コラム / 高橋良平

ポケミス狩り その1
「ミッキー・スピレインの巻」

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日本出版共同[ミッキー・スピレーン選集]装幀・永田力

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装幀・勝呂忠
 ご存じ、"ポケミス"の記念すべき第1弾、整理番号101 は、ミッキー・スピレインの『大いなる殺人』である。探偵マイク・ハマーのシリーズとしては4作目で、第1作は105 番の『裁くのは俺だ』。スピレイン作品の具抽画カバーはこの2点のみ。というのも、スピレイン旋風と呼ばれるほどアメリカ本国で大ヒットしており、翻訳権争奪戦の結果、早川書房が取得できたのが2点だったからだ。

 残りすべての作品の権利を取ったのが日本出版共同という会社で、[ミッキー・スピレーン選集]全5巻を"ポケミス"発刊の1か月後にスタートさせている。翌年4月には、〈オール讀物〉58年10月・11月号に分載(文春も参戦していたのだ!)された中篇を日本独自で単行本化、『私は狙われている』を加えて全6巻となった。書影のように、アチラのペーパーバックと同じく煽情的なセンを狙っている。

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潮書房[スピレーン選集]カバー・伊藤龍雄

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三笠書房[スピレーン選集]
 ちなみにこの選集、潮書房(56年6月〜8月)、三笠書房(58年12月〜59年6月)がリバイバル出版しているが、面白いことに、そのたびに増補された。潮書房版の『私は狙われている』には短篇「垣の向うの女」が追加され、三笠書房版では日本独自編集による作品集『他国者は殺せ』が加わり、全7巻となった。


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日本出版共同[ジェームズ・ケイン選集]装幀・岡本太郎
 なお、日本出版共同は[ミッキー・スピレーン選集]につづけ、[ジェームズ・ケイン]選集全10巻を54年1月にスタートさせているが、4冊出したところで版元が倒産してしまう。それにしても、ケインが文学的に評価されているからって、装幀が岡本"芸術は爆発だ"太郎って、スピレインとの差がありすぎでは?
 ところで、後年になって"ポケミス"は、日本出版共同の長篇5点の翻訳権を取り直し、改訳新版として出しはじめたのだが、なぜか3点で中絶。すくなくとも、ハマー・シリーズの『俺の拳銃は素早い』だけは出してほしかったのだが......。
 スピレイン作品は、"ポケミス"から10点がハヤカワ・ミステリ文庫に再録されていたのだが、文庫目録からその名が消えて久しい。彼の死後、マックス・A・コリンズが補筆して出た長篇『Dead Street 』を読んでみたが、フロリダで引退生活を送る元NYPDの刑事が、古巣を訪ねたとたん、フィアンセが事故死した過去の事件の真相を追うことになり、それが国家を揺るがす極秘事件に絡まり......といった具合で、スピレイン節は相変わらず。復活を強く望むわけではないが、マイク・ハマーのNYはなぜかいつも雨降り──といった観点から、新しいスピレイン擁護論が書けそうな気もするが、柄じゃないよね。

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装幀・勝呂忠
 最後に、たまたま所蔵している『裁くのは俺だ』の7版と15版の書影を載せておくが、カラーでその違いがお分かりいただけるだろう。日下三蔵なら、「それは異本に決まってるじゃないですか」って言いそうだ。


蛇足的追記・日本出版共同はさらに、上製箱入の江戸川乱歩現代語訳[黒岩涙香探偵小説全集]全12巻を企画。全巻購読者には別巻の『無惨』を贈呈するという意欲的企画で、この全集に賛同した乱歩氏は奮迅努力、54年4月、涙香歿後33周年を機に涙香祭を催したりするが、その三越劇場での記念祭前日、日本出版共同の社長と編集長の谷井正澄氏(のち〈宝石〉編集長となる)から不渡手形を出したこと、つまり倒産を免れないことを知らされる。ことの顛末は、[江戸川乱歩全集](光文社文庫)29巻『探偵小説四十年(下)』に詳しい。


[資料篇]"ポケミス"刊行順リスト#1(奥付準拠)
1953(昭和28)年
  09月05日(HPB 101)『大いなる殺人』M・スピレイン  (清水俊二訳)
  09月05日(HPB 106)『飾窓の女』J・H・ウォーリス  (高狷介=福島正実訳)
  09月10日(HPB 103)『黒衣の花嫁』C・ウールリッチ  (黒沼健訳)
  09月30日(HPB 102)『赤い収穫』D・ハメット     (砧一郎訳)
  09月30日(HPB 120)『矢の家』A・W・メースン    (妹尾韶夫訳)
  10月15日(HPB 111)『デミトリオスの棺』E・アンブラー(村崎敏郎訳)
  10月15日(HPB 119)『深夜の十字路』G・シメノン   (秘田余四郎訳)
  11月05日(HPB 104)『ワイルダー一家の失踪』H・ブリーン(西田政治訳)
  11月05日(HPB 105)『裁くのは俺だ』M・スピレイン  (中田耕治訳)
  11月20日(HPB 122)『鉄の門』M・ミラー       (松本恵子訳)
  11月25日(HPB 116)『恐怖の背景』E・アンブラー   (平井イサク訳)
  12月31日(HPB 107)『忘られぬ死』A・クリスティー  (村上啓夫訳)

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