作家の読書道 第144回:酒井順子さん
高校生の頃からエッセイストとして活躍、女性の生き方から鉄道の旅についてまで、さまざまな切り口とユーモアのある文章で読者を楽しませてくれる酒井順子さん。最近では歌手生活40周年を迎えたあの人気アーティストが女性の生き方に影響を与えた『ユーミンの罪』が話題に。そんな酒井さんが好んで読む本とその読み方とは?
その5「新作は『ユーミンの罪』」 (5/5)
- 『ユーミンの罪 (講談社現代新書)』
- 酒井 順子
- 講談社
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- 『ひこうき雲』
- EMI Records Japan
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- 『DAWN PURPLE』
- EMI Records Japan
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――さて、新作の『ユーミンの罪』は、松任谷由実さんのデビューアルバム『ひこうき雲』からバブルが崩壊する時期の『DAWN PURPLE』まで、彼女の曲が世の中に与えた影響について検証する一冊。歌詞世界がその時々の世相と密接に関連していたことに気づいて驚きました。
酒井:実際に『DAWN PURPLE』まではよくユーミンを聴いていたんです。音楽に詳しいわけではないんですが、日本人のアーティストのなかではいちばん好きだったかも。最近になって久しぶりに聴いてみた時、あまりにも懐かしさとともに青春が戻ってくる感じがして、泣きそうになったくらいでした。中年になると昔を懐かしみたい気持ちが盛り上がるんですよね。それで聴いているうちに、これは書けるんじゃないかと思いました。
――ユーミンは「湿度を抜く」のがうまいという指摘など、ああ、なるほど、と膝を打つ箇所がたくさんありました。
酒井:当時は聴きながらそんなことを考えていたわけではないのですが。なぜ自分が中島みゆきではなくユーミンが好きだったのかというと、中島みゆきは湿度をプラスしていくけれど、私はユーミンの湿度を抜いたカリッとした歯触りのほうが聴いていて気持ちよかったんですよね。今聴いて、改めてそう思いました。
――ユーミンの歌が、負け犬女性をたくさん生み出すことになったという指摘もなるほどな、と。
酒井:聴き返して、ユーミンはこんなにたくさん負け犬ソングを歌っていたんだって思いました。自分がこうなったのはユーミンのせいじゃん、って(笑)。
――だからタイトルが『ユーミンの罪』(笑)。それにしても、なんとなく聴いている歌の歌詞にも、気づかない部分で影響を受けるものなんですね。
酒井:やっぱりユーミンは40年間歌い続けておられる方ですから。しかもあの頃のユーミンのアルバムは時代の御託宣みたいなところがあって、冬になるとみんながユーミンのアルバムを楽しみにして、「今年はこういうテーマなんだ、格好いいわ」と言い合ったものです。積極的に聴こうと思わなくても、テレビからも流れているし町でも流れているしで、染み込んでいったんですよね。睡眠学習みたいなところがあったと思います。
――現在『ユーミンの罪』は好調で刷も重ねていますね。40~50代の女性読者が多いのかと思ったら、3分の2が大人の男性なのだとか。まあ、新書は最初男性読者が多く、次第に女性読者が増えていくものですが。
酒井:荒井由実時代のファンには男の人が多いんですよね。はっぴいえんどとかが好きだった人が聴いていたのでは。ファンじゃなくても、彼女がドライブの時にカセットを持ってきたとか、一般常識のような感覚で聴いていたとい思います。
――酒井さんが今後どんなテーマを選ばれるのか気になります。
酒井:来年の2月に新潮社から『地震と独身』という本を出します。震災後、報道されるのは家族の話ばかりだなと感じていたんです。震災後、独身者は何をして何を思ったのか、たくさんの独身者にインタビューして書いた一冊です。
(了)