイエンスフィクションという言葉も今や余り聞かなくなり、実際サイエンスがフィクションを追い越してしまって、こういう小説が成り立たなくなってしまったのかもしれない。月も火星も、時間旅行もCGなどでよりリアルに表現されて、文字による想像の世界は、インターネットを開けばもはやリアルな世界となってしまっている。そんな今だからこそ、科学やロボットやタイムマシンを使って、人間の愚かしさや、独善性を描いたこの作品集に価値があるのかもしれない。