オリジナル文庫大賞
2019年のオリジナル文庫大賞は大激戦だった!
候補作一覧
①『夫の骨』矢樹純(祥伝社文庫)
②『泥の銃弾』吉上亮(新潮文庫)
③『獣に道は選べない』額賀澪(新潮文庫nex)
④『鋼鉄の犬』富永浩史(マイクロマガジン社文庫)
⑤『掃除屋 プロレス始末伝』黒木あるじ(集英社文庫)
北上 それでは、オリジナル文庫大賞の選考会を始めます。最初にお断りしておきますが、いま話題の小野不由美『白銀の墟 玄の月』は対象外にします。あれを候補にすると、この選考会は5秒で終わってしまうので。それでは最初に点数をつけて、そのあとでコメントをつけてください。点数は5点満点です。
評A では、①から順番に、4点2点2点2点3点です。全体的にきびしい採点かなという気はするんですが、『夫の骨』は中でも気にいりました。犬が出てくるやつとかは特にいい。ただ、次作を読みたいかと言われると、うーむというところがあるので、満点から1点減点しました。
北上 あとの作品は、だいたい厳しめだね。
評A そうですね。キャラがノレないものが多かったですね。その中でも『掃除屋』は読みやすく、もう少し点数を高くしもよかったかなと思う。
北上 わかりました。それでは、Kさん。
編A はい。4点3点4点3点4点です。
北上 それでは、コメントを。
編A『夫の骨』は安定して読ませます。毎回、ひねりがうまい。『獣に道は選べない』は、どうでもいい話だと思って読み進めましたが、だんだん癒される(笑)。
北上『泥の銃弾』は?
編A 前半はいいですが、後半しりすぼみになる。『鋼鉄の犬』は予定調和の世界で、新しさがない。
北上 はい。それではSさん。
評B 5点3点2点2点4点です。
北上 初めて満点が出た。
評B 『夫の骨』は、最後のぺージの独白でどんでん返しという構成が似ているので損をしていますが、短編ミステリーとしては粒が揃っている。少し甘めの評価で5点です。『泥の銃弾』は、昔の冒険小説みたいで、ちょっと古い。『獣に道は選べない』は続編で、前編を読んでないと少しわかりにくい。『鋼鉄の犬』は盛り上がりに欠ける。ロボット犬が可愛いので採点は甘めです。『掃除屋』はプロレス観は古いけれど、設定は面白い。これも甘めの採点です。
北上 はい。じゃあ、Nさん。
評C 3点5点2点3点4点。『泥の銃弾』は個人的に好きなので最高点をつけましたが、このオリジナル文庫大賞には合わないかもしれない。
北上 どういう意味?
評C このオリジナル文庫大賞は、街中華の名店を選ぶことだと思うんですよ。本格的な高級中華じゃなくて。そういう文脈で考えると、『泥の銃弾』は本格的すぎる。だから、採点は次点にしました。その意味で『掃除屋』のほうが街中華にはふさわしいかもしれない。これが街中華です。
北上 よくわからない譬えだな(笑)。
評C 他の作品にもコメントをつければ、『夫の骨』は新しさがない。『鋼鉄の犬』はテクノロジー小説の面白さがあればいいんですが、それもない。
北上 ええと、次は誰?
編B ぼくです。
北上 それでは採点から。
編B はい。3点5点2点1点3点。
北上 満点をつけた『泥の銃弾』からコメントを。
編B これは好みがどんぴしゃでした。『獣に道は選べない』は、『鋼鉄の犬』よりもまだ構成がいいので採点は上にしました。『掃除屋』はアクションシーンがよくて、キャラもよく描けている。展開が急すぎるのが疵ですが。
北上 はい。では、次。
評D 4点5点3点3点3点です。
北上 『泥の銃弾』はまた5点だ。
評D コメントは順番にいきます。まず、『夫の骨』ですが、面白かったんですけど、ネットですごく評判が高くて、そこまで驚くかという気持ちですね。『泥の銃弾』は、荒っぽい小説ですけど、心意気を買いたい。『獣に道は選べない』は、化け猫と化け狸が、新宿という舞台に合っている。『鋼鉄の犬』は第7章と第8章はいいけれど、そこまでいくのが辛かった。『掃除屋』はなんといっても解説がいい。
北上 はい、次は。
編C ぼくです。ええと、4点4点2点2点5点。
北上 それではコメントを。
編C『夫の骨』は一気に読むと飽きてしまうので1日1編ずつ読みました。
評B その読み方は正解かもしれない。
編C そうして読んだら面白かった。『泥の銃弾』はスケールが大きく、志が高い。『鋼鉄の犬』はでかい話のプロローグですね。
北上 他の作品にコメントをつけなくていいの?
編C もういいです。
北上 はい、それでは次。
編D 3点5点2点2点4点です。『夫の骨』はうまいと思う。ただ、うまいなあと思う以外になにもない。『泥の銃弾』は、こうなったらイヤだなあという展開になるけど、いまどき政治的なテーマを持ってきて、これだけ堪能できるのは素晴らしいと思う。こまかな欠点はありますけど。『獣の道は選べない』は意外に楽しく読めたし、『鋼鉄の犬』は少しずつ成長していくのがよかった。
北上 『掃除屋』を高評価していますが。
編D プロレスを題材にしてここまで読ませるのはすごい。Nさんが言うように、街中華はこんなものでしょう(笑)。
北上 だから、その譬えがわからない(笑)。
編E ぼく、いっていいですか?
北上 おお、頼む。
編E 2点2点4点4点2点です。新しいビジョンを見せてくれるかという観点から採点しました。『夫の骨』は短編ミステリーとしては面白いけれど、その新しさがない。それに文章に色気が欲しい。『泥の銃弾』は構成に難あり。『鋼鉄の犬』はだらだらしているのが欠点ですが、楽しめたので4点です。カタルシスがあるかと言われると困りますが。『掃除屋』は新しい世界ではない。
北上 じゃあ最後はY君。
編F 3点5点2点2点4点です。
北上 それでは、コメントを。
編F 『夫の骨』は、最初は面白いんですが、途中からそうでもないぞと。『泥の銃弾』はアラはあるけれども、それをねじ伏せる豪腕がある。本当の採点は4点ですが、志を買って5点。『鋼鉄の犬』はディテール小説でストーリーがない。昔の架空戦記ものみたい。『掃除屋』は昔よくあったよなという話ですが、でも面白かった。
北上 最後に私の採点は、4点3点3点2点2点です。
編A 各作品のみなさんの採点を集計しました。
北上 発表してください。
編A 39点42点28点26点38点です。
北上 『泥の銃弾』が42点で1位。『夫の骨』が39点で2位。『掃除屋』が38点で3位と。
評B その3作で議論していきましょうか。
編B 3作の合計点数はほとんど差がない。
編A 3作が僅差というのは珍しいですね。
北上 合計点数の多い順に決めるというわけではないけど、満点をつけた人がいるのもその3作だけだし、ここから選ぶのでいいですか。
編B 『泥の銃弾』には5人の人が満点の5をつけています。
北上 君は『泥の銃弾』派なのね(笑)。
評B いまはあざとい小説が多いですけど、『夫の骨』にはそのあざとさがない。
北上 君は『夫の骨』派ね(笑)。
評D ケレンに走ってないのはいいけれど、もう1作読みたいかと言われると、もういいかなと。
北上 君は何派?
評D『泥の銃弾』です!
編D その3作の中では『泥の銃弾』がいちばん穴が多い。
北上 君は何派?
編D 穴は多いんだけど、この熱を感じろ、と言いたい。
北上 おお、推すのは『泥の銃弾』なんだ。なんだか、『泥の銃弾』が優勢だなあ。よし、それでは2019年のオリジナル文庫大賞は、吉上亮『泥の銃弾』に決定します!