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第3回:藤田 宜永さん (ふじた・よしなが)

「WEB本の雑誌」の自称注目コーナー「作家の読書道」第三回目に登場するのは、奥様の小池真理子さんとともに軽井沢生活を満喫されている藤田宜永さん。我々「WEB本の雑誌」編集部はいざ軽井沢へ。 高校時代の本との出会いから、フランス留学時代のこと。4トントラック二台分の本を携えて引っ越された軽井沢での執筆生活について伺ってきました。

(プロフィール)
1950年福井市生まれ。早大中退後、
1973年パリに渡り、エールフランスに勤務。
1880年帰国。86年「野望のラビリンス」が処女作。
1995年「鉄鋼の騎士」で第48回日本推理作家協会賞受賞。同年「巴里からの遺言」で日本冒険小説協会最優秀短編賞受賞。その後「樹下の想い」で恋愛小説に新境地を拓き、
1999年「求愛」で第6回島清恋愛文学賞受賞。著書多数。近著に「はなかげ」(集英社)「虜」(新潮社)「艶紅〜ひかりべに」(文藝春秋)など。

【本のお話、はじまりはじまり】

JR軽井沢駅前にある茜屋珈琲店にてお話を伺いました

―― いかがですか、軽井沢住まいは?

藤田 : 軽井沢にいるときは、スウエットパンツはいて、家から一歩もでないことがほとんど。東京に行くと、飲み歩く・朝帰り(笑)。東京はなんだかんだ言って、三週間に一回ぐらい出る。こういう仕事だから軽井沢にいると、ずっと単調に原稿書いてまた寝て、原稿書いての繰り返しで、それを22〜23日もやっていると、さすがにイヤになってくるんだよね(笑)。それまでの仕事を全部やっちゃって東京ではなるべくゲラもみたくない。海外旅行に行く感覚に近いかなあ? 着いた日は嬉しくてしょうがないんだ。

―― 90年から軽井沢に住まれたとのことですが、軽井沢に拠点を移されたのは?

藤田 : まさに、本のせいで軽井沢に移っただよね。4トントラック二台分を運んだんだ。その頃、1LDKにかみさんと2人で住んでいたんだけど、元々本持ちの2人が、一緒になって、そこに六年いたのよ。そのうち、どんどん増えて置き場所がない。引っ越そうという話になったんだけど、バブルはじける前でさ。広尾でちゃんとした3LDKなんて、月の家賃が120万円だったり。ハナブサリュウっていうカメラマンがいて、リュウちゃんの紹介でこっちの土地買ってあったのね。東京郊外に引っ越すんだったら、じゃ、ここに家建てちゃえ!って。

―― 今はどのように保管されているんですか?

藤田 : 軽井沢に家が二軒あるんだけど、それでもすごいよ。両方の家の書庫も一杯。地下にジャンル別に置いている。一万冊以上あるでしょう。小さな図書館みたいなものでさ、風俗系もあれば哲学書もあるわけですよ。植物の本でも10冊ぐらいあって。ボクは、分類するの大好きで、きちんとしたいんだけど、場所がない。昔はちゃんと、ジャンル分けしていたのよ。この辺行くと、日本史コーナーとか。今でも分けるようにしているけど、そろそろ限界かな。本は捨てないようにしているけど、今年は少し考えようって言っているのよ。図書館に寄贈しようかな?って思っている。

―― 本好きはいつぐらいから?

藤田 : よく本を読むようになったのは高校1年ぐらいからかな。1年生の時の隣が図書館でさ。全国でも冊数の多い図書館だったわけ。で、福井から出てきて、東京の高校入ったら、みんなマセていて。同級生が「大江健三郎、読んだ?」でしょ? カルチャーショックだったな。オレ、志賀直哉しか読んでねえやって、焦って。いろいろ読みましたよ。

―― 読書の傾向は?

藤田 : 本に関してオタッキーなところはないね。小説という一つのジャンルの中でなんでも。乱読してきたから。チャンドラーもランボーも吉行淳之介も。でも、最近は随分減りましたね。連載いろいろかかえていたから、ほとんど資料本を読んでいる。不健康な読書になっちゃうんですよ。読書が好きで小説を書き出したくせに、自分の好きな本を読むことがままならなくなって。今年の年末はこの数年間で一番ラクだったから、いろいろ読めたけど。最近は、新しい本より昔の本を繰り返し読むことが多い。

―― というのは?

藤田 : 今、隔月連載で私小説書いているんですよ。グレたことはないけど、高校から同棲したりしてたのね。福井からでてきて1人で住んで。滅茶苦茶だったんだよね。本読んで、ゴーゴークラブ行って、演劇部もやって。演劇部では、ベケットやったり、エドワルド・オルビーやったり。だから、この間、オルビーも読み返した。坂口安吾の「白痴」も読んだよ。昔読んでいたのと、自分が書き手になって読むのは、全然違うね。文章荒いけど、これが力なんだな〜とか思ったり。三島も川端も吉行も読み直したし、ヘンリー・ミラーの「北回帰線」も読んだな。これは一番好きな本かも?10代の頃はあーいーう本を書きたいと思っていてね。挫折しまして(笑)。で、エンターティメントにきたというか(笑)。

【立ち寄る本屋】

―― 本はどうやって探されるんですか?

平安堂軽井沢店が藤田さんの御用達

藤田 : わりと丹念に、本屋に行く。軽井沢にいる時は平安堂が多いね、一般的に揃っているから。でも、基本的には、東京に行った時に大書店を回る。いろんな本屋を1軒2時間ぐらいかけて回るのよ。小説とか社会学系とか資料本探さなきゃとか、オレの本売れているのかとか、美術系とか、あちこち回る。昔から大御所の書店を回って、気になったものを見て何冊か買ってって、感じだな。例えば、渋谷に行くと、衣服を買うのと一緒に本屋、回るのね。学生と一緒だな、行動が(笑)。昼間は、本屋と服とCD買って、この3つしかしてないんだな。夜だけおじさんになって銀座のクラブ行くけどさ(笑)。

―― 目的の本があって、本屋に行かれる?

藤田 : いや、本も巡り会いだと思っているんだ。大書店を回っていると、巡り会えるんだよね。本って、置き場所によっては、たまたま目にとまらない場合もあるわけですよ。八重洲ブックセンターでは目に留まらなくて、大盛堂では目に留まるとかね。だから時間があればブラブラと本屋に行きますね。

―― どちらの本屋さんに行かれるんですか?

藤田 : 行くエリアに寄って違うんだけど、新宿に行けば紀伊國屋ね。それも本店ね。オレ、高校、早大学院だったからさ。今は中高年のメッカだって。南店は若い子が多いんだよね。渋谷に出るときは、紀伊國屋、大盛堂、パルコブックセンター、旭屋。この4つ。たまに、ブックファースト。銀座は、旭屋、福家。

―― 一番よく行かれる本屋さんは?

藤田 : 八重洲ブックセンターかな? 新幹線で行き来しているから、帰る二時間ぐらい前に、荷物をロッカーに入れて、八重洲ブックセンターに行く。ブラブラ見て、気になった本を5〜6冊買って、送ってもらって、手ぶらで戻る。翌日にはもう家に本が到着。15000円ぐらい買うと、郵送料もただだし。でも、サイン会やってから行きにくくなったなあ。昔は誰も見てないと思ったけど、照れくさいんだよね。

―― 本はジャケ買いですか?

平安堂軽井沢店の店内には軽井沢在住の作家のコーナーがあります。その前で。

藤田 : 表紙見て、中をパラパラ読んで、琴線にふれるような感じだと、どうせそんなにたくさん読めないなと思いながらも買っちゃうんだよね。一回五冊買っても、読む時間ないし、でも、なくなるとなんだから買っておこうかなって。知られていない出版社の本は買うかな(笑)。絶版も早いし、本屋も置かないしね。

―― 本代は、どれくらい?

藤田 : かみさんと2人で年間100万円ぐらいかなあ。資料本とかも含めてだけど。

【最近買った本】(2001年1月)

「プラトニック・セックス」

飯島愛【小学館】

飯島愛さんの本はワイドショーで見てちょっと読んでみたいと思って。この本は大好き。タレントの告白本を読んだのは初めて。今の17歳に通じるような心の傷を感じられた。オレも高校時代に女と同棲したり、無茶苦茶やったけど、オレの女版みたいだからカンゲキ!でも全然飯島さんのほうが凄いけど。家庭環境がよく似ているのね。家がめちゃめちゃ貧乏で暴れましたというのじゃないじゃない?両親の愛情に恵まれなかった中産階級の女のコがグレていく話。子供の頃は勉強ができて、さ。で、セックスやることで、埋めていこうとする。でも、埋まんないんだよ、セックスでは、オレもやったけど。癒しようがない。好きになるとめろめろじゃない?走るときは走って、気に入らない男には冷たい感じ。このバランスの悪さは子供のころに愛情をもらえなかった、心の底の傷。治らないんですよ。高校の頃に同棲するなんていうのは、ほとんど家庭環境に原因あり。心理学者もそう言っている。じゃなきゃ、同棲まで走る必要ないよ。


ブッカー賞受賞

「恥辱」

J・M・クッツェー【早川書房】

「恥辱」は帯のキャッチコピーにひかれてね。52歳の主人公の恋愛もの。大学の先生が学生に手を出す話で。中年のなんとかにひっかかるんですよ。オレも50歳だし、気になったんだよね。自分にだぶらせるというか。最近は若い人向けの恋愛ものは多いけど、中年男が主人公の恋物語は少なくてね。特に日本の男性作家が書いたものはすごく少ないでしょう。


「叶えられない祈り」

トルーマン・カポーティ【新潮社】

カポーティの遺作。カポーティも凄いね。本人のイビツさというか、壊れちゃっているから。10代で軽く春を売っちゃうんですよ。

【自慢の本たち】

オレの原点は、吉行淳之介の小説。彼の本を読んで小説書きたいなと思ったのよ。ロマンブックで読んだのが一等最初。懐かしいなあ。この本の目次に書き込みがあるんだけど、高校時代に同棲した女が書いたのよ。オレが早大学院で、彼女は跡見女子大学で。オレが吉行、好きだったから、彼女卒論、吉行にしたのよ。

「テレビジョンエイジ」は中学生の時に定期購読していたんだ。10数年前に神田の古本屋でみつけて数冊買いましたね。ここにもエンターティメントを書いている理由があるかも。

「ユリイカ創刊号」と「現代詩手帳」はちょうど20歳の頃に買ったもの。今になって読み返すこともないし、内容も忘れているけど、青春の思い出の一つというか。高校の頃に演劇をやっていたことの延長ということもあるし、そういう文化がムーブメントになった時代だったんですよ。今では古い言葉だけど、その頃は「前衛」というのが新しくて、こういう物語性がないものも読んでましたね。

『寝台の舟』
吉行淳之介
【ロマンブックス】
『「テレビジョンエイジ」』
【四季出版新社】
昭和40年 180円
「ユリイカ」創刊号
「現代詩手帳」

(2001年1月更新)

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