作家の読書道 第133回:加藤千恵さん
高校生の頃に歌人としてデビュー、最近では瑞々しい筆致で描きだす恋愛小説でも人気を博している加藤千恵さん。北海道で生まれ育った少女が短歌と出会ったきっかけは、そしてデビューするきっかけは? あの甘く切ないシーンを繊細に切り取る感性の源泉にあるものは? 納得の読書遍歴が浮かびあがります。
その3「高校生で歌人デビュー」 (3/5)
- 『てのりくじら―枡野浩一短歌集〈1〉 (枡野浩一短歌集 1)』
- 枡野 浩一
- 実業之日本社
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- 『ハッピー・アイスクリーム (集英社文庫)』
- 加藤 千恵
- 集英社
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- 『おしかくさま』
- 谷川 直子
- 河出書房新社
- 1,296円(税込)
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- 『西瓜糖の日々 (河出文庫)』
- リチャード ブローティガン
- 河出書房新社
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――短歌を知ったのはいつ頃なのですか。
加藤:中学の終わりくらいに枡野浩一さんの短歌に出会ったんです。それで人生が変わりました。枡野さんのデビュー短歌集の『てのりくじら』と『ドレミふぁんくしょん』が書店で平積みされていて、おかざき真里(オカザキマリ)さんの表紙イラストが可愛いなと思って読んでみたんです。それまでも授業で短歌を作ったことはありましたが、古文でないといけないと思って語尾も「~たり」にしていたんです。でも枡野さんの短歌で普通の言葉で作っていいと知って、それで面白さに目覚めました。そこから高校時代は穂村弘さんや林あまりさん、俵万智さん、東直子さんといった現代語で書かれている方を中心に読んでいきました。
――加藤さんは高校時代に歌人としてデビューするわけですが、その経緯を教えてください。
加藤:ネットで枡野さんのホームページを見つけて、当時は掲示板があったので書き込んで、枡野さんと交流できるようになったんです。そこに短歌をお送りしたりもしたし、枡野さんが出演している番組の短歌募集に応募もしました。そうしているうちに枡野さんが面白がってくださって、私の知らないところで出版社に売り込んでくださっていたんです。ある日出版社の方から「本を出したい」と連絡があって、最初はまったく意味が分かりませんでした。でも、その話ってなんか恥ずかしいんですよね。親戚のお姉さんが自分の知らないところでオーディションに応募していたって言うタレントさんみたいで(笑)。でも自分は、プロになりたいとかそういうことはまったく思っていなくって、本当にただ好きなものを書いていただけだったんです。
――そうして2001年に『ハッピーアイスクリーム』という初の歌集を出すことに。歌はたくさん書き溜めてあったんですか。
加藤:高3の17歳の時に出しました。歌は結構作ってあったんです。それに、当時は一晩で50首くらいできたんですよ。
――え!
加藤:今になってみると、なんでそんなに作ることができたのかまったく分かりません(笑)。いっぱい書いて、いっぱいボツにして、という感じでした。
――そこから生活や自分の意識が変わったことはなかったんですか。
加藤:本当に普通でした。仲のいい友達も何も変わらなかったし、普通にバイトもしていましたし。たまに他のクラスや別の学年の人が教室に見に来ることはありましたけれど。その時もまだ、将来はコピーライターになりたいと思っていたんです。それより目先のことでいっぱいでしたね。東京の大学に行きたいのに、成績があまりよくなくて、それで焦っていました(笑)。
――高校時代に読んだ小説は。
加藤:高橋源一郎さんが好きになって、小説もエッセイも読みました。その流れで昔奥様だった高橋直子さんの『お洋服はうれしい』なども読んで、それもすごく好きで。昨年谷川直子さんとして『おしかくさま』で文藝賞を受賞されましたよね。お会いした時に思わずサインをいただいてしまいました。あとは江國さんが好きだったので、書評に書かれていたブローティガンの『西瓜糖の日々』などを読んだり、作中で詩を使われている尾形亀之助さんにハマったり。村上春樹さんが訳しているということでレイモンド・カーヴァーも読みました。好きな方から派生していく読書が多かったかもしれません。あと川上弘美さんを読み始めたのも高校生の頃です。