米国でうずまくグーグル衰退論~『Ustreamと超テレビの時代』
- 『Ustreamと超テレビの時代 ~ユーザーライブ中継の威力~』
- 山崎 秀夫
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現在、インターネット上のマーケティングは、インターネットにシフトする大量の広告費を背景に機械的な情報検索を実施し、それにディスプレー広告をつけていくインターネット検索最大手グーグルが一人勝ちの様相を呈しています。
実際、グーグルが2010年1月に発表した第四四半期決算(2009年10~12月期決算)は、売上高が66億7,382万ドル(約6,000億円、前年同期比17%増)に達し、過去最高となりました。年間で約2兆3千億円以上を売り上げをあげており、しかもその9割が検索ビジネスによるものと言われています。
一方、米国などでは、グーグル衰退論(現在のグーグル検索ビジネスはピークを打ったという見方)が結構根強くあります。実際、売り上げ面ではグーグルの足元にも及ばないフェースブックが、クリスマスの一日だけトラフィック量で、グーグルを抜くといった事態が発生しました。この時はフェースブックが全トラフィックの7.56%、グーグルは7.54%でした。クリスマスの挨拶が多かったためです。これは、一時的な現象だと見られていましたが、フェースブックが集めるトラフィック量は確実に伸びており、米国においては2009年11月の月次の訪問者数でAOLを凌駕し、2010年1月にはYahoo!を抜いて第2位に躍り出ました。そして、3月半ばにおけるヒットワイズの1週間単位の統計では、フェースブックが遂にグーグルを抜いてトラフィック量のトップに躍り出ています。200億ドルを軽く越えるグーグルの売上高と比較すれば、まだ遥かに及びませんが、変化の激しいインターネット上では、見逃せない事象です。
このグーグル衰退論、読者のなかには「待てよ? クラウドコンピューティングというコンセプトはグーグルが作り出したものじゃないのか? それなのになぜ当事者のグーグルが衰退するんだ? おかしいじゃないか」と腑に落ちない方もいるでしょう。
グーグル衰退論の主張はいたってシンプルです。グーグルの情報検索モデルは論理的、数学的に情報を分類し、提供するという「デカルト」に代表される近代哲学の世界観です。これは数学的に高度かもしれませんが、ある意味では単純なアプローチです。しかし、世の中にはポストモダンや「社会構築主義」と呼ばれる別の哲学、別のアプローチ方法があります。社会構築主義とは、必要な情報や知識は、コミュニティ、すなわち人の交流から生まれるといった考え方として知られています。世界は人々の相互主観で動いていくという発想です。これは「ソーシャルサーチ」とか「ソーシャルフィルタリング」と呼ばれる情報、知識の獲得手法を支える哲学です。
フェースブックやツイッターなど、ソーシャルメディアの価値は、機械ではなく人が価値ある情報や知識を紡ぐという「ソーシャルサーチ」とか「ソーシャルフィルタリング」にあります。このアプローチの効果は、参加者の数や人脈の数によって測定されます。そしてそれには「ネットワーク効果※」と呼ばれる重要な価値があります。
わかりやすく言うと、ソーシャルテレビを視聴中の多くの人々のつぶやきは、オープンなツイッターやプライベートなフェースブックから仲間を引き寄せる作用をします。これがソーシャル視聴をしている最中に視聴者数が膨れ上がる秘密です。そしてこれがネットワーク効果の価値であり、クラウド(ネットコミュニティ)の価値というわけです。
しかし、ソーシャルメディアは、具体的なマーケティングアプローチ方法の確立が難しく、また明確なマーケティング手法が確立していないため、長い間グーグルのディスプレー広告などと比較して、広告やマーケティングには不向きなモデルと言われてきました。ところがフェースブックがファンを増やすためのエンゲージメント広告手法を確立するなど、最近、徐々にビジネス上の効果的なアプローチ手法が整備されてきました。このあたりの見方が、次第にグーグルがピークを迎えるとともにクラウド(フェースブックやツイッターなど)上のソーシャルメディアが、いずれそれに取って替わるという主張の根拠になっています。
私たちが思っている以上にはやく、「一人勝ち」の形が崩れる日がくるのかもしれません。
※ネットワーク効果:近代経済学でいう「ネットワーク外部性」のこと。電話など加入者が多いほど、全体の効用が増す経済効果を指す。