第121回:恒川光太郎さん

作家の読書道 第121回:恒川光太郎さん

独特の幻想的・民話的な世界観の中で、豊かなイマジネーションを広げていく作風が魅力の恒川光太郎さん。新作『金色の獣、彼方に向かう』もダークファンタジーの味わいと神話的な厳かな空気の混じった連作集。その読書歴はというと、やはりSFやファンタジーもお好きだった模様。沖縄移住の話やデビューの話なども絡めておうかがいしました。

その3「ある日再び小説を書きたくなる」 (3/4)

グロテスク
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桐野 夏生
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――読む本はどうやって選んでいたのですか。

恒川:書店をうろうろしては見つけていました。図書館に行って面白そうな本があったら借りることもありました。体系的に何かを追うということはなく、その時面白そうだなと思うものを読むということを30年間続けている感じです。19歳くらいからは、あまりにたくさん言及されているものは読んでおくようになりました。

――読書記録をつけることはなかったのですか。

恒川:続かないタイプです。日記もつけられない。学生時代に一時期日記をつけていましたが、自分の人生がいかにクソかということを5行くらい書く、というのを毎日繰り返していましたね。文章にもなっていない内容でした。

――大学を卒業してからはどうされていたのですか。

恒川:フラフラしていました。お金がたまったら遊んでいました。本も読んでいましたよ。学生時代と学生以後の読書傾向が変わったかどうかは分からないのですが、思いついたものを思いついたままに読んでいました。なんとなく松本清張を読んだり、なんとなく車谷長吉を読んだり。桐野夏生さんの『グロテスク』を読んだのも大人になってからですね。すごく面白かった。

――沖縄に移住したのはいくつの頃だったのでしょう。

恒川:29歳くらいの頃だったと思います。それまでは主に神奈川県にいたんですが、ある時、沖縄に遊びに行ったらいい場所だなあ、こっちに来たら休日は海で遊んでいられるなと思ったんです。東京に住んでいたぶん自然への憧れが強くて、海に生き物がいっぱいいるのを見せられるともう、そこに住むしかないと思ってしまったんですね。移住に関する本を読んでいるとよく「沖縄の海がきれいというだけで越してくる移住者がよくいるけれど絶対に失敗する」と書いてあって、それをフーンと読みながら(笑)。沖縄はクワガタも他の虫もたくさんいますね。かたつむりも形が違って、巻貝の形になっていて。

――移住したのはデビュー前ですよね。小説はいつから書き始めたのですか。

恒川:大学生時代にたくさん本を読んでいるうちに非常に小説を書きたくなって、書いてはいたんです。今書いているものの原型みたいな、SFやホラーやファンタジーっぽいものです。でも応募はしませんでした。それ以降は忙しくて書いていなかったんです。でも、沖縄で塾の先生をしている頃、急にまた書きたくなって。それで書いたのが「夜市」でした。

――それが2005年に日本ホラー小説大賞を受賞したわけですね。そこからすぐに専業作家になられたのですか。

恒川:ちょうど塾もやめようかなと思っていたのでやめました。せっかく賞をとったんだから小説を書きたいなと思って。なんとなく思うんですけれど、小説を書きたい人は作家になるんです。作家になりたい人はならない。単に作家になりたいという動機だけで書きたいものもないのにプロットやキャラクターの作り方を研究して書いている人は難しいと思う。天才ならそれでもいけるかもしれないけれど、書きたくて書いているわけじゃないから、熱意のないものができちゃうんじゃないかなと思います。

――恒川さんは、書かずにはいられなかった。

恒川:妄想の世界で生きているようなものですから。でもその時その時で一生懸命考えてはいます。

――作家になってからの読書生活は変化がありましたか。

恒川:編集さんが送ってくれる本を読んだりするようになりました。でも読書量は減りましたね。仕事をしないといけないので、本を読む時間が減ってしまって。資料は別です。今は江戸時代のものを書いているので、年表や昔の風俗の事典や当時の地図を見ています。

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