水を転がす方法～『世界を変えるデザイン』

　無限にふくらむ消費世界。きれいなものや珍しいものなど、富裕層にとって「ほしいもの」は次々と作られ、売られています。しかし、アメリカ統計局の調べによると、世界の全人口65億人の90％にあたる58億人は、生活に必要な基本的な製品を購入することができていないそうです。さらにその約半分近くは、食糧、きれいな水、雨風をしのぐ場所さえ満足に得られていません。

　この残り90％の人々の生活を向上させるために、デザインの力で何かできないだろうかと考えた人たちがいます。特別に魅力的というわけではなく、機能も限られていることが多く、価格は非常に安いけれども、そんなデザインが人間の生活を変え、時には命を救う力さえ秘めているものがあるのではないかと。

　たとえば、アフリカの地方部では何百万もの人々が、安全な水源から何キロも離れたところに住み、コレラ、赤痢など水の媒介する病気にかかっている事実があります。そんな人たちのために、もし、ドーナツ型の容器があればどうでしょうか。持ち上げて運ぶのではなく、筒型の容器に入れて水を転がすことができるようになります。これだと、子どもでも転がして楽に運ぶことができます。水運びの苦労を大幅に軽減するために「デザイン」が力を発揮します。

　世界にはそんな「ものづくり」に取り組む人々が大勢います。デザイナー、エンジニア、学生、研究者、建築家、社会起業家、そして現地の人々など。彼らはグローバルに連携しながら、世界中のすべての人が食料や水、住まい、保健衛生、エネルギー、教育、などを得られるようにする方法を生み出していきます。

　『世界を変えるデザイン』は、「本当に必要とされる仕事がしたい」「利用者の喜ぶ顔が見たい」という熱い思いを持ったクリエイターたちの、アイデアと良心から生まれたデザイン実例集。豊富な写真と示唆に富むエッセイを通じて、世界に残されたさまざまな問題のリアルな姿と、「デザイン」と「ものづくり」の大きな可能性が見えてきます。