WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道>第6回:金城 一紀さん
大人気の「作家の読書道」第6回目に登場するのは「GO」で直木賞を受賞され、10月には映画「GO」が公開される金城一紀さん。 本の話を飛び越えて、インタビューは映画や音楽にまで広がり、盛り上がりました。
(プロフィール)
68年生まれのデサライガード。
中学まで民族学校に通い、高校から日本の学校へ。
2浪を経て、慶應義塾大学法学部へ。
大学1年生の時に、親友が亡くなったことがきっかけで「急にボンって、小説家になろう」と決意。ちなみに、それまでは、プロボクサーかプロゴルファーを目指していた。
大学在学時代からの乱読の日々、8年間を経て、98年「レヴォリューションNo.3」で、小説現代新人賞を受賞。00年に「GO」で第123回直木賞を受賞。
―― いつくらいから読書を?
金城 : 小学校4年生ぐらいから図書館通いを始めまして。私立の民族学校に行っていて、地元に帰ると友達がいなかったんですよ。それに、家がすごく狭くて、逃げ場所が欲しかったんですよね。児童館とか嫌いだったんです、バカにされているカンジがして。で、いきなり大人のほうにいっちゃった。 昔、探偵になりたかったからミステリーばっかり読んでましたよ。アガサ・クリスティとか、コナン・ドイルとかから入って、全部読んで、一通り終わった時から日本のモノに入って、赤川次郎、西村京太郎、松本清張さんとか。漫画も大好きでした。「サスケ」とかね。元々マンガは大好きで、小学校3年生のときにブラックジャックを読んで、それからずっと読んでいますね。
中学生ぐらいからは、ミステリーとか、ハードボイルドとか、渡辺淳一さんの「光と影」とか。とにかく棚を回って、目についたもの、読めそうだなと思うものを手当たり次第に読んでました。父親は思想書とか読んでいたけど、周りに本について教えてくれる人は誰もいなかったから、ほとんど勘。民族学校では隠れて読んでましたね、日本語の本を持っていったら怒られるから。
高校生からは小説をあまり読まず、思想書の類とかに行きました。国籍を変えて、環境が激変したので、アイデンティテイが揺らいだことがあって、理論武装しなきゃって。難しい本に走って。本多勝一さんとか、わかんないのに、ショーペンハウエルとかニーチェとか読んでいた。サリンジャーとか純文学系というか、世界で評価を得ている、エンターテインメントとか「華麗なるギャッツビー」とか、そういうのも読んでいましたね。
実は、大学1年の時に作家になろうと決めてまして。なので、自分でノルマを決めて、1日2,3冊は読んでいましたね。作家になるまでに計画的にたくさん吸収してデビューしようと思っていたんですよ。自分の中で、「今までに書かれたことのないものを書きたい」っていう欲求があったんで、何が書かれているか確認しておきたかった。だから、大学入ってから小説書くまで8年間ぐらいあったんですけど、もう、夥しい数のものを、手当り次第に読みました。ジャンルは問わずにね。でも、「全部書かれてるよ。新しいものを書くには、自分で文字を発明して書くしかないな」って思うぐらい、ある意味、絶望もしたんですよ。それで、日本文学にないものって思って、じゃあ在日文学でって思って、「GO」を書くことになったんです。
―― 最近は、どんな本を買われますか?
金城 : 小説は悲しいくらいに、読まなくなって、ノンフィクションばかり買います。プロとしてデビューしたあとから小説を読むと、「ボクならこう書くのになあとか、この文章こうじゃないだろう」って、没頭できなくなってしまって。昔はワクワクしたのに、悔しいんですよね。映画もそう。相当面白い小説か、相当面白い映画でないと、没頭できなくなっちゃって。分析的に見ちゃう。
最近の中では、いいところに目をつけるなあ、やられたなあって思ったのが、「ニッポニアニッポン」。少し前なら、藤野千野さんの「夏の約束」。あれは感動しました。登場人物たちが全然ヒネくれてなくて。ボクが書きたいものに通じるものがあった。ちっともイジけてなくて、素直に状況を受け入れて、どうにか折り合っていこうってところが凄く好きでした。あとは、「宇宙生命の誕生」とかのNHKの本とか。でも、基本は、自分が書きたいものに関する資料本ばっかり。最近は国家のことを考え直そうと思っていて。難しいんですけど。
―― 本は本屋さんで探される?
金城 : 本屋はすげ〜行きますよ。池袋はジュンク堂、リブロ、東武の旭屋。池袋は家から近いし、大きい書店なら資料本もだいたいみつかるから。神保町は三省堂、東京堂。古本屋めぐりも好きで、行くと回遊魚のマグロみたいに神保町をグルグルグルグル回ってます(笑)。
ボクは小説を書く時、まずは書かずに頭の中で映像化して、それが終わってから書き始めるんです。家の中で考えるのが嫌いで、物語というか筋を考えるときは、ずーっと外を歩いていますね。その物語で使おうと思っているBGMをウォークマンで聞きながら、シーンを思い浮かべながら歩くんです。だいたい、考えながら歩いていて、「この資料が必要だ」って思って本屋に入るんですよ。それから、店内をまたグルグルと…。
あと、ボクは装丁が凄く気になるんで。装丁をチェックしながら、本屋の中を歩いているうちに、なんだろうこれ? って、手に取ることもあります。長年、本読んでいると、大体わかるでしょ? 面白いか、面白くないか、一発でわかる。大体全部のコーナー回ります。人文科学、自然科学、小説は新刊がでているかどうか、装丁をチェックしながらね。
結局、毎日どこかの本屋に行ってますね。マンガのコーナーも行くし。マンガは、一日1冊必ず読んでますね。凄い好きな作家は、今度装丁をやってもらうことになった、加藤伸吉さん。「バカとゴッホ」は感動して、ボロボロ泣きました。
あとは、鴨居まさねさんの「雲の上のキスケさん」とか好きですね。ガンダムの安彦さんの「蚤の王」も良かったですよ。マンガも、家に3000〜4000以上あるんじゃないかな。そうそう、「GO」のマンガも9月25日からヤングチャンピオンで始まったんです。
―― 本はどうされているんですか?
金城 : 本は捨てないんですよ。だから部屋の床面積の8割ぐらいが本で埋まっています。部屋を見れば、その人の脳の状態がわかるって言いますけど、小説とマンガとCDとタイソンのポスターが張ってあって、「最悪だな、オレ。終わっているよ」ってカンジ(笑)。前に、地震があった時に、どーっと崩れてきて、「これで死にたくない」って思いました(笑)。胸の辺りの高さまで積んでいて、部屋に人が来たら、引くと思います。でも、絶版文庫の山、お宝の山。SFだけで300冊以上。ずっと貧乏だったから文庫本しか買えなくて。文庫本ばっかり、悪党パーカーシリーズとか全部ありますよ。引っ越したら、読書ルーム作って、マンガ喫茶みたいなこともやりたいですね(笑)。
読み方は、ベッドに寝転がって、うつぶせで。座って読めないんですよ、机に向かってとかダメ。最近は、資料本とか、自然科学の本なんかは付箋貼るようになりましたけど、基本的には、どこにどんな文章があったかすぐ、覚えちゃうんですよね。
―― 本代はいくらぐらいですか?
金城 : マンガや資料本入れたら、月に10万円以上かなあ。経費で落ちるようになってから、すげ〜買うようになったんですよ。昔は1冊の単行本買うのに、3日間とか悩んで、古本屋行って探して、ないから仕方なく買うってカンジだった。貧乏で文庫ばっかり買っていたから、今は幸せです。
ボク、趣味がないんですよ。車も興味もないし、腕時計もここ15、16年はめたことない。お金がかかる趣味がないから、全部、本やCDやDVDとかに消えます。
―― 本に関して情報交換とかはされないんですか?
金城 : しないですね。たまに新聞の書評欄を読むぐらいですね。
詩集も昔から好きで、すごい読んで、一人で泣いたりします(笑)。青森の女子高校生の短歌集は、本屋で読んですげーなって思いました。この感性には追いつけないなって、ショックだったな。少女漫画とかも、この感性にはかなわねえなあって思う。
―― 映画と音楽も、すごくお詳しいですよね?
金城 : ボク自身がオタクなんですよ。映画のビデオも1000本以上あるし、CDも4000枚〜5000枚ぐらいある。小説家じゃなかったら絶対危なかったでしょうね。担当編集者も認めるぐらい、誇大妄想家ですし(笑)。
「GO」と一緒で、映画も子供の頃から大好きです。学校嫌いで、母親が映画好きで、近所に映画館があって。山口百恵と三浦友和のシリーズとか全部見てますよ。音楽も子供の頃から映画音楽とか聴いていて。ゴッドファーザーのテーマを聴いて感動したりする、ヤな子供でした。
邦楽は全然聞かなかった。紅白も「ベスト10」も見たことなかったし。ロックに行ったのは、小学校4年生ぐらいの時にサイモン&ガーファンクルの「アメリカ」という曲を貸しレコード屋で借りたんです。詩を見ながら聞いて、「これはオレのテーマ曲だ」って思って、ボロボロ泣けてきた。そこからビートルズに行って、そこからストーンズに行って。音楽もノージャンル。ロックもジャズもオペラもなんでも聴きます。
―― 映画の『GO』はいかがですか?
金城 : ムカつきますけど、気にいってます(笑)。ボクの予定では、「やっぱり原作のほうがいいよね」って言われるはずだったんですけど。山崎さんとか最高ですよ。横顔全部違いますから、確認してくださいよ。還暦越えて、動けるし。
―― 10月1日に待望の新作が出るそうですが。
金城 : デビュー作の「レヴォリューションNO.3」が収まった短編集なんですが、「GO」より面白かったという人がいて(笑)。ボクは社会派のつもりなんですけど、アホアホな高校生が登場するシリーズです。
―― 自慢の本を教えてください。
手塚治虫(秋田書店)
「近所にマンガ好きのお兄ちゃんがいて、たまたま仲良くなって、初めに勧められたのがブラックジャック。小学校3年生の時かな。あまりに良くて買いなおしたのが、コレ。物語の魅力にとりつかれたきっかけの一冊。いまだに読み返します。何度読んでも泣けるんですよね」
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ジェイムズ・M・ケイン(講談社)
「図書館でアガサ・クリスティを読んでいたら、クの書棚が全部終わっちゃって、次がケだったんですよ。それでケインに出会った。『ヘンなタイトル。マンガみたい』って思って、開いたら平仮名がばっかりで、これなら読めるなあって思って。小学生だったんですが、よくわかってないのに感動して、ハードボイルドを読むようになったんです。これも、いまだに読み返します。いつかこういう話書きたいですね。すっごいいい話だから」
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「思想書を読むようになった高校1年の頃、小説に引き戻してくれたのが、この3冊。これ読んで、絶対ロクデナシになってやる!って思った(笑い)。思想書読んで右とか左とかわからなくなっちゃって。久しぶりに小説読もうかなって思っていた頃、たまたま出会ったんです。マイノリティだったこともあって、無頼に生きなくては!って思っていて」
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「小説現代の新人賞取ったときに、記念に何か買おうと思って、1週間ぐらい悩んで、サンシャイン60から飛び降りる気持ちで買ったもの(笑)。オーデンも好きで、何かの噂でこのバージョンが一番いい、この訳が決定版と聞いていて探していたんですね。古本屋でみつけて、当時のボクにしてみれば、すごい高かったんです。5000円もしたんですよ(笑)。『見る前に跳べ』という詩が好きでして。一番自慢の本ですね。
(2001年9月更新)
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