なぜIT用語はむずかしい?~『最近どうもついていけないという人のためのIT入門』
- 『最近どうもついていけないという人のためのIT入門 (マイコミ新書)』
- 牧野 武文
- 毎日コミュニケーションズ
- 819円(税込)
- >> Amazon.co.jp
- >> HonyaClub.com
- >> エルパカBOOKS
IT用語はむずかしい。よくわからない。覚えたときにはもう古い言葉になっていて、新しい言葉がいくつも登場している。IT用語にはそういった印象が付き物です。
なぜIT用語はむずかしいのでしょうか?
たとえば「ユビキタス」。
この言葉を生み出したのは、マーク・ワイザーというIT研究者でした。彼は人々がいつも機器の中に入り込み、バーチャルな世界に没頭している姿を不健全だと感じ、「社会の中にコンピューターをたくさん用意することで、人がコンピューターを持ち歩かなくてもよい世界」を提唱しました。これにユビキタス(神はいたるところに存在するという意味のラテン語をもとにする英語)という名前をつけたのです。
ユビキタスのもっともすぐれた例は自動改札やETCです。人が手にするのはICカードだけで、社会側に用意されたコンピューターがすべての処理を行ってくれます。ワイザーはバーチャルな世界に没頭する人に「現実世界に戻ろう!」と訴え、携帯電話や電子手帳を閉じて、まわりにある美しい自然に目を向けるべきだと主張しました。
ところが、デジタル機器をたくさん売りたい業界の人が、このユビキタスという言葉を誤って使いはじめました。「携帯電話、電子手帳、ノートPC、たくさんのデジタル機器をいくつも持ち歩いて、バンバン使うのがユビキタスだ」と訴えはじめたのです。そうアピールすれば、いくつもの商品を買ってくれるだろうと考えたわけです。
ある学者が、ユビキタスという言葉はわかりづらいので「どこでもコンピューティング」という言い方にしてはどうかと提唱したことがありますが、業界の頭のよい人はそれを拒否しました。ちょっと難しい名前のほうが注目されますし、それが流行だと思い込んで必要のないデジタル機器を買ってしまう人がたくさん出てきてくれるからだそうです。
こうした事情があるため、IT用語を説明するには、長い前提が必要になってしまいます。それを聞かされるほうは、退屈してしまう上に、結局なんのことだかよくわからないという結果になってしまうのです。