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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年11月の課題図書
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介護と恋愛
介護と恋愛
遙 洋子 (著)
【ちくま文庫】
税込651円
2006年9月
ISBN-4480422641

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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★★
これはヒトゴトな話ではありません!
近い未来、私にだって訪れるであろう話です。
今までは、嫁いだ先の義理の父母を介護する、なんていう話を本で読んだりドラマで観たりということはあったのですが、独身の女性が仕事をしながら、しかも恋愛真っ最中で、父親の介護だってしなくっちゃ、というものを観た事も読んだ事もなかったんです。
でも今の晩婚化の時代に、こういった問題って架空の世界ではなくリアルで隣り合わせである事ですよね。
読みながらこれからの自分自身を色々と突きつけられた気がします。
でも主人公の場合は、まだ兄弟や兄嫁などが父親と同居していたから少しは楽だった部分てあったんじゃないかなあ。というのも少し感じちゃったかな。
一人っ子だったら、もっともっと追い詰められてしまうかも。
私が主人公だったら、何を最優先に選ぶのかなあ。なんだかどれをえらんでも後悔しそうで…。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 この本を読んでいちばん胸にこたえたのは、著者が世間的な標準から考えれば恵まれた環境(介護を分担できる兄が5人おり、兄嫁たちも協力的であること)にもかかわらず、何をしていても罪悪感を覚えるということだった。父親が苦しんでいるのに、自分は仕事で気を紛らわせている、自分はデートで浮かれている…。たぶん、今後どんなに介護制度が充実しようと、私たちはこのような後ろめたさからは逃れられないのだと思う。介護を煩わしいと感じること、十分な世話ができていると思えない心苦しさが存在する限り、どれだけ手を尽くしても完璧だという実感は得られないに違いない。
 介護に関する制度や保障が手厚くなれば、介護者の肉体面のしんどさは減ると想像される。しかし同時に、「もう介護なんていやだ!」と正直な声をあげても白い目で見られない社会の意識改革も行っていかなければ、精神的負担は増すばかりだろう。肉親への愛情と介護疲れは容易に両立する。ユーモラスに書かれているからこそよけいに辛い遙さんの文章を読んで強くそう思った。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★★
 ラスト1行で読者の人生まで変えかねない、危険な作品だ。
介護というと重く、辛そうなイメージばかりが先行してしまう。だがこの作品は、「重い、辛い、暗い」といったイメージすら現実の前では甘っちょろいのだよと教えてくれる。親との関係性、仕事に対するスタンス、恋愛に対するスタンス……介護をせねばならないといういう現実が、それらをひとつひとつ浮き彫りにしていく。ひいては女としてどう生きるかも問われてしまう。
そんな内容でありながら筆者の語り口が重々しくなく、次から次へと畳み掛けるように話す「女のおしゃべり」口調なものだから、ちっとも大げさでなくリアルなのだ。身の周りのことに引き付けて問題を語るのがびっくりするぐらいうまい。笑いながら読んでいると足元を掬われてしまうこの感じ。男も女もぜひ読んでほしい。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 ある日親がボケる。男は78歳、女は85歳という平均寿命の日本で、自分にそういう日が来ないともかぎりません。実際、90歳を越えたうちのお祖母ちゃんも少々ボケていて、奇矯な行動で両親の手を焼いています。そこには忍耐だけでなく、ちょっとした笑い(汚れたオムツを干していたとか)もあるのです。
 父親の介護と仕事と恋愛に翻弄される主人公の怒濤の日々はやっぱり笑いどころ満載。笑い飛ばさなくてはやってられないというだけでなく、現実は単に面白いというだけでもある。悲劇的な状況でも当事者にはそういう瞬間もあるのです。
 ボケて家がわからなくなった父が見つからないと駆けつけ、電話が鳴れば「死んだ」と思う。ローテーションで介護しつつも、デートし、時には仕事といって逃げる。それを後ろめたく感じている彼女ですが、でもよくやってるのです。今の世の中、女の仕事は家事だけでない。育児にも介護にも、際限がない。そんなあいまいなものを手がけるには、わりきりと家族の理解と協力がなにより大切なことだと思いました。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★☆☆☆
 ものすごく生々しくて過激な告白的エッセイだ。いくつかの配慮により人物設定や描写については事実と異なる部分があると作者があとがきで断っている。これでも配慮の手を加えているとするなら、現実にはもっとシビアな部分があったということだろうか。
 ただ過激だったから面白かったというわけではない。むしろ感情むき出しにして吐き出した言葉がそのまま綴られているような文章は、正直痛々しくて、読んでいて息苦しかった。作者もきっと相当に苦しみながら、このエッセイを綴ったのではないだろうかと思う。ついでに言うなら作者の兄嫁も大変だっただろうなあ。いろんな意味で。
 恋愛も介護も、確かに奇麗事じゃ済まない。それに直面することで生活も、ひょっとしたら人生さえもがガラリと変わる。全速力で前のめりにつんのめりながら恋愛ロードを突っ走ってきた作者の前にも、ある日介護という大きな崖が突然立ちはだかる。作者は迂回することなく敢然とその崖に取り付き、そこで気がつく。自分が引きずっている荷物の重さに。それは自分を虐待してきた親への怨みの重さであり、自分の痛みを本質的に理解しない能天気な恋人への怒りの重さだ。作者はナイフを取り、スッパリとザイルを切る。どの荷物を切り捨てたのか、それは読んでみてください。

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  水野 裕明
 
評価:★★☆☆☆
 この作品を読む前にNHKでドラマ化された番組を見てしまったので、フィクションの方が強いのだろうと思い込んでいたのだが、読み出してみると思いっきりノンフィクション、ほとんど日記的な作品であった。いかにも大阪の女性が書く作品らしく、ともすれば悲壮になりがちな父親の介護とその最後を、何やらギャオオ〜とかワァ〜と叫びながら面白おかしく(本人はやはり必死で悲壮なのはわかるのだが、読んでいるこちらはそう思えず……)介護を何とか乗りきっている様子がドタバタと描かれている。面白うてやがて悲しき介護かなというような感じで、これはこれで読みやすく、それなりには介護の実態を考えさせられるのではあるが、先月の課題図書である沢木耕太郎の『無名』と読み比べてみると、少し実感の無さがちょっと気になった。文章のテイストの違いのためなのかもしれないが、実際に親族を見取った人間として読むと、『無名』の方が遥かに心に迫って来るものがあった。

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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年11月の課題図書
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