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勝手に目利き
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アジア新聞屋台村
アジア新聞屋台村
高野秀行 (著)
【集英社】 
定価1680円(税込)
2006年6月
ISBN-4087748146
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  清水 裕美子
 
評価:★★★★☆
 アジア各国に関する新聞(日刊ではない)を日本で発行する小さな会社・エイジアン。この編集部で働くことになったライター・タカノ青年の物語。混沌としたアジアな人々の様子がとても愉快。屋台的にどんどん新規事業を立ち上げる女社長の劉さん。とてもパワフルでエネルギッシュで新聞も滅茶苦茶な作り方をする。マーケティングはしない、発行してみること自体がマーケティング(笑)。そして記事のネタ元がその国の雑誌記事やインターネット情報だったり。まあ、インスパイアというか。
 ニヤニヤしながら「ありえない〜」と会社のエピソードを楽しみながら、いつしかロードムービー並に素敵な旅をした気分になる。ここに登場するカオスのように個性的な人々は【エイジアン的に】自立し、強いのだ。半年間の給料停止という危機的状況を脱して、タカノ青年が出した結論に、ふいに涙がこぼれた。『居場所は、自分で作るのだ』。のだ、って誰にも説明はしないのだが。
 読後感:ああ、良い旅をした気分

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  島田 美里
 
評価:★★★★★
 マッサージをしてもらったような読み心地だった。いつも、肩の力を抜いて生きていきたいなあと、思ってはいるけれど、この本を読むと、「お客さん、まだまだ凝ってますよ」と言われた気持ちになるのだ。
 フリーライターのタカノが、いつの間にか編集顧問に就任したアジア系新聞社は、タイトル通りの屋台村スタイル。台湾、タイ、インドネシア人など、アジア諸国の編集者たちが、「ほな、作りまひょか」というような軽いノリで次々と新聞を発刊している。編集会議はしないわ、著作権にも無頓着だわ、パクリは横行するわ、とんでもないアバウトさに、あっぱれとうなってしまう。わざわざ儲け話を断ったり、郷に入っても郷に従わなかったり、登場人物みんなが主役級の個性派。のべつ幕無しのカルチャーショックに、得体の知れない無国籍料理を食べている気持ちになった。
 ところが、むしゃむしゃ読んでいるうちに、おや? なにやら体の凝りがほぐれてくるではないか。この本は、ただの怪しげな無国籍料理じゃない。実は、きまじめな日本人に効く薬膳料理なのである。

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  松本 かおり
 
評価:★★★☆☆
 タイ、台湾、ミャンマー、インドネシア、マレーシア、5カ国分の新聞を一手に発行するエイジアン新聞社。編集長もいなければ編集会議もなし。主人公のにわか編集顧問・高野がズラズラ語る、外国人スタッフが巻き起こすスッタモンダの日々はそれなりに面白い。
 ただ、終盤での高野の心境は理解しづらい。「自分が主体性をもって」「状況に応じて相手を利用し、あくまで自分本位に動く」生き方を理想とし、「誰かに必要とされるから何かをやる」ことを否定する。自分が切実に必要とされていても「そんなこと、知ったことじゃない」「他人のために仕事をするのではなく、自分のために仕事をする」と言う。あげくに「居場所なんか人に与えられてはいけない。自分で作るのだ」とくる。周囲に流されず自ら開拓し選び取る生き方、といえば聞こえはいいが、どうも自信過剰と自分勝手が臭う。そんな自己満足のカタマリのような「仕事」に報酬を出すひと、いるのかなあ。

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  佐久間 素子
 
評価:★★☆☆☆
 巻末の著者略歴によると、「本書は、著者がかつて関わった複数のアジア系ミニコミ出版社での体験をもとに書いた、初めての小説である」とのこと。おおらかでパワフルな人々の働くエイジアン新聞社の逸話は、たしかにとても楽しいのだけれど、フィクションだと知りながら読むと、いささか失望を感じてしまう。事実か創作かという違いで、おもしろさの評価を違えるのは、筋違いかもしれないが、小説であるというのならば、素のエピソードを並べるという手法では物足りないなあ。語り手であるタカノさんの視点は存外さめていて、エイジアン新聞社の個性あふれる面々の観察者という立場から外に出てこない。フィクションであっても、物語の香りはしない。まるで物語のようなノンフィクションを書いている著者なのに、本当に不思議。タカノさんと、ニアリーイコールの高野さん、小説だからって照れちゃったのだろうか。
 とまあ、ここまでけなす必要は、きっとないのだ。だって、何度も言うが、個々のエピソードは楽しく、ときに不可解で、驚きにあふれているのだから。私の期待の方向がまちがっていたのだろう。

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  延命 ゆり子
 
評価:★★★★★
 なんてハチャメチャで、なんて過激で向こう見ずで、そしてなんて面白いんだ! 読んでいて吹き出すこと数回。高野秀行の面白さはいつも私の期待を大きく上回っている。もう不必要なほどのエネルギーにアドレナリンが止まらなくなる。
 売れないライターのタカノはアジア各国の新聞を発行しているエイジアン新聞社からタイのコラムを依頼される。しかしそこは日本の常識など遙か彼方に飛び越えた、とんでもない会社だった。編集会議はない、どころか編集長もいない。校正もおらず、著作権すれすれの記事。あげく不動産も扱えば、国際電話会社まで設立してしまう。なんなんだこの会社。「確実に儲かる仕事は面白くない」。そううそぶくエイジアンを立ち上げた台湾人の女社長、劉さんの並外れたパワーと意外性のなんと爽快なこと!
 この人の本を読むと私はいつも昔の自分を思い出す。訳のわからない過剰なエネルギーを持つ人に惹かれ、そういう国に憧れ、自分の五感を使い、話して、触って、口にして、それでしか確かめられなかった荒削りな日々。守りに入っていた今の自分をちょっと恥じた。もっと果敢に、もっと複雑にこれからの人生を生きていこう。そう思えた。

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  新冨 麻衣子
 
評価:★★★☆☆
 ノンフィクションライターである著者の初めての小説。本書は、著者がかつて関わった複数のアジア系ミニコミ出版社での体験をもとに書いたものであるらしい。
 仕事にあぶれたライターである主人公・タカノに舞い込んできた一本の電話。それが複数のアジア系新聞を出版する会社「エイジアン」と、台湾出身のとんでもない女社長・劉、そしてユニークな仲間たちと過ごす日々の始まりだった。
 う〜ん。なんといえばいいのか……。いや、面白いのだ。興味深いエピソードがいっぱいで、ほぼ一気読みだったし。ただこれが小説か?と問われると首をひねりたくなってしまう。いや小説なんだけど、視点がノンフィクションなのだ。一歩引いてる感じ。著者の都合で勝手に主人公たちを動かしてはいかん!という抑制のようなものすら感じるのである。だからキャラは生き生きとしてるけど、ストーリーとうまく絡んでない。もっと主観的になればいいのに。面白エピソードなんて削って主人公の苛立や期待や失望をぶつければいいのに。なんてことを思いました。

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  細野 淳
 
評価:★★★★★
 異文化が好きで、海外旅行によく言っている人にとっては、主人公が感じたように、「青い鳥はすぐそばにいた」と思わせられる作品だろう。東京のビルの一室に、日本とは全然違う、色々な国の人たちが集まる渾然とした世界があるのだから。
 ふとかかっていた一本の電話がきっかけで、『エイジアン』なる会社で発行している新聞の編集顧問となることになった主人公。とはいっても、出している新聞は五紙に渡り、対象となる国も、台湾・タイ・インドネシア・ミャンマー・マレーシアと多種多様。それに新聞とは言っても、どれも日本人の目から見れば、物凄くいいかげんなものばかり。でも、そんな会社の編集顧問という仕事だからこそ、好奇心のある人には、堪らないものであるはずだ。
 主人公を含めて、登場人物たちは皆、日本人離れした逞しさを持っている。そんな人たちの姿を、「アジア的」などと人くくりにするのには適さないかも知れないが、共通する「何か」があるのは確か。強い個性を持つ人間が集まって生まれる独特の雰囲気、匂いを堪能することができる作品だ。

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