コラム / 高橋良平
ポケミス狩り その1
「ミッキー・スピレインの巻」
残りすべての作品の権利を取ったのが日本出版共同という会社で、[ミッキー・スピレーン選集]全5巻を"ポケミス"発刊の1か月後にスタートさせている。翌年4月には、〈オール讀物〉58年10月・11月号に分載(文春も参戦していたのだ!)された中篇を日本独自で単行本化、『私は狙われている』を加えて全6巻となった。書影のように、アチラのペーパーバックと同じく煽情的なセンを狙っている。
ところで、後年になって"ポケミス"は、日本出版共同の長篇5点の翻訳権を取り直し、改訳新版として出しはじめたのだが、なぜか3点で中絶。すくなくとも、ハマー・シリーズの『俺の拳銃は素早い』だけは出してほしかったのだが......。
スピレイン作品は、"ポケミス"から10点がハヤカワ・ミステリ文庫に再録されていたのだが、文庫目録からその名が消えて久しい。彼の死後、マックス・A・コリンズが補筆して出た長篇『Dead Street 』を読んでみたが、フロリダで引退生活を送る元NYPDの刑事が、古巣を訪ねたとたん、フィアンセが事故死した過去の事件の真相を追うことになり、それが国家を揺るがす極秘事件に絡まり......といった具合で、スピレイン節は相変わらず。復活を強く望むわけではないが、マイク・ハマーのNYはなぜかいつも雨降り──といった観点から、新しいスピレイン擁護論が書けそうな気もするが、柄じゃないよね。
蛇足的追記・日本出版共同はさらに、上製箱入の江戸川乱歩現代語訳[黒岩涙香探偵小説全集]全12巻を企画。全巻購読者には別巻の『無惨』を贈呈するという意欲的企画で、この全集に賛同した乱歩氏は奮迅努力、54年4月、涙香歿後33周年を機に涙香祭を催したりするが、その三越劇場での記念祭前日、日本出版共同の社長と編集長の谷井正澄氏(のち〈宝石〉編集長となる)から不渡手形を出したこと、つまり倒産を免れないことを知らされる。ことの顛末は、[江戸川乱歩全集](光文社文庫)29巻『探偵小説四十年(下)』に詳しい。
[資料篇]"ポケミス"刊行順リスト#1(奥付準拠)
1953(昭和28)年
09月05日(HPB 101)『大いなる殺人』M・スピレイン (清水俊二訳)
09月05日(HPB 106)『飾窓の女』J・H・ウォーリス (高狷介=福島正実訳)
09月10日(HPB 103)『黒衣の花嫁』C・ウールリッチ (黒沼健訳)
09月30日(HPB 102)『赤い収穫』D・ハメット (砧一郎訳)
09月30日(HPB 120)『矢の家』A・W・メースン (妹尾韶夫訳)
10月15日(HPB 111)『デミトリオスの棺』E・アンブラー(村崎敏郎訳)
10月15日(HPB 119)『深夜の十字路』G・シメノン (秘田余四郎訳)
11月05日(HPB 104)『ワイルダー一家の失踪』H・ブリーン(西田政治訳)
11月05日(HPB 105)『裁くのは俺だ』M・スピレイン (中田耕治訳)
11月20日(HPB 122)『鉄の門』M・ミラー (松本恵子訳)
11月25日(HPB 116)『恐怖の背景』E・アンブラー (平井イサク訳)
12月31日(HPB 107)『忘られぬ死』A・クリスティー (村上啓夫訳)